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罪人の護送……失敗(千里と桃香)

 洞窟の第二階層入り口付近


「この猿人族、動かないけど生きているのかな」


 千里達に見ていろと言われた猿人族二人。岩に背を預けたまま、動く気配がない。

 そのため、ブチが疑問を口に出す。

 すると、猿人族の一人が謝罪の声をあげる。


「お二人さん。ブレスレットを盗んですまなかった。反省している」

「な、これが、ミケにとってどんなに大切なものかわかっているのか?」

「申し訳ない。知らない。だが、きれいだと思ってしまった。売れると思ってしまった。だから盗んだ。だが、反省しているんだ。もうこんなことはやめる」

「そうだな。ちゃんと罪を償え」

「わかってる。だから、お願いがある。足の骨が砕けているんだ。早いところギルドに引き渡してくれないか。奴隷になるにも、強制労働をさせられるにも、足を治してもらわないことにはどちらもできなくなる。一生懸命働いて、罪を償うことができなくなる。だから」

「……」


 猿人族の願いに、ブチはどう答えていいかわからない。そもそも、ここをミケと二人で出ることはできないのだ。


「どう思う、ブチ」


 反省した猿人族の様子に、ミケも悩んでブチに聞く。


「うん。あの人たち、どうするつもりだったのかな」


 千里達は、この二人をどうするつもりだったのだろうか。

 猿人族の言葉通り、猛省しているのであれば、罪を償ってもらいたい。

 ブチはそう思う。


「さっきあいつらが言っていたのは、この足が不自由で逃げられない状態であんたら二人が連れて行くか、五日後にあいつらが連れてくかだと。二人が連れて行ってくれるなら二日で街まで行けるが、あいつらに連れて行かれるなら、六日もかかる。どのみち、俺らは逃げられないし、逃げるつもりもない」


