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ミケとブチ(千里と桃香)

 木々の間を走り抜けて、山脈の麓までたどり着く。


「ストーップ!」


 声をかけて千里が止まる。


「どうしたのです? 千里さん」

「あの山脈の崖のところ、いくつか穴が見えるよね。どれにする? っていうか……」

「あー」


 探査魔法を広げた桃香も気づく。


「あの大きな穴のところ、入り口に誰かいますね」

「なんだと思う?」

「近づいてみないとわかりませんが」

「おーい、ヨン!」

「私ですか?」

「うん、探って来て」

「はい」


 千里からのお願いに、ヨンとキー、チーが気配を消して洞窟に近づいて行く。


「じゃあ、私達はここで休憩。どうせなら、穴の中で野営したいね。風よけになるし」




 しばらくすると、ヨン達が帰ってくる。


「右の洞穴は特に何もありません。魔物も魔獣もいないようです。野営をするならそこかと」


 ミーが報告する。


「左の洞窟も同じです。特に何もないようです」


 チーが報告する。


「真ん中ですが」


 ヨンが説明する。


「中には魔物、魔獣が多数。外には出てこないようです。それから、入り口にいるのは獣人の二人。犬人族の青年と猫人族の女性。どちらも二十歳前くらいでしょうか」

「何でそこにいるのかは聞いた?」

「いえ。リア充カップルパーティに興味おありで?」

「ごめん。ない」


 千里がうなだれる。

 桃香が代わりに聞く。


「そのパーティを横目に洞窟に入ったら、それは、獲物の横取りになりますか?」

「聞いてみないとわからないですね。入ろうとする様子もないですが、中が気になってはいるようで。なので、断って入っていく分にはよろしいかと」

「そっか。じゃあ、どうしよう。ヨン、右の洞穴で野営準備を」

「はい」

「ローレル、ルージュとフォンデ、レオナを連れて森で晩御飯の肉と野菜を」

「承知した。が、千里はどうするの?」


 ローレルが聞く。


「ちょっと入って来る」

「えっと」

「桃ちゃんと、フローラとルシフェとジョセフを連れて」

「まあ、気を付けてね」

「わかってるよ」


 一人じゃないならいいか、フローラ達がついて行ってくれるなら安心か、と、そう思い、ローレル達は食材を探すために森へと戻って行く。


 千里達はとりあえず、右の洞窟へと向かう。


 洞窟にたどり着いたところで、千里と桃香はフローラたちを連れて真ん中の洞窟の様子を見に入り口へと向かった。

 当然、二人の獣人にはすでに見つかっている。


「こんにちは」

「「こんにちは」」


 犬人族の青年と猫人族の女性が返事をくれる。


「えっと、ここで何しているの? っていうか、詮索はご法度だね。私達、ちょっとだけ中を見てきたいんだけど、通っていい?」

「はい。いいです。いいですが、見ての通り、ロックリザードが徘徊していますよ」


 千里のお願いに、快諾と洞窟の情報をくれる二人。


「どれどれ」


 千里は中を覗く。

 しかし、洞窟の中は暗く、千里にはよく見えない。


「うーん。君、見えるの?」

「僕はなんとなくにおいが。こっちのミケが見えるようで」


 ミケ? なんと安直な名前。


「猫人族は夜目が効くんだね」

「はい。でも、においはブチの方がよくわかるんです」


 ブチ。またもや安直な名前。まあいいや。


「それじゃ、ちょっと入るね」


 千里と桃香を先頭にして足を踏み入れる。その後ろをフローラ達三人がついて行く。

 たいまつを持つのはフローラとジョセフ。

 それを見ていたミケ。


「え?」


 と、驚きの声を上げる。


「どうしたの?」


 ブチがミケに聞く。


「ロックリザードがあの人たちをよけていくの」

「襲うんじゃなくてよける?」

「うん。よけてる」

「ちょ、ちょっと待ってー」


 ブチとミケが千里と桃香を追いかけた。




「えっと、何?」

「あの、邪魔しません。邪魔しませんから、ついて行っていいですか?」


 ブチが千里にお願いをする。


「邪魔だけど」

「……ごめんなさい。でも。お願いします。確かに邪魔になっているのかもしれませんけど」


 千里は洞窟の入り口を見る。千里達をよけたはずのロックリザードが道を塞ぎつつある。


「はあ。自分の身は自分で守って欲しいのと、私達が何をしても見なかったことにして」

「はい。わかりました」

「ありがとうございます」


 千里と桃香は再び歩き始める。そして、歩きながら聞く。


「で、何で中に入りたかったわけ?」

「はい。実は、ミケが大事にしているブレスレッドを、猿人族の男に奪われて。においを追いかけてきたら、この中に逃げ込んだらしいんです。ですが、僕らでは入れるようなところではなくて」

「その猿人族は入れるほど強いってこと?」

「そうだと思います」

「へー」


 正直、犯罪者は許しがたい。だが、自分達に関係があるかというと……。

 千里と桃香は歩いて行く。


 相変わらず、ロックリザードがよけていくので、戦闘にはならない。




 しばらく歩くと、ロックリザードがいなくなり、ホーンラビットやホーンウルフなどが現れる。


「うーん。入口より奥の方がしょぼいってどういうことかな」

「むしろ、入口をロックリザードが押さえているから、このホーンラビットたちが外に出られないんじゃないでしょうかね」


 千里の疑問に桃香が答える。


「そうなのかもね。でも、じゃまね。これも追い払う?」

「そうですね。いちいち相手にしてられないですもんね。フローラ!」


 桃香がそう言うと、フローラが殺気を発してホーンラビットもホーンウルフも奥の方へ散らしてしまう。


「後で、まとめて相手をすることになったりして」




 洞窟を奥の方まで歩いて行くと、いくつか横道が現れる。まっすぐ進むと道もあるが。


「どうしようか」

「とりあえず、奥を目指しません?」


 悩む千里に桃香が答える。


「それはダンジョン攻略としてどうなの?」

「宝箱があれば回りたいですけどね。魔物しかいませんよ、きっと」


 桃香のその言葉に宝探しはあきらめ、千里達は、奥へ奥へと進んでいく。




 洞窟の最奥には、幅広の下に向かうスロープ状の道があった。さらに深くへ降りていくようだ。

 その道に従って千里達は次の階層へ潜っていく。


 そこには、広い空間が広がっており、ところどころ、上からも下からも鍾乳洞と言うには大きすぎる岩が突き出していた。

 魔物はというと、ホーンラビットやホーンウルフだけではなく、ホーンボアやホーンベアなど、様々な魔物が歩いている。


「多様性が増してきたねー」

「そうですね。ですが、襲い掛かってくるわけでもないですし、暇ですね」


 ブチとミケは思う。襲ってきてくれないだけありがたいだろうと。


「ところで、その猿人族、いないね」

「そうですね。この魔物のいる中を入っていったんでしょうか」


 と、桃香が言ったところで、千里が腹に手を当てる。


「そろそろ戻ろうか。野営の準備も進んでいると思うし」

「はい。そうですね。戻りましょう」

「え? 戻るのか?」


 ブチが不満を漏らす。


「だって、ちょっと見に来ただけだし。おなかがすくと力が出ないし」

「……」

「君らは好きにしたらいいよ」


 そう言って、千里と桃香、フローラ達は洞窟の入口へと足を向けた。



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