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キキとララ(千里と桃香)

 翌朝、ウォルフが船に乗り込んでくる。


「千里、桃香、クサナギゼット、今回は、この船団の護衛を受けてくれてありがとうよ。フィッシャーの街までおよそ一週間。よろしく頼む」


 千里は小さくうなずく。


「ちなみにこの船を操船するのは俺と俺のクルーだ。この船には、護衛のクサナギゼットを乗せている他、荷物としては、麦や大豆など、奪われてもダメージの少ないものを積んでいる。また、軽くしているから動きも速い。もし、海賊が現れたときは、他の船団と海賊の間に入り込んで、迎撃、もしくは、この船を捨てて逃げる。いいな」


 千里は小さくうなずく。


「おいおい、大丈夫か?」


 千里の様子に怪訝な顔をするウォルフ。


「まあいいや。出港するぞ」


 そう言って、ウォルフは甲板へと出て行った。




 船が揺れ、船が動き出したことがわかる。

 千里は未だベッドの上だが、これは、護衛として受けた仕事。

 桃香はローレル達を連れて甲板へと移動する。


 船団は合わせて七隻。ゆっくりゆっくり港を出ていく。

 そして、沖へ沖へと船は進む。




 岸が遠くに見える程度に岸から離れ、船団は西へと向きを変える。大きく帆をはり、船は進む。


 桃香は決して落ち込んでいないわけではない。だが、こういう時の千里のフォローをするのは自分の役割だ。


 桃香は船の舳先へと足を進める。


 まだ春の海。風は冷たい。だが、潮風が気持ちいい。前世は海の街函館で一生を過ごした。潮風を浴びると、それを思い出す。


 千里にも潮風を浴びさせようかと思うが、今はまだ早いのかもしれない。


「桃香、いいのか?」


 ローレルが聞いてくる。


「誰に言っています? 千里さんが休んでいたって、ローレル達がいて、フローラにルシフェにレオナ、ジョセフ、ヨン達。最強じゃないですか。何が来たって怖くありませんよ」


 桃香は笑って見せる。


「そうだな。私達だけでもなんとかなるってところを見せるかな。桃香も休んでいていいぞ」


 ローレルも笑う。


 だが、お互い、本心から笑えていないことは明らかだった。苦い、苦い感情が、心を乱す。




 船は、アルカンドラ大陸とムーランドラ大陸をつなぐどこまでも続きそうな山脈を左手遠くに見ながら進む。

 山脈の麓には森、そして、切り立った高い高い崖が海から立ち上がっている。

 まるで、空まで届きそうな壁だ。

 その崖も、時に入り組み、入江を作っている。


 陸から見る山脈とまた違う、壮大な景色に桃香は見入る。

 千里さんも見たらいいのに。


 船は進む。西へ。




 昼が過ぎ、夜になる。


「言うの忘れていたけどな、夜も船を走らせるぞ。だから夜中もローテーションを組んでみてくれな」


 ウォルフが食事中の桃香達にお願いをしてきた。


「夜の間はキキとララが見ていますので、大丈夫です」

「そうか。ちゃんと警戒をしてくれるならそれでいい」


 ウォルフは食堂から去っていく。




 船は夜も進む。灯りをともして。

 灯りをつけていないと、真っ暗な中、船団がバラバラになってしまいかねない。

 だが、これは諸刃の剣だ。ある意味、海賊に場所を教える行為だからだ。

 とはいえ、桃香たちは就寝する。キキとララに見張りを任せて。


「いい気なもんだな、今時の護衛は。なあ、キキ、ララ」

「「キュイ」」

「お、答えてくれるのか。かわいい奴め」


 ウォルフが元の小さいサイズになっているキキとララをなでようとすると、キキとララは、それをそっとよけた。


「チェッ」


 ウォルフは口を尖らせた。




 翌朝。風向きが真西にかわる。


「嫌な風だな」


 ウォルフがつぶやく。


「どうしてですか?」


 桃香がウォルフに聞く。


「完全な向かい風だと、こっちの足は遅くなるし、もし、海賊が来たら、対処がしづらくなる」

「危ないのです?」

「俺らの腕をもってすれば、なんてことないけどな」


 船はビーティングしながら風上へと進んでいく。




 だが、嫌な予感は当たるものだ。


 カンカンカンカンカン


 鐘の音が鳴り響く。


「正面から海賊船、二隻!」


 マストの上から前方を見ている乗組員から声がかかる。


「桃香! 前方から海賊船が来る。予定通り、この船が迎え撃つがいいか?」

「もちろんです」


 桃香は舳先に立ち、遠くに見える海賊船を見つめて悩む。さて、どうしようかと。

 護衛を引き受けたとはいえ、海賊船に出会った場合、どうしたらいいか。


「ウォルフさん、先に聞いておきます。作戦は?」

「無難な方法はすれ違う。すれ違ってしまえば、風上側に位置を取る俺達の方が足が速い。これは、腕の問題な。もし、取りつかれた場合は、海賊の殲滅と船の破壊。それが出来なきゃ負けだ」

「なるほど。沈めてしまっていいというわけですね」

「簡単に言えばそうだ」

「わかりました」

「……」


 ウォルフは気が付く。

 そういえば、このパーティもドラゴン族を従えていたと。


「ところで、根元から絶つにはどうしたらいいですか?」


 おもむろに桃香がウォルフに聞く。


「海賊の拠点がどこにあるのかわからないんだ」

「なるほど」




 二隻の海賊船が、はっきりと見えてくる。前後に並んでこちらへまっすぐにやってくる。

 こちらの船団六隻は、北西方向へ舵を取り、なるべく早く遠ざかろうとする。

 一方で、ウォルフの船は細かいタッキングを繰り返し、海賊船へと向かっていく。


 桃香が声を上げる。


「フローラはブレス、私、ルシフェ、レオナは魔法攻撃を準備。残りは対人戦用意!」

「「「「はい!」」」」


 海賊船が近づいてきた。

 桃香は攻撃魔法を撃ちこむことを決めた。

 その瞬間、


「「グルルルル」」


 そううなって、キキとララが体を大きくした。

 そして、キキとララは、海へと飛び降り、海賊船へと向かって走り出す。足場となるように海を凍らせながら。


「あ!」


 桃香が思わず声を上げる。そして、


「ブレス、魔法の砲撃停止!」


 そう言って、桃香は船室に走り出す。


「千里さん、千里さん!」


 突然部屋に飛び込んできた桃香に千里は驚く。


「桃ちゃん……」

「千里さん、キキとララが海賊船に向かって飛びだしました。船を降り、海を走っています。どういうことかわかりますか?」


 千里は目を見開く。


「千里さん、ミケを追うように指示しましたよね。あの子ら、まだその指示に従っているんです。きっとですけど。今、風上に海賊船がいます。そっちに向かってキキとララが走っています!」


 千里は、ベッドから飛び降り、団服に手をかける。

 そして、船室を飛び出した。


 千里は船の舳先に立ち、


「キキ! ララ!」


 と叫んでも、もうキキとララが止まることはない。

 千里は、キキとララを追って海へと飛び出した。

 それに次いで、桃香も追いかける。


 その光景を見ていたウォルフ。


「あいつら、何をやっているんだ? 海の上を走っているぞ?」


 これに答えたのはフローラ。


「千里達は海を凍らせて足場を作り、走っているんだ」

「そんなことできるの?」


 ウォルフは思わず周りを見回す。だが、クサナギゼットの誰もが首を横に振る。ただ、フローラだけが、


「できるが、私の場合は飛んだ方が速い」


 そう。答えた。


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