ミリーのメイド~リーシャを拾う(優香と恵理子)
詰所の前に来ると、ちょっとした騒ぎが起こっている。
フードを頭までかぶった人、女性? が、衛兵に追い出されている。
二人は、女性に近寄って、
「どうされました?」
と、声をかける。
女性は涙目になって、
「武闘会に出たいのですが、申込書をもらえなくて」
「冒険者ギルドではどうです?」
「私、冒険者じゃないんです」
「そうですか。僕も申込書をもらいに来たんです。一緒にもう一度行ってみましょう」
「すみませーん。武闘会の予選に出たいんですけど、申込用紙いただけませんか?」
「はいはーい」
と言って、軽いノリの衛兵がやってくる。が、優香のカードを見て、眉をしかめる。
「えっと、シルバー、しかもマイナスじゃん。ダメだよ。そんなランクで出ようなんて。って、何? その仮面」
「ですけど、自由参加じゃないんですか? 仮面についてはノーコメントで」
「まあ、ヘルメットをかぶっている冒険者も多いから、いいけどさ。で、何で衛兵とか騎士団の詰所に申し込み用紙があるかわかる? そういう低ランクの冒険者とか素人さんに、出ないよう説得をするためなんだよ。ということで、行った行った」
衛兵は手でしっし、とやる。
「じゃあ、強さを証明したらいいってことですか?」
衛兵はジト目を優香に送る。
「それを証明するのがそのカードなんじゃん」
「冒険者、なりたてなんですよ。カードは仕方ないじゃないですか」
「何でそんなに自信があるの」
「どこまで通用するか知りたいんです」
「冒険者だろう? 冒険者ギルドで高ランカーに胸を貸してもらえばいいじゃないか」
「プラチナBの方に胸を借りたことがあります」
嘘は言っていない。
「借りるだけならだれでもできるよ」
衛兵は頭をかりかりかく。
「武闘会のレベルが身に沁みたら、すぐ降参しろよ」
と、衛兵が紙を渡そうとする。すると、後ろからチャチャが入る。
「お前が腕を見てやればいいじゃないか」
「は? やだよ、めんどくさい。しかも、弱い者いじめみたいじゃないか」
優香は思う。せっかく紙をくれそうになっていたのに、余計なことを言うな、と。
「武闘会に出られないお前より弱かったら、武闘会のレベルがわかるってもんじゃないか?」
「そりゃそうだけどさ。いいよ、めんどくさいから」
結局衛兵は紙を一枚渡してきた。
「あの、もう一枚ください」
「ああ、お連れさんね。そっちの女の子も出るんだ」
と、恵理子を見て紙を渡してくる。
「優香は、その紙を受け取ると、その後ろのフードをかぶった女性に渡した」
「え、そっちの子?」
優香は借りたペンでそそくさとサインをすると、ペンを女性に渡した。
女性もサインをし、ペンと紙を優香に戻す。
優香は、それらをまとめて衛兵に渡した。
「それじゃ、お願いします。当日は闘技場に行けばいいのですね」
「あ、ちょっと待って。このタグを持って行って。受付した証明になるから」
「ありがとうございます」
優香はタグを二枚受け取り、一枚を女性に渡した。
「それでは、失礼します」
と、頭を下げ、詰所を立ち去る。意外と簡単に参加申し込みができたし、後は、家に帰るだけだ。
二人は、東回りで家へと向かうべく歩き出した。
「ねえ、何で戦うの?」
「うん。剣かなって思っているけどさ、この前みたいなフルプレートメイルだと、殴った方がいいよね。でも、それだと、剣に対応できないかもだし。って、ハンマーおいてきちゃった」
「あははは、そうだね。プラチナBに胸を借りるのに集中しちゃったもんね」
「いや、たぶん落書きの時からだよ」
あはははは。二人は笑いながら歩いた。
トコトコトコ
「あの、もしかしてついて来ています?」
「……」