 千里が提案した、ミケとブチに呼ばれてきたギルド職員に連れていかれるというのは、きっと逃げられない。逃げられる可能性があるのはこの二人に連れて行ってもらう場合だ。

 猿人族はそう考えて、千里の提案と異なる提案をブチとミケにする。


「僕らには決められない。あの人たちと相談する」

「前向きに頼む」


 そう言って、猿人族は再び口を閉じておとなしくなった。




 数時間して、千里達が出てくる。


「お待たせ。それじゃ、地上に戻ろうか」


 千里は、ミケとブチを誘って歩き出す。

 猿人族は、変わらずミーとチーが運ぶ。

 そして、ロックリザードを再びよけさせて、地上に出た。


 この盗賊のことで相談があったため、訓練を早めに切り上げた千里と桃香。地上に出たところで、ミケとブチに相談する。


「こいつらどうする? 二人が誰かを呼んでくる? それとも、私達が五日後に連れて行く? ま、その場合、五日間飲まず食わずで餓死して死ぬかもしれないけど」


 ミケとブチは顔を見合わせて、答えた。


「僕らが連れて行きます」

「そう。まあ、足が一本使えないから、逃げることなんてできないと思うけどね。じゃあ、こいつらの杖になりそうな木、探してきてよ」

「わかった」

「わかりました」


 ミケとブチは森に入って行った。




 しばらくして、二本の枝を持ってくるミケとブチ。


「それ、ちょっと貸して」


 千里は枝を受け取ると、ナイフを取り出し、ちょちょいと削って杖を作り上げる。


「もう一本も」


 と言って、二本目も受け取って杖にする。


「それで、いつ行く?」


 ブチに杖を差し出しながら千里が聞く。


「早めがいいと思うので、これから出ようかと思うのですが」

「今日はもう夕方が近くなるよ?」

「それでも、明日頑張れば明日の遅くにはならずに着けると思いますので」

「そう。わかったわ。それじゃお願いね」

「「はい」」

「ヨン、ロープを」

「はい」

 ヨンは千里の指示に従って、猿人族の腹をロープで結ぶ。そして、そのロープをミケとブチに渡す。


「「皆さん、ありがとうございました」」


 そう言って、ミケとブチは、杖をついた猿人族を連れて歩き出した。




 ミケとブチは、猿人族の二人と森の中を歩いて行く。

 が、さすがに杖をついていては速度も上がらない。

 猿人族としても、千里におられた足を早く治療をしてもらいたい。

 よって、猿人族は提案する。


「お二人さん。俺ら、手は大丈夫だからよ。木にぶら下がって移動すればもっと早く移動できるんだが」

「どうせ、足は使い物にならないんだ。逃げられないさ」


 と、もう一人の猿人族も言う。


「なるほど。じゃ、ロープを長くすればいい?」

「それで頼む」


 ミケとブチは手に巻いていたロープを長く伸ばす。

 すると、猿人族の二人は、何とか腕の力で木を登って行って、枝にぶら下がった。


「それじゃ行くぞ」


 猿人族はミケとブチに声をかけてから、ぶら下がったまま枝から枝へと移動を開始した。

 この移動方法は、猿人族としてもスピードがあったほうが、枝へと渡りやすい。よって、


「ま、待てって」


 と、ロープを持ったミケもブチも走ることになった。

 だが、たしかに移動速度は大きく上がった。




 夜も更けてきたころ。


「おい、そろそろ今日の移動は終わりにしよう」


 ブチが猿人族に声をかける。


「わかった。従おう」


 そう言って、猿人族は木から降りてきた。


 四人は、大きな木の根元で一晩休むことにする。

 ブチとミケは交代で見張りだ。

 すっかり暗くなってしまったため、食材をあつめるわけにもいかなかった。晩飯抜きである。だが、仕方ない。

 猿人族は食事のことを気にしないかのようにすでに眠りについている。




 翌朝


「ブチ、起きて。移動を開始するよ」


 朝方までの見張りだったミケがブチを起こす。

 猿人族の二人はすでに起きて木に背を預けて座っている。


「わかった。移動を開始しよう。今日中にギルドに着きたいから」

「俺らも出発していいぞ」


 猿人族の二人も杖を使って立ち上がった。


 ところが、突然のガサガサ、という音に、ブチとミケが身構える。

 ブチとミケが周りを見渡すが、音の発生源が見つからない。


 ガサ


「上!」


 ミケが声を上げる。それを聞いてブチも見上げる。


「こんなところにいたんだ。お二人さん」

「あれれ、その杖、どうしたのさ」


 ブチが振り返る。

 木の上からと背後から、二人の猿人族が声をかけてきた。

 声をかけられた相手はブチとミケが連れてきた猿人族。


「うるさい。しくじったんだ。で、どうするんだ。俺たちを助けに来たのか?」


 その一言に、ミケとブチはナイフを取り出して臨戦態勢に入る。


「いや、ちょっと相談なんだけど、その足、治るの?」


 だが、猿人族は、そんな二人の緊張を無視したかのように会話を進める。


「どうだかな。太ももの骨が折れている」

「二人とも?」

「そうだ」

「ところで、そこの子猫ちゃんがターゲット?」

「そうだ」

「じゃあ、あれもこれもしくじったってことでいい?」

「その通りだ。助けてもらった場合、どんなバツも受ける」

「助けなかった場合は?」

「俺らは死ぬのだろう?」

「正解」


 ドスッ、ドスッ!


 杖をついて立っていた猿人族二人の胸に、投げられたナイフが突き刺さった。


「な、何を!」


 ブチが叫ぶ。


「足が折れちゃっていたらさ、もう使えないんだわ。ギルドに売られてもさ、何をばらされるかわかったものじゃないしね。だから、死んでもらった」

「で、俺たちをどうする?」


 ブチが聞く。


「そうだね。普通は、目撃者は死んでもらうってことになっているんだけど」


 ふーむ、と、猿人族の男がミケを見る。


「そっちの子、死に方を指定されているんだよね」

「なんだと?」

「君は指定されていないからね。ここで死んでもらうよ」

「そんなことさせない!」


 ミケがブチを殺すと言った猿人族にナイフを向ける。


「僕は優しいからさ。こうしてあげよう」


 と言って、猿人族が手に金属製のクローをはめ、ミケに向かって飛びおりた。

 ミケはそれを迎え撃つべくナイフをかまえるが、


 ドスッ


「僕らが二人だって忘れてない?」


 そう、もう一人の猿人族が、ミケの腹にこぶしを撃ちこみ、ミケの気を失わせた。


「ほら、優しいでしょ。これで、この子は君が死ぬところを見て悲しむことが無くなる」


 ブチは、身構えるが、二人の猿人族に挟まれてしまう。

 そして、二人の猿人族は同時にブチに襲い掛かり、ブチは一人のクローを防いでいる間に、もう一人の猿人族のナイフで胸を貫かれた。


「さあ、この子は袋にでも入れて連れて行こうか。事故死指定だし、どうしようか。こうなりゃ海で溺死ってところかな」

「そうだな。時期は早いうちだろうから、ある程度労働してもらってからでもいいかもな」


 猿人族の二人は、袋に入れたミケを担いで歩き出した。


「こんな時に、魔法が使えたら、燃やしてやれたのにな」


 倒れているブチと二人の猿人族にそう言って。


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