浮かれる心と嫌な予感(千里と桃香)
「ファイアバレット!」
ジョセフィーヌは飛び出してきた魔物達へファイアバレットを六発撃ちこむと同時に走りだす。
「ジョセフ、あんまり前に出ない!」
「はい!」
気がはやり、飛び出したジョセフィーヌにローレルが指示を出す。
ジョセフィーヌは、正面から飛びかかってくるホーンラビットを剣で切り倒すと同時に、右から襲ってくるホーンラビットにファイアバレットを撃ちこむ。
また、左から襲ってくるホーンラビットにもファイアバレットを撃ちこみ、右正面から突っ込んでくるホーンラビットに剣を突き刺した。
ジョセフィーヌは、一体のホーンラビットを剣で、同時にもう一体を魔法で倒していく。
ホーンラビットくらいであれば、決して攻撃を受けるような相手ではない。一度に一体なら。
だが、今は同時に向かってくるホーンラビット二体を魔法と同時に剣を使って倒している。
これは、自分としても大きな成長だ。
今までの自分なら、おそらく、一体を倒している間に、もう一体の攻撃を受けてしまっていただろう。
嬉しい。
自分の成長が。嬉しい。
自分は強くなっている。
少し余裕が出来てきたジョセフィーヌだが、余裕ができたことによって気づくこともある。
そういえば、自分の周りにはホーンラビットしかやってこない。ここにはホーンウルフもホーンボアも、ホーンベアもいるはず。
そう。ローレルやヨン達が、ジョセフィーヌのところへ行く魔物を制限しているのだ。
先輩方のやさしさが嬉しい反面、悔しくもある。
「先輩方。もうちょっといけます。お任せください」
ふふふ、ローレルが笑う。ふふふ、ヨンが笑う。
「じゃ、任せた!」
ローレルが右へ一歩ずれる。すると、正面からホーンウルフが襲い掛かってきた。
同時に右から、左からホーンラビットが。
「行きます」
ジョセフィーヌは、正面のホーンウルフの牙を剣で抑えつつ、左右のホーンラビットにファイアバレットを撃ちこむ。さらに、剣に炎をまとわせてホーンウルフを焼き払う。
ついでとばかりに、高く飛んで襲い掛かるホーンウルフに回し蹴りを叩き込む。
「おおー」
思わず、後ろから千里が感心する。
クサナギゼットは、少しずつ後退しながら魔物を倒していく。
そうしないと、足場が魔物で埋まってしまうためだ。
「もうあとちょっとだよ」
千里が声を上げる。
そうなると、もうホーンラビットやホーンウルフなどの弱い魔物はいなくなる。
「ジョセフ、ホーンボアが行った!」
「はい!」
ジョセフィーヌは、ファイアバレットをホーンボアの足元に撃ちこんでバランスを崩すと同時に鼻先に右から剣を振る。
そして、さらに体を一回転ひねり、遠心力を伴った一撃をホーンボアに叩き込む。
そしておまけとばかりにその傷口にファイアバレットを撃ちこむ。
バシュ!
剣で仕留めきれはしなくても、ファイアバレットでとどめをさす。そして次のホーンボアを迎える。
ついに、ホーンベアがジョセフィーヌの前に立ちはだかる。
ジョセフィーヌは、ホーンベアの顔にファイアバレットを撃ちこみ、自らを視界から外す。それと同時に、ホーンベアの腹に剣を突き刺す。
魔法と剣を併用することで、こんなに簡単に。
それはそうだ。剣を二本も三本も持っているようなものなのだ。同時にいくつも攻撃を加えられる。
自分の分身が何人もいるようなものだ。こんなに戦いやすいことはない。
ジョセフィーヌはホーンベアすら臆することなく、発動した魔法と一緒に切りかかっていく。ジョセフィーヌはいつしか笑っていた。
こうして、最後のホーンベアまで倒された。
「お疲れさまー」
千里が声をかける。
千里の終了の合図に、ジョセフィーヌが膝をつく。
疲れた。体力も魔力も消費した。
だが、他のメンバーは誰も膝をついていない。座っていない。
ジョセフィーヌは負けてはいけないと立ち上がる。
「さて、ここを出ようか。それで、倒した魔物だけど、持っていけないから、燃やしちゃうね。みんな、酸欠になるといけないから、第一階層へ移動して」
そう千里に言われ、皆で第一階層へ移動する。
皆が移動し終わった後、千里と桃香は二人で第二階層へ戻り、
「「インフェルノ―!」」
と詠唱して、第二階層の空間を炎で満たした。
皆で洞窟の外に出て野営場所に戻る。
「さ、明日は街に戻るよ。急いで戻るから、ちゃんと食べてちゃんと寝て体力を回復させること」
「「「はい」」」
皆で夕食を取って、そして、眠りにつく
ジョセフィーヌは、疲れからか、目を閉じると即、意識を手放した。
翌朝。
「朝ごはんを食べたら出発するよ」
「「「はーい」」」
野営道具をすべてかたづけ、すべてを背負う。
「よし、街に帰ろう」
千里の掛け声で、走り出すクサナギゼット。
千里も桃香もどうしても心が躍る。
明日には船に乗って、センセと真央ちゃんのいる大陸へ向かう。
もうすぐ会える。二人に会える。
「えへへへ」
千里が走りながらにやける。
「千里さん、もう心があっちの大陸に行っちゃっているんですね」
ボフッ!
「え、桃ちゃんは楽しみじゃないの? センセに、真央ちゃんに会えそうなのに」
「もちろん楽しみですよ。早く会いたいです。ですが、千里さんの顔が赤い理由がわかりません」
桃香はその理由をわかっていていう。微笑みながら。
「な、えっと、これは……」
「またー、愛しのダーリンでも思い浮かべていたんでしょ?」
ローレルが面白そうにちゃちゃをいれる。
「ろ、ローレルまで!」
「あー、真央ちゃんかわいそー」
「桃ちゃん!」
「あはははは」
「「あはははは」」
「んもう」
からかわれながらも、千里は嬉しそうに笑う。
いや、嬉しい。
もう少し。もうちょっとで会える。
千里は前を向く。もう少し。もう少しだ。
「千里様、桃香様」
突然、先行して警戒を行いながら走っていたリィとシィが戻って来て、千里と桃香と並走する。
「なに?」
リィとシィのその表情に、嫌な予感がする。
さっきまでの浮ついた気持ちがどこかへ行ってしまう。
「言いづらいので、ついて来てください」
そう言って、リィとシィは再び先行して走り出した。




