孤高の猫娘リーシャ(優香と恵理子)
武闘会予選当日。
「私、先に行くから」
と、リーシャは荷物をもって家を飛び出した。
「ん。気合入ってるなー」
「ところで、何でリーシャはこの人の国の武闘会に出ようと思ったのかしら」
「そうだよね。見つかる危険を冒してまでね」
優香は、恵理子以下十人のメイドを連れて出かける。
くじで負けたアリーゼとナディアは留守番で、かなり悔しがっていた。
闘技場はものすごい人だった。
「じゃあ、僕は受付してくるね」
「頑張ってね」
「「「ご武運をー」」」
恵理子は観客席へと移動する。前の方はすでに埋まってしまっている。
それでもなんとか十一人で並べる席を探し、並んで座る。
闘技場には六つのステージが設置され、同時に試合が行われるようだ。
「マオ様、あれ!」
ミリーが見つけた。
「猫がいます。猫が!」
ステージの一つに、出場者に紛れて猫が立っていた。
「リーシャ?」
リーシャはステージの真ん中に立って、精神統一をする。その着ぐるみスタイルに、どの挑戦者も近寄ろうとしない。
が、一人だけ。
「あれ、リーシャ?」
その声に、顔を真っ赤にさせるリーシャ。
リーシャが恐る恐る振り返ると
「同じブロックになっちゃったんだね。お互い頑張ろう」
と、声がかかる。
「はい、にゃん」
リーシャはうつむく。
「それでは、予選会を始めたいと思います」
アナウンスがかかる。
優香がステージを見ると、三十人くらいがいる。それぞれすでに距離を取って牽制が始まっている。ちなみに、雑魚と思われているのか、優香とリーシャの周りには誰もいない。
「これから、各ステージにレフェリーが五人ずつ登場します。レフェリーの指示に従ってください」
レフェリー五人がステージに上がって来た。一人がステージの真ん中に、四人が四隅に位置どる。
真ん中に来たレフェリーがルール説明をする。
魔法以外なんでもあり。場外は失格。気を失っても戦意喪失も失格。レフェリーストップも失格。などなど。
再びアナウンスがかかる。
「それでは、予選会を開始したいと思います」
会場から大歓声が上がる。
「それでは、開始します。始め!」
優香とリーシャは真ん中で背中合わせになっている。
「誰も来ないね」
「雑魚扱いかしら」
そんな二人にレフェリーが声をかける。
「やる気がないなら失格にするぞ」
「いやいや、あります。じゃあ、行ってきます」
「私も」
と言って、優香もリーシャもステージの隅の方で戦っている参加者を突き落としにかかった。
優香は、相手の攻撃をよけながら投げ飛ばしていく。
リーシャは、問答無用に参加者を蹴り落としていく。
遅い。
リーシャはそう思う。あの二人とひたすらやりあってきたのだ。参加者が皆遅く感じる。
しばらくすると、ついに、ステージ上が四人になる。
「お前らもペアか」
上半身裸のいかつい男が声をかけてくる。同じ格好の男とペアらしい。
「そういうわけじゃないけどね」
「なんなんだその猫。お前のペットじゃないのか」
「うん。ちがうね」
「じゃあ、もらっていいのか?」
チリッ。
またこういうやつか。気持ち悪い。
優香は、無言で飛び出し、一気に距離を詰めると、その腹にこぶしを叩き込んだ。ついでに、お仲間の腹に足を蹴りこむ。
その二撃で二人が沈黙する。
レフェリーがストップをかけた。
アナウンスがかかる。
「おーっと、Cブロック、勝負が決まったようです。なになに、決勝進出を決めたのは、なんと、シルバーマイナスの冒険者、タカヒロと、孤高の猫娘、リーシャだー」
「「「「おー」」」」
と会場から歓声が上がる。
「なに、孤高の猫娘って!」
リーシャが顔を赤らめ、しゃがみこむ。
「知らない」
優香は、のの字を書いているリーシャに声をかける。
「行こう。お祝いしなきゃ」
「うん」
リーシャは首をかしげる。私の方が年上。実際には、優香は前世の記憶もあるので、リーシャより年上ではあるのだが、そんなことは知らない。
二人は試合を見ていた恵理子のところへ行く。
「あれ、ミリー達は?」
「換金よ」
「換金?」
「ええ、みんな、結構なお金をあなた達に掛けていたみたい。見事に増やしたみたいよ」
「そ、そう。それはよかった。じゃあ、みんなが戻ってきたら帰る?」
「そうね。そうしましょう。二人がライバルを見ていかなくていいならね」
「私は見ていくわ」
リーシャが言う。
「着替えてからにしなさい」
「……はい」
「じゃあ、私らは帰るから。気を付けて帰って来てね。お昼ご飯までにね」
「……はい」
私、マオよりも年上なのに……。
昼にリーシャが帰って来た。
「おかえり、どうだった?」
「おかげで名前が売れたみたいよ」
「そうなの?」
「そうなの、って、タカヒロ、シルバーなのに決勝進出なのよ。最後に倒したのだって、二人ともプラチナらしいじゃない」
「そっか。名が売れてきたか。リーシャは?」
「……ある意味売れたわ」
「孤高の猫娘だっけ?」
「やめて……」
「でも、何で猫の着ぐるみで?」
「……」
リーシャは顔を赤くしてうつむく。
「だって、だってあなた見たじゃない」
「ん?」
「私のペチパンツ……」
その後、二人と恵理子は、本大会に備え、素手に加え、剣や槍についてもファイトアンドヒールでの鍛錬を続けた。
ついに、武闘会本番を迎える。
「うーん」
「リーシャ、何を悩んでいるの?」
「猫で行こうかどうしようか」
「猫さ、あれパジャマだから、ほぼほぼ防御力無くない? それでいいの?」
「だから悩んでいるの。さすがに本戦じゃ、破れるかもしれないのよね」
「そうだよね、破れでもしたら」
「お気に入りなのよ。あれ」
お気に入りだったんだ。という、誰もからの心の突っ込み。
「じゃあ、いつものゴスロリでいいじゃない」
「あれ、一張羅なの」
「あの、本番になって言うこと?」
リーシャが見回す。
それに察する優香。
「まさか……」
「そう。そのまさか」
「メイド服で?」
「……違います。マオ、あなたのそのコート貸してください」
「え、いやよ。これ、パパからもらった大事な団服なんだから」
「ミリー……」
「いやです。これはタカヒロ様とマオ様から買っていただいた大事なもの」
「じゃあ、僕のを着る?」
「「「ダメです」」」
ミリー達から大反対の声が上がる。
「タカヒロの男性用じゃ、きっと胸が苦しくて……胸が苦しいの、違う意味かしら」
リーシャが首をかしげる。その頬が少し染まっていく。
「「「違わないから」」」
「ミリー、この街にキザクラ商会ってあった?」
「はい、あります」
「行きがけに寄って、ダメだったら、ミリーの貸してあげてくれない? 新しいの作ってあげるから」
「そういうことなら、致し方ありません」
結果として、キザクラ商会に在庫があった。
「なぜだ。オーダーメードのはずなのに……」
「ふんふーん、いいじゃない、あったんだから」
リーシャはご機嫌である。ちなみに、ゴスロリの上に着ているため、コートが少し膨らんでいる。
「その頭はどうするんだ?」
「観客の期待に応えるわよ」
「あ、そう」




