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またこういう奴が仲間に(千里と桃香)

 時は少しさかのぼって、ベルがクサナギに入る二週間ほど前。

 バウワウの街へと入る千里と桃香のクサナギゼット一行。


「ようやくアルカンドラ大陸へ行ける。センセと真央ちゃんのいる大陸だよ」

「本当に楽しみです。二人とも元気でしょうか」


 千里と桃香が思いをはせる。


「だってさ、二人が亡くなったのって、ずっとずっと前じゃん。ものすごい久しぶりに会うことになるじゃん。どうしたらいいの?」

「あれ、千里さん、センセのこと、とりあえず殴るって言っていましたよね」

「……言ったね。たしかに言った。でも、そんなことできるわけないじゃん」


 ほほを染める千里。


「千里ー、気持ち悪い顔してないで指示して欲しいんですが。ウォルフさんの船の方へ行けばいいですか?」


 レオナが御者台か千里に声をかける。


「む。レオナ、そうして頂戴」


 千里は顔をマッサージするように手でほほをもみながら答える。


「はーい。わかりました」


 レオナは、街の中を港に向けて馬車を走らせる。




 バウワウの港にたどり着く馬車。着岸して並んでいる船を眺めながら走っていく。

 クサナギゼットの目指すはウォルフの船。


「どこかなー」

「おーい、こっちこっち。こっちだ!」


 船の上から手を振るウォルフを見つける。


「おーい、ウォルフさん、来たよ」

「おう、早いな。船団の出港は一週間後だ。その時にまた来てくれ。護衛を頼む」


 宿の接客とは全く違う態度で接するウォルフ。

 今回は、千里の方が頼み込んでいるので、それも間違っていない。


「船団? 出港?」

「ああ、ここに並んでいる七船で出港する。それまでに護衛の依頼をギルドで受けてきてくれ」

「あれ、私達、客じゃなくて護衛?」

「ただで乗れて報酬も出る。そっちの方がいいだろう?」

「まあ、そうだけど。わかった。冒険者ギルドへ行ってくる。ジョセフの登録も必要だし。だけど、宿を一週間取らなきゃいけないの?」

「なんだ? それならあの隅の船を使ってもらっていい。出港時もあれに乗ってもらうから。馬車も積んどけ」

「はーい」


「ヨンー、馬車、あっちの船にのっけといてー」

「承知しました」

「じゃあ、ジョセフの登録に行こうか」




 冒険者ギルドにて。

 兎人族の受付嬢が疑問の声を上げる。


「えっと、ギルマス権限ですか?」

「うん。ジョセフ、プラチナにして」

「ですけど、それ、獣人の国のギルドでやるのは悪手ですよ。なにせ、ギルドマスターも獣人ですから」

「いいんじゃないかな、どこでも」


 千里がジョセフィーヌをチラ見する。ジョセフィーヌはうなずくだけだ。


「わかりましたよー。ギルマス呼んできますね」


 兎人族の受付嬢は、ぴょんぴょんと階段を二階へ上がっていく。

 そして、ギルマスを連れて降りてくる。


「お前らがギルマス権限を要求する冒険者か? しかも人間族」

「あれ、どっかで見た?」


 千里が首をかしげる。

 ギルマスは虎人族だった。


「会ったことないぞ」

「ソーシンの年末武闘会に出てなかったか?」


 ローレルが聞く。


「いや、出てない。もしかしたら弟が出ていたかもしれんがな」

「弟?」

「いや、まあいい。で、どいつの申請なんだ?」

「この子」


 十七歳になったばかりの千里が、外見が二十歳近くになってしまったジョセフィーヌをこの子呼ばわりする。


「この子って、お前の子じゃないだろうに。ま、いいや。裏に来な」


 千里達はぞろぞろと裏の訓練場へ向かう。




「で、どうする。俺とやりあうのか?」


 向かい合ったジョセフィーヌにギルマスが言う。


「できれば、ギルドマスターの攻撃を受ける、という試験がうれしい。攻撃をしたら止まらなくなりそうだ」

「俺が苦労する側か? まあいいや。すぐに終わらせてやる」




 訓練場の中心で向き合うギルドマスターとジョセフィーヌ。


「それでは、よーい、はじめ!」


 受付嬢の掛け声で、ギルマスが爪を立てて突進する。

 ジョセフィーヌは、さやに収めたままの剣を手に構え、それをはじく。

 右手の爪が襲ってくればそれを左へ流し、左の蹴りが襲ってくれば、さやを盾にしてその足を止め。右足の上段回し蹴りが飛んでくればかがんでその足を上へと跳ねのける。


 ドサッ!


 ギルマスが転んでしまう。


「お前、ちょっと本気になったぞ」

「あら、本気じゃなかったんです? ま、お願いしますよ。私、全然動いていませんから」


 ギルマスはおでこに青筋を立てると、再び突進してきた。


 右、左、爪を伸ばしたまま殴りつけてくる。

 それを、剣のさやではじいて行く。


「拳じゃ、左右にはじくだけで面白くありませんわ。蹴りも混ぜていただけます? さっきまで蹴りが混ざってましたよ。興奮すると手だけになります?」

「くそっ!」


 ギルマスが、拳にローキック、ハイキックを混ぜて攻撃してくる。だが、ジョセフィーヌはやはりそれを簡単にはじいてしまう。

 千里や桃香、ローレル達の攻撃の方が速いし重い。


「これなら避けられないだろう!」


 そう言って、ギルマスは正面からまっすぐに全力の蹴りを繰り出してきた。


「終わりにしましょう」


 ジョセフィーヌは剣をおろし、そして、フッ、と腹に力を入れる。

 そして、


 ドゴッ!


 その蹴りを腹で受けた。

 だが、ジョセフィーヌは全く動かない。

 ギルマスは、ジョセフィーヌの腹に蹴り入れたはずの足の裏を押し付けたまま固まる。


「えっと、いつまでそうしているのです? 乙女の腹に」

「はっ」


 ギルマスは再起動して足をおろすと。


「今日はこれくらいにしておいてやる。プラチナランクを出しておけ」


 そう言って、そそくさと自室へ戻って行った。


 千里は思った。

 またこういう奴が仲間に、と。




 受付に戻って来て、ジョセフィーヌの手続きを再開する。

 そこで、ちょこっとだけ疑問に思った千里が受付嬢に聞く。


「ねえ、ギルドに登録されているパーティ名ってわかるよね」

「ええ、わかります」

「じゃあ、そのメンバーのランクってわかります?」

「はい。更新が半年とか一年に一度なので、最新かと言われるとわからないのですが」

「じゃあ、お願い。プラチナランクパーティクサナギの貴博と真央のランクを教えて」

「はい。クサナギですね。ちょっとお待ちください」


 受付嬢は資料を探しに奥へ入っていった。


 そして、ファイルをもって戻ってくる。


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