お掃除(千里と桃香)
「ねえ、どうする?」
ミケがブチに相談する。ブレスレッドを盗んだ猿人族を追いたい。だが、ここに残るには実力不足。
「僕らだけじゃ、これ以上進めない。僕らだけじゃ、ここから帰ることもできない」
そう判断し、ブチとミケも千里達について入口に向かった。
入り口を出たところで、
「じゃあね」
千里はブチとミケにあっさりと別れを告げる。
まあ、仲間でもない。
「ああ、今日はありがとう」
ブチとミケは、千里達と別れて、再び洞窟の前で見張りを続けるようだった。
「どうだった? 千里」
食事を取りながらローレルが聞いてくる。
「やっぱり魔物がいっぱいいた。洞窟自体はね、奥に行く道も、分かれた道もあって、そこそこ複雑そうだったよ」
「で、面白そうだった?」
「うーん。見たことのある魔物ばっかりだったしねー」
「魔物はそうとして、特訓できそうな空間?」
「それは大丈夫そう。ただ、魔物の密度が高くてそれなりに邪魔だけど」
「その程度なら大丈夫かしら。明日から潜ってみる?」
「そうしようか」
洞窟の二階層の天井付近。
「さっき来た冒険者パーティは何だったんだ?」
「さあな。途中で引き返して行ったぞ」
「この階層で帰っていったってことは、ホーンラビットやホーンウルフは大丈夫だが、ボアやベアーがこれだけいると無理だって判断だろうか」
「まあ、これだけいれば、たとえプラチナランクでも悩むんじゃないか?」
「そうだな。俺らのように、天井付近を渡れない限りはここまで来られないだろうな」
「それで、領主の娘はどうしているんだ?」
「相変わらず入り口で俺がでてくるのを待っているんじゃないのか?」
「入ってこないか」
「入ってこれば確実なんだがな。入り口にロックリザードがいなきゃ、もっと中まで入って来たんだろうけど。まあ、入口にいるだけでも、これだけの魔物が一気にスタンピードを起こせば、嫌でも巻き込まれるだろうさ」
「あくまでも事故死ってことだろう?」
「そうだ」
「まあ、そう言う俺達も、ロックリザードが天井を這っているせいで、出づらいんだけどな」
「まあ、スタンピードが起こった後で、ゆっくり出ればいいんじゃないか?」
「そうだけどな。食料もいつまでもつかと」
猿人族の二人は、ため息をついた。
翌日
「それじゃ、みんなで洞窟へ行ってみようか」
千里が元気よく声を上げる。
「千里、どれくらい潜っているの?」
千里の提案にローレルが聞く。それによっては荷物が違う。
「お腹すいてお昼ご飯を食べたら、ちょっとして帰ってくる感じ?」
「じゃ、日帰りなのね」
「うん。時間感覚がわからなくなっちゃって、船に乗り遅れても嫌だしさ」
「そうね。そうしましょう。それじゃ、千里。もうちょっと待って」
ローレルが荷物を持とうともしない千里を止めて、ヨンにお願いをする。
「ヨン、お弁当を作って」
「え」
「洞窟の中で大きな火を焚いたら酸欠になるかもしれないでしょ」
「はい。わかりました」
「千里さん、キキとララはどうします?」
桃香が千里に聞く。キキとララも走らせてあげたい。
「あの子達が見ているし、中に猿人族がいるっていうし、隠れていてもらいたいけどね」
千里は、洞窟の入り口にいる猫人族と犬人族に視線を送る。
「そうですね。キキ、ララ、ごめんね」
「「キュイ」」
ヨン達がお弁当を用意して、千里と桃香以下、十八名が洞窟の前に立つ。
それを横目で見るミケとブチ。
「よし、行くよ」
千里の掛け声で走り出すクサナギゼット。
それに合わせて、ロックリザードが千里達をよけて壁へと逃げる。
「ちょ、ちょっと待って……」
という、ブチの声は置き去りだ。
ブチとミケは目を合わせる。
「今なら、ロックリザードも壁際に寄っているから、入れるかもしれないけど」
「そうなら急がなきゃ」
ミケは立ち上がって、洞窟内へと走り出した。
ブチもそれを追う。
「千里さん、ロックリザードエリアを抜けます。昨日の感じだと、次はホーンラビットとホーンウルフの群れですけど」
「確か、左右に分かれ道があったよね。そっちへ散らしちゃおうか」
「はい」
ロックリザードのエリアを抜けたところで、千里と桃香は前方方向へさらなる殺気を放出する。
すると、ホーンラビットもホーンウルフもパニックを起こしたかのように、左右や奥に散っていく。
「どいてどいてー」
千里と桃香は構わず走っていく。
後ろをついて行くローレルは、疑問を口にする。
「いいのかな。入口方向へ追っているわけじゃないし」
それに答えるのはレオナ。
「そうですね。帰りにやったらダメなやつだと思います。洞窟の外へ魔物があふれ出ますから」
「だよねー」
こうして、千里と桃香は第一階層のホーンラビットもホーンウルフも一体も倒さずに一掃してしまう。
ちなみに、左右の横穴に逃げ込んだホーンラビットとホーンウルフは、その先から地上へと一気に出てしまう。
横穴いくつかあったために数は分散されたこと、しょせん、ホーンラビットとホーンウルフという比較的弱い魔物であったことから、大きな問題にはならなかったが。大きな問題には……。分散されたと言ってもそれなりの数が……。
第二階層。
ドドドドド……
「な、何が?」
天井付近に潜んでいる猿人族が起き上がる。
「一体何があった」
「光が無いからわからん。魔物が第一階層から降りてきた?」
「火をつけてみるか?」
「いや、もし、冒険者とか騎士だったらまずい。隠れていよう。ここなら魔物は上がってこない」
「そうだな」
千里達は第二階層まで降りてくる。
「みんな、火で照らしてー」
各々が持っているたいまつを掲げて奥を見る。
千里と桃香に散らされて、第二階層の入り口付近には魔物はいない。
「どう? 千里」
ローレルが聞いているのは、見える範囲のことではない。
千里は探査魔法を広げる。
「うーん。ここ、かなり広いみたいだけど、魔物は奥の方へだいぶ寄っちゃったみたい。それと、一か所、奥に通路があるみたいで、そっちに魔物が少しずつ流れて行ってる」
「ふーん。じゃあ、この辺で訓練しても大丈夫な感じ?」
「んー。奥の方にね、天井に二つだけ動かない何かがいる」
「何それ」
「わからない。魔物か野生動物か……それとも」
「で、千里、どうするの? ここで訓練する?」
「そう思ったんだけど。思ったより、魔物減らないの」
「向こう側に出口があるんでしょ? そこにもうちょっと魔物を追い込む? それとも、訓練がてら討伐する?」
「昨日見た時、ホーンベアがいいところだったの。訓練になるとは思うけど」
「そう。じゃあ、やっぱり追い込みましょう。討伐して放置するのも燃やすのも手間だし」
ローレルがそう提案する。
「そうね。追い込んで蓋ね。じゃあ、フローラ、真ん中をお願い。私と桃ちゃんで左右を。その間をみんながお願い」
千里達は、フローラを真ん中に、左右に千里と桃香を配置して、殺気を全開にして魔物を追い込んでいく。
千里と桃香は探査魔法で確認しながら。
「よーし、いい感じ。反対の壁が見えてきた。あの真ん中の通路に全部押し込めるよ」




