それで!(優香と恵理子)
「えー!」
「大丈夫だったの?」
宿にて、狩りの顛末を聞いた優香と恵理子が声を上げる。
「はい。見ての通りです。ブリジットに命を救ってもらいました」
「そんなのたいそうなことじゃない。家族として当たり前のことをしただけだ」
リーシャの軽い答えに、ブリジットがあわてて否定する。
「ブリジット。私からもお礼を。ありがとう」
「僕からも。ありがとう」
恵理子と優香がそろって腰を曲げた。
「あの、優香様、恵理子様。私達家族です。そんな他人行儀なお礼の仕方やめてください」
ブリジットが手をぶんぶんと振る。
「そうね。そうだったわね。でも、感謝するわ」
「そうだよ。ありがとう。ブリジット」
「私自身もお二人に命を救われた方ですから」
ブリジットは、ほほを染めてそっぽを向いてしまった。
今日の夕食は、ベルが狩った野鳥だ。
「うーん、おいしっ!」
リーシャが野鳥のソテーをほおばりながら喜びの声を上げる。
「よかったです」
ベルが笑みを浮かべて答える。だが、
「ベルは魔力量の増大が課題な」
「ガーン」
トリシャの指摘に、がっくりするベル。
「まあ、みんなと一緒に訓練すれば、すぐに大きくなるよ」
と、優香がフォローを入れた。
あはははは。
あははははは。
全員がそろい、全員が笑う。そんな食事が、そんな家族が、そこにあった。
食後、部屋でくつろぐ優香と恵理子。
「優香様、お願いがあるのですが」
リシェルとローデリカが優香と恵理子の部屋へとやって来てお願いをする。
「どうしたの? お金ないの?」
「いえ、違います」
リシェルが否定し、ローデリカが後を継ぐ。
「もう少し、この街に滞在させてください」
「どうして? 隣の国に行きたいと思っていたんだけど」
「あの、リーシャ様とブリジット様がメイド服を燃やしてしまわれて……」
「この街のキザクラ商会に注文を出したのね」
恵理子が察する。
「はい。そう言うことです」
「わかったわ。どれくらい?」
「実は、夕方に注文をしてきましたので、明後日には」
「それじゃ、明後日の出発にしましょう」
「「ありがとうございます」」
リシェルとローデリカが部屋から出て行くと、代わりにリーシャが入ってきた。ブリジットと一緒に。
「優香様、恵理子様、ごめんなさい」
リーシャが頭を下げる。
「ん? どうしたの? 確かに危なかったけど、無事だったじゃない。それに、メイド服だって、注文中なんでしょ?」
「そうではないのです」
リーシャはうつむいたまま続ける。
「お二人より先に、ブリジットにキスをされてしまいました」
「「……」」
優香も恵理子もどう答えていいかわからない。
「ですから!」
リーシャが声を上げる。
「お二人のチューをこれから!」
と言って、リーシャは恵理子に飛びかかった。
ゲイン!
