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今日は茶トラのリーシャ。それとベルの新技(優香と恵理子)

 翌朝、王子が馬車で宿に乗り付けてくる。六名の騎士を連れて。


 宿の従業員がリーシャを呼びに来る。


「お客様、お迎えが来ております」

「リーシャ、お迎えが来たってさ。ほら、ちゃんと服を着て」


 ブリジットがリーシャの身だしなみをチェックする。


「今日は茶トラでいいの?」

「うん。茶トラで」


 リーシャは茶トラの猫耳カチューシャを頭に、しっぽをメイド服にくっつける。


「ほら、団服も着て」


 ブリジットが丁寧にしっぽを団服の穴から通して、団服をリーシャに着させる。


「ブリジット、ありがとう」

「一応、王子様案件なんだから、ちゃんとしなきゃね。へたすると国際問題だから」

「はーい」

「武器持った?」

「うん。大丈夫」

「じゃ、行こう」


 ブリジットは仮面をつけて部屋を出る。

 リーシャもブリジットについて部屋を出た。


「今日は、私がお付きの役だから」

「ありがとう、ブリジット」




 宿の玄関前に出ると、高級な馬車が横づけされており、そして、その前にリビアが立ってリーシャを迎える。


「おはようございます。リーシャ様。さ、狩りに参りましょう。こちらへどうぞ」


 そう言って手を差し出し、馬車へリーシャを導こうとするリビア。

 しかし、ブリジットが先に馬車に乗り込み、安全確認をする。

 まあ、王子の馬車に危険もないと思うのだが、誰が潜んでいるかわからない。

 王子と騎士達は、ブリジットのその無礼な行動に眉を顰める。


 安全確認を終えたブリジットは、馬車から手を差し伸べる。

 リーシャはその手を取って馬車に乗り込んでしまう。

 もちろん、そんなことをされては、先に手を出した王子の立場がない。

 だが、リビアは思う。リーシャはメイドだから、貴族の作法などは知らないのだろうな、と。


 一方で、騎士達は記憶をたどる。

 あれ、茶トラだっけと。


 トリシャとウルリカ、姫様隊は馬車の外を歩く。獣王国の騎士と一緒に。


「それじゃ、行ってきます」


 と、リーシャが見送りに来た優香と恵理子に馬車から手を振ると、馬車が動き出した。

 



 馬車は、運河にかかる橋をいくつもわたり、南の門から街を出た。

 そして、そのまままっすぐに南の森へと向かう。


 南の森は、東西に長く伸びており、その森の向こう側はドレスデンの領土となっている。


 森に向かう街道を歩いているときに、どうしてもトリシャは気になることがあった。

 騎士達の恰好が軽装すぎると。

 武器としてはナイフを持っている。弓を持っている騎士もいる。

 だが、服は。

 長ズボンにブーツはいい。だが、上半身はどう見ても半袖だ。腕が出ている。

 季節はまだ春になったばかり。気温も高くない、というか、肌寒い。


「あの」


 トリシャは思い切って聞く。


「寒くないのですか? 半袖で」

「ん? まだ冬毛だからな」

「……」


 どこが冬毛なんだろう、そう思うトリシャ。


「そうですか」


 何とかそれだけを返す。見せてくれとも言えない。




 そうこうしていると、森にたどり着く。

 さほど遠くはなかった。


 森の入口に馬車を止め、リーシャは馬車から飛び降りる。

 当然先に降りて、手を差し出したかったリビアは、残念がる。

 しかし、リーシャはそういうのは待てない。待つ気もない。目的は狩りなのだ。


「リーシャ様、それでは、森に入ります。我が騎士が先を行きますので、ついて行きましょう。森の中に小さな湖があり、そこが狩場となっておりますので」

「ん。わかった」


 リーシャはそれだけを返す。

 野生の鳥、野生の鳥、それを楽しみに、リーシャは騎士達について森へと入っていく。


「リーシャ様はどんな食事がお好きなのですか?」

「肉」

「鳥ですか?」

「鳥、シチメンチョウ、魚、マス、ロブスター」

「それらはどこで食べたのですか?」

「エルト?」


 リビアの質問に淡々と答えるリーシャ。

 ブリジットは思う。

 リーシャ、全く王子に興味がないんだなと。その答え方は、半分拒絶だなと。わざとだなと。


 実際リーシャは、どこへであろうとクサナギの面々で行けるならそれが一番いいと思っている。

 よって、狩りに同行はしても、リビアに対して関心が全くないようにふるまっている。実際に関心はない。

 だが、これが国際関係の問題であることを理解してはいる。

 本来なら、すぐに森に入っていきたいところをぐっと我慢して、騎士について行っているのはそのためだ。

 こんなちんたら歩いているくらいなら、とっとと狩りをしたいと思う。

 だから、ただただ肉料理の妄想に集中する。




 姫様隊に、そわそわしているメンバーが一人いる。

 ベルだ。

 膨らんだ団服のポケットをポンポンしている。

 ベルは、船の中で風属性魔法をずっと練習していた。

 ところが、もともと小石もアイスボールも風を操作して投げていたことから、エアバレットもウインドカッターも簡単に習得できてしまった。

 そんなベルだったが、不満が一つ。


 やっぱり、投げないと気が済まないのだ。


 そこで、優香と恵理子に相談した。何か投げるものはないのかと。


「小石でいいじゃん」


 と言った恵理子に対し、


「いえ、土属性魔法は封印しました。だから、別なものを」

「アイスボールは?」

「アイスバレット、つまり、水属性魔法で氷を飛ばすのが次の課題です」

「「うーん」」


 そう悩んだ恵理子が作った物。

 紙手裏剣だった。


 それを見たベルは、一瞬で気に入った。

 恵理子に折ってもらった手裏剣を右手の親指と人差し指でつまむと、それを上から下に振り下ろすように投げた。風属性魔法をまとわせて。

 その結果、


 カッ!


 という音を立てて、紙手裏剣が壁に突き刺さった。

 次いで、同じように握ったかと思うと、左に構え、手の甲から先に振るように手裏剣を投げ、同じように壁に突き刺した。


「「おおー」」


 恵理子と優香が感心したのも、ベルを調子に乗せた。

 まあ、二人とも紙の手裏剣が壁に刺さるなんて思っていなかった。


「恵理子様、紙手裏剣の折り方を教えてください」

「紙は高価だからちゃんと拾いに行くのよ」

「はい」


 そう返事をして、ベルが手裏剣の折り方を習っていると、その横から、折り鶴を差し出す優香。


 バシッ!


「それは違うから」


 鶴は恵理子に否定された。

 ベルが紙の鶴に興味を持ちそうだったが、恵理子に諭される。


「ダメよ、あれは。折るのが大変だし、持ち運ぶのにかさばるわ」


 鳥を飛ばすのは楽しそうなのに、と、ベルは思った。

 しかし、恵理子にダメと言われては仕方ない。


 そういうわけで、ベルの団服のポケットには、紙手裏剣がたくさん入っている。




 さてさて、ベルは探査魔法も得意だ。

 だが、単純に魔力を広げると野生動物は逃げる。よって、ベルは、瞬間的に魔力を放出する。

 瞬間的な魔力の通過に、野生動物は、それが探査魔法だと気が付かないようだ。

 結果として、


「オッキー」


 と、ベルは、オッキーに声をかけて隊列を外れて森に入っていく。

 ベルに黙ってついて行くオッキー。



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