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何事もなくアクウェリアに到着……だけど(優香と恵理子)

「でも、どうやったら……」


 メリッサが首をかしげる。


「うん。ゆっくり練習しましょう。まずは、つむじ風をイメージして。あの、秋に枯れ葉が舞っているあれね」


 そう言って、恵理子は右手をピストルの形にして、人差し指を上に向ける。

 そして、その人差し指の上に左手で紙風船を持って行くと、その紙風船が右手の人差し指の上でくるくると回った。


「「「おー」」」


 三人が感心する。


「この一週間のトレーニングはここからね。ここからまずは」


 と言って、そのまま右手の人差し指を前に向ける。紙風船をくるくると回したまま。そして、恵理子が


「バン」


 と言うと、紙風船が回転したまままっすぐに飛んで壁に当たった。


「「「おー」」」


 三人は感心しきりである。


「それが出来たら」


 恵理子はもう一度上に向けた人差し指の上で紙風船を風魔法で回す。

 そして、


「見ていて」


 と言うと、サクサクッ! と、紙風船が粉々にちぎれた。


「「「え?」」」

「今のは、つむじ風の中に、風の刃をたくさん作って紙風船を切り刻んだの。ここまでできれば、こんなこともできるわ」


 恵理子はテーブルの上に並んでいた紙風船を、何の動作もなく、切り刻んでしまう。


「恵理子様、今のはもしかしてゼロ距離ですか?」

「ヴェルダ、よくわかったわね」

「これ、使う人、いるんですか?」

「うーん風の精霊様はよく使うわよ。ウインドカッターね」


 西の屋敷での卒業試験で、ドライアからさんざん撃ちこまれたウインドカッターだ。


「「「ウインドカッター……」」」


 ちなみに、千里達クサナギゼットでは、ローレル達エルフがウインドカッターを含め風魔法をよく使う。なぜか肉体を使った戦闘をすることが多いため、認知度が低いのだが。


「それじゃ、空気を当てる方は?」


 恵理子は優香に顔を向ける。なんて言うの? あの魔法、と。

 優香は悩んだ末、答えを出す、が。


「ドカンほ……」

「違うわ。エアバレット。そう。エアバレットよ」


 慌てて優香の発言を遮る恵理子。


「「「エアバレット」」」

「あの、恵理子様」


 ヴェルダが恐る恐る聞く。


「何?」

「ファイアバレットやアイスバレットは相手が撃って来ても実体があるからよけたり盾で防いだりしようとできるじゃないですか。このウインドカッターは、見えないからよけることも防ぐこともできません」

「そうね」

「じゃあ、撃たれたらどうしたら?」

「まあ、アイスバレットやランスよりも固くはないから盾とか鎧とかで防ぐのが一般的。ちなみに、みんなが来ている団服は、弱いウインドカッターなら防ぐわよ。じゃあ、どうやって相殺するかって言うと、魔力の流れを感じるしかないわ。まあ、とりあえず、自分達で使えるようになるところからかしら。その後に、お互い撃ちあってみたら? エアバレットの弱いやつを」


 怖すぎるんですが。そう思う三人。


「それじゃ、この七日間、頑張ってね。部屋の外でやっちゃだめよ」

「「「はい」」」


 返事をした三人はそれぞれ紙風船を手に持って立ち上がった。


 しばらくすると、アリーゼとナディア、マロリーにルーリー、そしてエヴァがやってきた。


「恵理子様、紙風船の作り方を教えてください」


 と。五人も風属性魔法にチャレンジするらしい。皆、負けず嫌いだ。




 船の上で、一日が経ち、二日が経ち。


「うーん。海賊とかなんのトラブルもないっていうのはいいけど。さすがに暇だね」

「そうね。でも休暇と思ってのんびりしましょう」


 優香と恵理子は甲板で景色を眺めている。


「この景色もあまり変わり映えしないな」


 山脈とその下に広がる巨大な崖。それを右手に見ながら船は進んでいる。


「マオ、あれ見て!」

「なにあれ?」


 優香が指を差した。

 海岸から離れて走行しているため、よくは見えない。だが、岩壁の一部分が真っ黒に染まっている。


「あの辺だけ岩の質が違うのかな」

「そうなのかもしれないわね」


 実際には、千里が巨大な炎で焼き焦がした跡なのだが。




 結局、七日間の航海を終え、アクウェリアに着いてしまう。


 アクウェリアは陸地と橋でつながった三日月のような出島があり、そこに船を着岸させるようだ。アクウェリアの街自体は、陸地に広がっている。


 着岸した船からタロとジロに引かせた馬車をおろす。


「こっちの大陸、シンベロスを走らせて大丈夫かなあ」


 優香が心配事を口にする。

 それに答えたのはトムだ。


「そのカヴァデール王国の旗を掲げて行けば大丈夫じゃないか?」

「本当に? 去年建国されたばっかりの国ですよ?」


 優香が確認をする。


「そういう情報が流れるのは速いものだ。もう、カヴァデール王国の紋章も知られているだろうさ」

「そうだといいんですけど」

「ま、何にしろ、護衛、お疲れ様」

「何もありませんでしたね」

「何もないのが一番だよ。ちゃんとギルドに寄って、報酬を受け取るんだぞ」

「ありがとうございました」

 



 アクウェリアは獣人の国の最東端にある街である。

 アルカンドラ大陸との貿易を行っていること、南にドレスデン王国、東にカイナーズ王国があることもあり、ムーランドラ大陸の物流の北の中心地ともいえる。よって、獣人の国としても大きな街の一つである。


「きれいな街だね」


 橋を渡りながら街を眺める。

 街の中は、複数の運河が半円状に走っており、虹のようなブロックを形成している。

 虹の中心部には、領主の屋敷や騎士や兵士たちの宿舎、高級な宿屋、店が並んでいる。そこから外に向かって住宅や庶民的な店が並ぶ。

 冒険者ギルドはというと、海側よりも陸側に需要があるため、最も外側、南の門に近いところに立っていた。

 よって、優香たちは、橋を渡り切った後は、まっすぐに南の門へといくつもの橋を渡って進むことになる。


「リーシャ、見てみてろ、リーシャがいっぱいいる。お仲間だよ。ここに残ったら?」


 ブリジットが猫人族を見てはリーシャに声をかける。


「猫耳をやめてプリムにしたからって、うらやましいなら猫耳付ければいいのに」


 と、リーシャはむくれるが。




 出島から橋を渡りきったところで、検問が行われていた。

 槍を持った猫人族の兵士が近づいてきた。


「はい、そこの変な犬が引いている馬車、こっちに来てー」


 そう、御者台にいるミリーに指示を出す。


 ミリーは、馬車を引いているタロのしっぽの動きが止まったことに気づく。

 タロは、その兵士について行く……が、


「はい、ここで止まってー」


 と、兵士が両手を広げて合図をしたところで、タロがさらに一歩近づき、


 カプッ!


 と、猫人族の兵士の頭を咥えた。


「「あー!」」

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