「あー!」
窓から落ちていくリーシャ。
「まあ、リーシャらしさが戻っていて私としては嬉しいけど」
と、リーシャを蹴とばして窓から突き落としたにもかかわらず、手をパンパンと払う恵理子。
「で、ブリジットはどうしたの? まさかと思うけど」
「い、いえ。決してリーシャと同じではなく。あの。もう一度言いたくなったんです」
ブリジットが腰を折って頭を下げる。
「私を。私を助けてくださり、ありがとうございました」
優香と恵理子は顔を合わせ、そして二人同時に同じことを言った。
「「なんもよ」」
「は?」
ブリジットが思わず目を丸くして顔を上げる。
「気にしないで、って意味。私達もブリジットがいてくれるおかげで楽しいんだから。リーシャも助けてもらえたしね。だから、お互い様。なんもよ」
恵理子が笑う。
その一方で、優香が真剣な顔をしてブリジットに言う。
「だから、お願い。ブリジットも危険なことはしないで。私達にはブリジットも必要なの。いてくれないと困るの。私達は家族なのよ」
「はい。ありがとうございます」
「だから、お礼なんていらないから。全くもう。ブリジットはまじめなんだから」
[私、久しぶりに泣きました。リーシャの呼吸が戻って。リーシャの意識が戻って。怖かったんです。リーシャを失うことが。嬉しかったんです。リーシャが戻ってきたことが]
ブリジットがうつむいたまま涙する。仮面の下から、ぽたりぽたりと涙が落ちる。
優香がたちあがり、ブリジットを抱きしめる。
「ブリジット、改めて言うね。リーシャを、家族を助けてくれてありがとう。でも、覚えておいて。ブリジット、ブリジットも家族の一員なの。守られるべき立場なの。だから、私達が必ず、貴方を守るわ。だから、無理しないで」
「う、うう……」
ブリジットは、歯を食いしばって泣く。
優香はブリジットが落ち着くまで髪をなで続けた。
ベッドの中でブリジットは考える。が、それが口に出てしまう。
「優香様と恵理子様って、私より年上みたいだ」
そのつぶやきに答えるのはリーシャ。
「そんなの、今気づいたの? ずっとそう思っているよ、私。優香様も恵理子様も私よりずっと年下だけど、でも、それでも、時々お母さんみたいだもん。年を取っているっていう意味じゃないよ。落ち着いているというか、安心できるって言うか」
「そうだな。お二人とも、勇者とか聖女とか呼ばれているけど。本当にそうなんだろうな」
「それも今更。神様だって言われても、私、信じるよ」
「ふふ。そうだな」
「あ、ブリジット、笑った」
「ん? そうか?」
「うん。笑った。今日、ブリジットはいっぱい笑った気がする」
「そうか? そうかもしれないな。これもあの二人の。いや、みんなのおかげだな。ああ、私は幸せだ」
「それも今更」
あはははは。
あはははははは。
翌朝、リーシャの部屋のドアがノックされる。
「はいはーい」
リーシャがドアを開けようとする。しかし、
「リーシャ様、このままで」
と、ドアの向こうのリビアが言う。
リーシャは、ドアを開けるのをやめて、その場に立つ。
すると、リビアが話し出す。
「リーシャ様。私は、リーシャ様を一目見て好きになりました。結婚して欲しいと思いました。ですが、それはもうやめます」
リビアは少し声を大きく、そして決意を乗せて宣言する。
「私は、リーシャ様を目標に頑張ります。リーシャ様のように人を助けられるように強くなります。私は、リーシャ様には追い付けないかもしれない。ですが、いつかきっと、リーシャ様の前で胸を張れる人になって見せます」
リビアは声のトーンを落とし、最後にお礼を言う。
「リーシャ様。私の命を助けてくれてありがとうございました。それから、私に目標を、生きる糧を与えてくださり、ありがとうございました」
リビアの足元に何粒もの涙が落ちる。
「それでは、リーシャ様。また会う日まで」
リビアは、最後にもう一度頭を下げ、そして、去って行った。
「ねえ、ブリジット」
リーシャが首をかしげてブリジットに尋ねる。
「なんだ?」
「私、振られたの?」
「違うぞ。恋の目標から人生の目標へレベルアップだ」
「何それ」
「リーシャがそれだけすごいってことだよ」
「ふーん」
「それとも振られたくなかった?」
「ううん。どうでもいい。私は、優香様と恵理子様がいればそれで……違う」
リーシャは恥ずかしそうに視線をそらして続ける。
「優香様と恵理子様、それにブリジットとみんながいればそれで」
わんも「いつも読んでくださりありがとうございます。明日からまた千里と桃香のターンとなります」
優香「えっと、わんもさん。私達、ほとんど出て無くない?」
恵理子「そうよ。ワンちゃんと戯れただけじゃない」
わ「そんなことないですよ。立派な北海道弁を披露していたじゃないですか」
優&恵「「なんもよ……」」
わ「ということで、優香さんも恵理子さんも気にしてない(なんもなんも)ということで、千里と桃香のお話へと移ります」
優「そういうことじゃないんだけど」
恵「……で、千里ちゃんと桃ちゃんは?」
千里「すぴー、すぴー」
桃香「あ、ちょっと待ってください、今、起こしますから」
ドゴッ!
千「はうっ!」
桃「それでは、私達のターンです。よろしくお願いいたします」
千「え……私、何もしゃべってない……」