「それとも、偶然同じ方向ですか?」
「……」
「あの!」
ぐぅー
顔を真っ赤にする女性。フードを深くかぶっており、ほほより下しか見えないが。
「あはははは」
思わず、笑ってしまう。
女性は口をとがらせて後ろを向いてしまう。
「ごめんごめん。あの。よかったら一緒にご飯を食べないか?」
女性は、振り返って、おなかを押さえ、そして、うん。とうなずいた。
「あの、私、リーシャ」
「僕はタカヒロ、こっちは妻のマオ」
「よろしく、リーシャ」
「さっきはありがとう。武闘会に参加できてうれしい。助かった」
「お互い、頑張ろうね」
「うん」
三人は、家にたどり着く。
リーシャはその家の大きさに口をあんぐりしている。
「リーシャ、入るよ」
と、リーシャに呼びかけ、家に入る。
「ただいまー。今日、お客さん……」
「「「おかえりなさいませ、ご主人様」」」
優香も恵理子も目が点になり、固まる。
その後ろから、リーシャが中を伺う。
「ご主人様?」
と、リーシャが疑問の声を発する。それに意識を戻される。
「ミリー、その恰好は何?」
「メイド服ですが、何か」
「何かじゃなくて、何でそんな格好しているの?」
「それは、家事を行うためですけど」
「普段の恰好じゃダメだったの?」
「そこは心のメリハリの問題です。家事をやるときにはメイドとしてしっかり努めます」
「はあ、わかったよ」
「で、そちらがお客様ですか?」
「うん。今度の武闘会予選に一緒に出ることになったリーシャ。おなかすいてそうだから、ご飯に誘った。一人分多く作ってもらえる?」
「はい。かしこまりました」
「お客様、上着をお預かりいたします」
メイド姿の小柄なアリーゼがリーシャに声をかける。
リーシャは挙動不審そうにきょろきょろとするが、あきらめたかのように、ため息をついて、フードを脱いだ。その瞬間、
ガタタタタタ
ミリー達が一斉に一歩下がり、ナイフをかまえた。
その様子に、優香が聞く。
「ねえ、そのナイフ、どこから出したの? まあ、想像つくけど」
「メイド服は最強です」
と、ミリーは、リーシャから目を離さずにいう。
「で、何でそんな風に身構えているの?」
と、優香が振り向く。
そこには、フードを取ったリーシャがいた。服はゴシック調の上下。下はミニスカートに黒のソックス。そこまではまあいい。が、その頭には角が生えていた。
「あれ、リーシャ、君もしかしたら、悪魔?」
「悪魔ではない。魔族だ。タカヒロ、マオ、君達は驚かないのか?」
「ちょっとびっくりしたけど」
「そうか。申し訳ない。私は行くよ。食事に誘ってくれてうれしかった。できれば、私のことは他言無用で頼む」
と、リーシャは玄関から出て行こうとする。
「リーシャ、ご飯食べていきなよ」
「……君は私が怖くないのか?」
「うーん。僕らの師匠の一人が悪魔なんだよね」
リーゼロッテだ。もちろん、角もしっぽも翼も隠していたが。
「「「えっ!?」」」
リーシャもミリー達も目を見開く。
「あれ、ダメだった? 内緒にしておいてね。僕らの師匠、悪魔もいればドラゴンもエルフもいたよ。だから、あんまり種族間の差別意識? 区別意識はないな」
精霊のことは少し隠しておく。エルフも普通のエルフではなくハイエルフだ。
「パパは魔族の血が入っているって言っていたわよね」
「うん。パパって言っても義理のだから血はつながっていないけど。僕らは純粋に人らしい」
「らしいって言うのは?」
「孤児なんだ」
間違ってはいない。だからわからない。
「というわけで、僕らは種族は気にしない。それと、師匠のことは忘れて」
「「「わかりました」」」
ミリーたちは素直に受け入れる。
「……」
リーシャは固まっているが。




