ド天然ボケへのお話(優香と恵理子)
優香と恵理子の部屋でベルは二人と向き合う。
「ベル。貴方の魔法について確認します」
恵理子が話し出す。
「は、はい」
「ベル。ストーンバレットの小石を出して」
そう言われて、ベルはポケットから小石を取り出して手のひらの上において恵理子に見せる。
「じゃあ、それ、しまって」
ベルは小石をポケットにしまう。
「じゃあ、アイスボールを出して」
ベルは、手のひらを上に向けて、シュン、とアイスボールを顕現させる。
恵理子は、そのアイスボールを手に取り、コップに入れる。
「ベル。今の小石とアイスボールの違いがわかる?」
「小石と氷ですけど」
「どうやって出したかは?」
「小石はポケットから。アイスボールは手のひらにシュンって」
「小石はポケットに入っている物を出すんだけど、アイスボールは魔法で出している実感ある?」
「え? はい。あります」
「じゃあ、小石を握った場合と、アイスボールを握った場合、その後はストーンバレットとアイスボールで何が違うかわかる?」
「小石を飛ばすかアイスボールを飛ばすかです」
「そう。どちらも飛ばしていることには違いがないわね」
「……えっと」
そう言われるとそうだな、とベルは思う。
「あなたの使っている魔法だけど、まあ、天然ボケ属性はその通りだけど、魔法じゃないわ」
「天然ボケ……」
天然ボケを肯定されてがっくりと肩を落とすベル。
「ベルが使っている魔法は、水属性魔法と、風属性魔法よ」
「風属性?」
「そう、学園で習わなかった?」
「……言われたような言われなかったような」
「思い込んでいたのね」
「じゃあ、私は土属性魔法は使えないのですか?」
「うーん。その言い方は違うわね。ベルが土属性魔法を使えるかどうかというと、多分だけど、使える。ただし、貴方が使っているストーンバレットは土属性魔法じゃなくて、風属性魔法ね。つまり、土属性魔法を使っていない」
「がーん」
ベルが口をあんぐりとする。
「それから、ベルのアイスボールだけど。アイスボールを出すところ、そこまでが水属性魔法。そして投げるところ、これが風属性魔法」
「……」
「じゃあ、エヴァが使っているアイスランスは?」
「あれはアイスランスを生むところから射出するとこまで合わせて水属性魔法」
「何が違うんですか?」
「じゃあ見てて」
恵理子は部屋の窓を開ける。
そして、右手でピストルの形を作ると、
「アイスバレット」
と言って、人差し指の先に顕現させた氷の弾丸を窓の外に撃つ。
「これが水属性魔法」
恵理子は手のひらを広げる。
「アイスバレット」
次に恵理子がそう詠唱すると、手のひらに氷の弾丸が現れる。
言っていることは同じだが、やっていることは違う。
それを右手の親指と人差し指でつまんで窓の外に向けて
パシュッ!
と、窓の外に飛ばした。
「これが水属性魔法で作った氷の弾丸を飛ばす風属性魔法」
「……」
「ベルの魔法がどっちかわかるよね?」
「はい。後の方です」
ベルはそれでも聞きたいことがある。
「恵理子様は、どうして振りかぶらずに風魔法で氷の弾丸を飛ばせたのですか?」
「……」
優香が固まる。ド天然だ、と。
「それがイメージよ。ベル、貴方は振りかぶって投げるっていうことをしないと手に持っているものが飛ばない。そう思い込んでいる。だから、それをしないと風魔法が発動しない」
「イメージ?」
「そうよ。イメージ。魔法はなんだってイメージよ。だから、さっき言ったわ。ベルは土属性魔法を使えるかもしれないと。それはイメージ次第だからよ」
「それで、私、どうしたらいいんでしょう」
「私としては、ベルが得意な風属性魔法をまずは極めてみたら、と、思うけど」
「風属性魔法が得意?」
今まで使っているという自覚のなかった属性の魔法が得意だと言われて複雑な表情を浮かべるベル。
「そうよ。だから、この船に乗っている一週間、それを鍛えましょう」
「は、はい」
「それと、魔力操作については、エヴァに教えてもらって毎日、いついかなる時も練習して」
「魔力操作?」
「それも学園で習わないのね。ここだけの技術だから、他に漏らさないでね」
「わかりました。それをエヴァに教えてもらいます」
ベルが立ち上がろうとする。
「あ、ベル、待ってって。風属性魔法の練習をするから」
「そうでした。すみません」
「だけど、立ったついでだから、ヴェルダとメリッサも連れて来て」
「はい。行ってきます」
ベルは甲板に上がり、ヴェルダとメリッサを呼ぶ。
「ヴェルダ、メリッサ、マオ様が呼んでいるから一緒に来て」
「「はーい」」
ヴェルダとメリッサはベルに駆け寄った。
ヴェルダとメリッサがベルと一緒に恵理子の下に戻る。
「来たわね」
「はい。お呼びとのことですが」
ヴェルダが恵理子に聞く。
「うん。貴方達二人は、陰に隠れて仕事をしてもらうことが多いから、ベルと一緒に風属性魔法を覚えたらどうかなって」
「風属性魔法ですか?」
「そう。ベルが得意みたいだから、一緒にと思って」
「今一つイメージがわかないんですが」
「そうよね。見ていて」
ベルがヴェルダ達を迎えに行っている間に、優香と恵理子は紙風船をいくつも作っていた。それをテーブルに並べる。
そして、恵理子は右手をピストルの形にして、人差し指を紙風船の一つに向ける。
「まず、一つ目ね。いい? 三、二、一、バン」
と、恵理子が口で音を表現した瞬間、紙風船が吹き飛んだ。
「「「……」」」
「空気の弾を紙風船にあてたのよ」
恵理子は別の紙風船に指を向ける。
「そして、こっちが本命かしら。いい? 三、二、一……」
サクッ!
紙風船が真っ二つに切れた。
「「「え?」」」
「今のは空気を圧縮して刃を作り、それを飛ばしたの」
「恵理子様、これ、見えない刃なんですけど。こんなのが飛んで来たらものすごく怖いんですけど」
「でも、あなた達には有用な魔法じゃない?」
「はい。そうです。是非、習得したいです」
ヴェルダとメリッサが意気込む。
「私も、私も使えるようになります」
ベルも意気込みを見せた。




