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娘さんをください(優香と恵理子)

 周囲を見回して驚愕の声を上げるリンドバーグ。

 それに答えるかのように、船の舳先から声が聞こえてくる。

 だが、リンドバーグの求める答えが返ってくるわけではない。


「えっと、ベルのお母様でいいかしら?」

「だ、誰だ!」


 舳先には二人の冒険者。真っ黒な団服を着て立っている。一人は仮面をつけて。


「えっと、うちの子たちを攫ってくれたようだけど?」

「な、もしかして、クサナギ?」

「ええ。私はマオ、マオ・クサナギ。で、こっちがタカヒロ・クサナギ。パーティリーダーね」

「さっきビルを襲ったあいつらのリーダー?」

「そうね」

「で、何の用だ」

「あなたの娘さん、もらうけどいい? 一応、保護者の許可が欲しくって」


 リンドバーグは震える。

 さっき、目の前で見た殺戮とも見える圧倒的な武力。

 それを超えるパーティの中心人物。

 事実、今この船は自分も含めて一瞬で灰にされそうな魔法で囲まれている。

 そして、その堂々たる風格。


「わかった。やる。だからここは見逃せ。で、何なんだこの炎は!」

「まあ、時と場合によってはすべて撃ちこむために用意してあるのよ」

「……」


 バカみたいな魔法、こんな魔法を使えるやつがいるのか? こんな魔法を撃ちこまれたら、絶対に死ぬ。


「それじゃ、親の許可をもらったということで。できれば、二度と娘の前に出てこないで欲しいんだけど?」

「わかった。そうする」

「ありがとう。それじゃ私達は行くわ」


 そう言って、恵理子は宙に浮いて船を囲む無数のファイアボールをすべて消す。

 それと同時に訪れる暗闇。

 次の瞬間には、タカヒロと呼ばれた男も、マオと名乗った女もいなくなっていた。


「おい、船を出せ。逃げるぞ!」

「はい」


 リンドバーグを乗せた船は、静かに海へと出て行った。




「おかえりなさい」


 宿でリーシャが帰ってきた優香と恵理子を出迎える。


「二人で大丈夫でした?」

「もちろん。娘をくださいって言うだけだもの」


 恵理子が答える。


「なんですか、その結婚のお願いみたいな言い方は」

「ふふふ。まあ、いいじゃない。許可はもらえたわよ」

「そうですか。それじゃ、もう寝るってことでいいです?」

「ええいいわよ」

「それじゃ、おやすみなさい」


 優香と恵理子はそれぞれ自分のベッドにもぐりこむ。

 そして、


「リーシャ! 自分のベッドで寝なさい!」


 ゲイン!


 リーシャは恵理子に蹴っ飛ばされ、ベッドから追い出された。




「優香様も恵理子様ももう寝ていらっしゃるようだな」


 明かりの消えた窓を見て、オリティエがつぶやく。


「よし、全員部屋に戻って就寝。朝一で馬車の風呂に入れ。それから、オッキーとマティ、その二人を頼む。じゃあ、解散」


 ミリーの解散の宣言に、メンバー達はそれぞれ自分達の部屋へと戻って行った。


「ヨーゼフ、ラッシー、今日はありがとう。二人をもらうね」


 オッキーはベルを、マティはエヴァを担ぐ。

 そして、部屋に戻る。


「どうする? ベッド、三つしかないけど」


 マティがエヴァを担いだまま言う。


「二つをくっつけて一つにしようか。エヴァはそっちで」

「そうね」


 二つのベッドを合わせて 一つにする二人。一つ残ったベッドには、エヴァを寝かせる。

 そして、二つ合わせた方には、真ん中にベル。その左右にオッキーとマティが寝ることにする。


「エヴァはそのままで仕方ないとして、私達は寝間着に着替えようか」

「うん。そうだね。ベルもそのままでいいよね」


 二人は寝間着に着替えて、そして、明かりを消した。




 翌日


「あれ、知らない天井……」


 ベルが目を覚ました。


 私、昨日……。確かお母さんに殴られて、それで、オッキー達が現れて……。


 仰向けのまま、ベルは自分の体を触ってみる。

 どこにも傷がない。椅子で殴られた頭にも。


 オッキー達が助けてくれたのかなぁ。だったらうれしいな。

 でも、私、まだ、罪を償ってない。

 お母さんに連れ出されちゃったけど、戻らなきゃ。そして、裁かれなきゃ。

 でも、ここ、どこ?


 ベルは耳を澄ませる。両側から寝息が聞こえてくる。


「?」


 知らない天井。そして、左右に寝息。

 視線だけを左右に動かしてみる。


 顔が見えない。誰? でも見えるのは……猫耳?


 右の人も左の人も、腕のあたりで丸くなっている。頭のてっぺんしか見えない。


 うーん。獣人……そんなことが。


 だが、突然声が上がる。


「あー、オッキーとマティだけずるい!」


 ……この声はエヴァ?


「えっとエヴァ?」

「あ、おはようございます。ベル」

「お、おはよう。えっと、この状況を教えて欲しいんだけど」

「自分で見てみてはいかがでしょう」


 エヴァは、ほほを膨らませてベルに言う。

 ベルは仕方なしに体を起こしてみる。そして、右、左と、視線を動かす。


 そこには大きな猫がいた。正しくは、猫の着ぐるみを着たオッキーとマティだ。


「ふふ、かわいい」


 ベルは二人をみて微笑む。そして、二人の頭をなでる。


「エヴァ、私のこと、助けてくれたんだよね、昨日」

「えっと、たぶん?」

「どうして疑問形なの?」

「私、途中で寝ちゃったのと、それと、ベル、よかったの?」

「……うん。ありがとう。助けてくれて」


「ん」


 マティが目を覚ます。


「ふあー」


 オッキーも起きる。


「オッキー、マティ、おはよう」


 ベルが二人に声をかける。


「あ、ベル、起きたんだね」

「ベル、おはようございます」

「オッキー、マティ。助けてくれてありがとう」


 ベルは二人にもお礼を言う。

 だが、ベルは言わないといけないことが他にある。


「ごめんなさい」


 ベルは頭を下げる。


「私、みんなをダイとリックと一緒に誘拐しようとした。結果として私も売られそうになったけど、でも、最初は私があの店に連れて行った。お金のために」


 ベルは涙を流し始める。


「私、だから、罪を償おうと思って辺境伯の屋敷に行った。罪を償わせてもらいたかった。だから、私、もう一回行かなきゃ。辺境伯に捕らえてもらって、罪を償わなきゃ。助けてくれてありがとう。でも私、行くね」


 ベルがベッドから抜け出す。


「オッキー、マティ、それからエヴァ、ありがとう。楽しかった。もう会えないかもしれないけど。私うれしかった」


 ベルは部屋を出る前にもう一度お礼を言って、胸の銀貨を右手で押さえた。


 バン!


 突然、オッキー達の部屋のドアが開かれる。

 四人全員が目を見開いてドアを見る。


「はい。全員集合!」


 リシェルが顔を出して言う。


「リシェル、着替えて?」

「そう。着替えて。急いでね」

「「「はい」」」


 リシェルは部屋を出ていった。


「みんな、行って。私、その間に出ていくね」

「ベル……」


 オッキーが猫の着ぐるみのままベルに声をかける。しかし、


 バン!


 再びドアが開いて、リシェルが顔を出す。


「私、全員って言ったからね。ベル、逃げるんじゃないよ」


 そう言って、リシェルは再び部屋を出て行った。





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