リーシャ、帰ってこい! お前の役目はなんだ!(優香と恵理子)
ブリジットは、水に潜っていく。その視線の先に、リーシャが沈んでいくのが見える。
リーシャはもう目すら開けていない。
ブリジットは、何とか沈み行くリーシャに追いつき、背中側からわきの下へと手を回して抱きかかえる。そして、水面を目指す。
ぶはっ!
ブリジットが水面に顔を出すと同時に、大きく息をした。
ブリジットはリーシャを持ち上げ、リーシャの顔を水面に出す。
しかし、リーシャの肌はすでに白を通り過ぎて青く見える。
しかも、目も口も開いていなければ、呼吸もしていない。
「トリシャ!」
ブリジットは陸上で待機しているトリシャ達に向けて叫ぶ。
「はい!」
「火を焚け! 私とリーシャのメイド服を燃やしていい。残りの者、薪を取ってこい!」
「「「はい!」」」
パーティの制服ともいえるメイド服を燃やすのは忍びない。
しかし、確かにそれしか今は燃やすものがない。
トリシャは、メイド服を二着を丸めて置き、
「ファイアボール!」
と、メイド服に火をつけた。
ブリジットは、何とか岸までリーシャを引っ張ってくると、地上にあがり、リーシャを持ち上げる。
そして、火の横にリーシャを寝かせる。
「トリシャ、あいつらにこっちを向かせるな!」
「はい!」
トリシャは、犬人族の騎士達に声を上げる。
「こっちを見たら殺す!」
ブリジットは、リーシャのキャミソールとペチパンツを脱がせ、水を絞り、リーシャの体を拭いて行く。
「ブリジット様、それは私が!」
トリシャが代わってリーシャの体を拭く。
ブリジットの体はまだ濡れたままだ。
ブリジットは、リーシャの胸を押す。
一、二、三、四、五。
そして、大きく息を吸い込むと、リーシャの鼻をつまみ、顎を上げ、口を開いて息を吹き込む。
再び、胸を押す。
一、二、三、四、五。
そして、人工呼吸。
「ブリジット様、胸を押すのは私が!」
トリシャが両手で胸を押す。一、二、三、四、五。
ブリジットが息を吹き込む。
フーーーーーー!
一、二、三、四、五。
フーーーーーー!
一、二、三、四、五。
フーーーーーー!
……
「リーシャ、起きろ! 起きるんだ!」
ブリジットは叫びに近い声をかけながら、人工呼吸を続ける。
しかし、リーシャは全く動く気配がない。脈すら戻らない。
「リーシャ! 目を覚ませ!」
大声で声をかけては人工呼吸をする。
「リーシャ、お前はこんなところで死んではいけない!」
ブリジットは何度も何度も声をかける。
「リーシャ! お前の役目はなんだ! まだ成し遂げていないだろう!」
「リーシャ! お前は優香様と恵理子様のそばにいるんだろう! お二人とずっと一緒にいるんだろう!」
「リーシャ! お前はお二人を悲しませるのか!」
「リーシャ! 帰ってこい! 死ぬな!」
薪を集めてきたウルリカたちが火を大きくしていく。
そして、ブリジットとトリシャ二人の救命作業を見守る。
「リーシャ様!」
ウルリカが声を上げる。
「リーシャ様!」
オッキーが声をかける。
「リーシャ様!」
マティが呼びかける。
何度も何度も人工呼吸を繰り返したブリジット。
しかし、鼓動も呼吸も戻らないリーシャ。
ブリジットは叫びながら、リーシャを抱きしめる。強く強く。
「リーシャー!」
げほっ!
リーシャが水を吐いた。
「り、リーシャ!」
ブリジットがリーシャを確認する。
「トリシャ、続ける!」
「はい!」
一、二、三、四、五。
フーーーーー!
一、二、三、四、五。
フーーーーー!
……
ゲホゲホ!
ブリジットがリーシャの胸に耳をつける。
トクン、トクン、トクン……
「リーシャー!」
ブリジットはリーシャを抱きしめて大声を上げる。
「ブリジット様! 団服を着て火の前に! それから、ヨーゼフ、ラッシー、二人を温めて!」
トリシャが叫ぶ。
「「わふ!」」
ブリジットはリーシャに団服を着せ、自分も着ると、リーシャを抱きしめたまま、火の前に座った。
その左右にヨーゼフとラッシーが座って二人を温める。
「ヨーゼフ、ラッシー、ありがとう」
ブリジットは二頭にお礼を言う。
ブリジットは、抱いているリーシャの顔を見る。
未だに意識は戻らないが、確かに呼吸をしている。
「リーシャ……」
ブリジットは腕の中のリーシャのほほに自分のほほを添え、リーシャと少しでも熱を共有しようと試みる。
そして、つぶやく。
「リーシャ、お前はかっこいいな。だから、死ぬな」
どれくらい時間が立っただろうか。
リーシャの肌が色を取り戻してきた。
ブリジットもそうなると周りが見えるようになってくる。
「トリシャ、リビアの様子はどうなんだ?」
「はい。向こうはすでに意識を取り戻したようです」
「そうか。それじゃ、今日はこれで帰っていいのか聞いてこい」
「はい」
トリシャが犬人族の騎士の方へと走って行った。
ブリジットは、再び腕の中のリーシャに視線を移す。
「リーシャ。そろそろ帰るぞ。お二人に会う前に目を覚ました方がいいんじゃないのか?」
そう、優しくリーシャに語りかける。
しかし、まだ、リーシャは目覚めない。
そこへ、犬人族の騎士の一人がやってくる。背中を向けて後ろ向きに。
こちらを見ないように気を遣っているのだろう。
「この度は、リビア様を助けてくださり、ありがとうございました。おかげさまで、リビア様は何とか意識を取り戻しました。感謝いたします。先ほど、トリシャ殿から提案をいただきましたが、私どもも、これで帰路につきたいと思います。リーシャ殿はいかがでしょうか」
「まだ目を覚まさないが、呼吸は安定してきた。もうしばらく休んだら、帰れると思う。だが……」
と、ブリジットは周りを見回す。
「トリシャ、ウルリカ、この魔物の処理をするのにどれくらい時間がかかる?」
ブリジットが二人に聞く。
「ざっと五百以上います。今日中には終わりません」
「燃やすことは?」
「私たちは魔法をさほど撃っていませんので、まだ火をつけることが出来ます」
「では、素材の回収をできるだけして、後は燃やしてしまおう」
「はい。承知しました」
「ところで、エヴァとベルは?」
「二人とも、まだ倒れています」
「そうか。帰るまで寝かせておいてやれ」
「はい」




