救出(優香と恵理子)
「ベル、お前が口を割ったらこの商会が終わりだってわかっているんだろうな」
最上階、会長室で壁に縛り付けられたベルにリンドバーグが詰め寄る。
「はい。わかっています」
「じゃあ、何で出頭をしたんだ?」
「私がやった罪を償うためです。自分のためです」
「そのために、母親である私を危険にさらしたのか」
パシン!
ベルのほほが殴られる。
「それで、私をも売るつもりだったのか?」
「いえ、そこまでは考えていません。冒険者パーティクサナギの姫たちを売るために誘拐した。その件だけを話すつもりでした」
「だが、どこでどうばれるかわかったものじゃないだろう」
リンドバーグは、椅子を持ち上げてベルにぶつける。
ドン!
「きゃあ!」
ベルが悲鳴を上げ、額からは血が流れる。
「貴様がやったことは、恩を仇で返すってことだ。いいか、お前は私が育てた。私がやっているこの海賊と商会による商売でな」
ドン!
母親は再び椅子で殴りつける。
「お前は確かに私の娘だ。だがな、お前がこの商会をも売ろうとしたことは絶対に許すことはできん。それにだ。お前はすでに街中で顔がわれている。しかも、誘拐に関わったと自供した。そんな娘をここに置いておくわけにはいかん。私達とお前の関係を調べられるわけにはいかないんだ。残念だが、消えてもらう」
「会長。消すならあいつらにやってくれませんかね。娘さんですが。そうしないと、あいつら、商品に手を出しかねないんですよ」
「はぁ。まあいい。好きにしろ。だが、言っておけ。必ず殺せと。死因は事故死だ」
「はいはい。わかりましたよ」
ドゴーン!
その瞬間、会長室のドアが吹き飛ぶ。
「ベル!」
ヨーゼフとラッシーと一緒に姫様隊の三人が部屋に飛び込む。
「オッキー?」
ベルは、オッキーの呼びかけに何とかそこまで声にして、気を失った。
「貴様ら、ベルに何をした」
「は? お仕置きだお仕置き。実の母親が悪いことをした子供にお仕置きをするのは当然だろう?」
「だからって、ここまで」
エヴァが近づこうとするが、男が立ちはだかる。
さらに、
「お前ら」
と、リンドバーグが叫ぶと、隣室から男たちがぞろぞろと部屋に入ってくる。
「ヨーゼフ、ラッシー、私達にやらせて」
「「わふ?」」
そう鳴いてヨーゼフたちは後ろに下がる。
「ちょっと怒ってるよ」
オッキーとマティが剣を抜く。そして、エヴァが右手を前に突き出す。
「エヴァ!」
「はい!」
エヴァがアイスバレットを何十と顕現させてばらまく。無詠唱で。
ズドドドドド……
それに動揺した男たちを、オッキーとマティが切り捨てていく。
「なっ! 速い!」
ザシュ、ザシュ……
次々と倒れていく男達。
リンドバーグはその光景を見て窓際へと後ずさる。
強い、強すぎる。
魔導士を狙えば剣士が、剣士を狙えば魔導士が攻撃してくる。
しかも、気づかなかったが、剣士も近距離で魔法を撃ちこんでいる。よって、二人、三人で囲っても、全く歯が立たない。
何なんだ、こいつらは。
最後の男が切り捨てられた時、
パリン!
リンドバーグは、窓を破って外に逃走した。
「あー、逃がしちゃった」
エヴァが窓の下を覗き込む。
「ま、仕方ないさ。今回は、ベルの救出が目的だし」
「それより、エヴァ、ベルに治癒魔法」
マティがエヴァにベルの治療をせかせる。
「そうだった。急げ急げ」
オッキーとマティがベルを壁からおろす。そして、床に寝かせる。
エヴァはベルの胸に手を当て、そして、エヴァのできる最大限の治癒魔法をかける。
「ヒール!」
エヴァの手が光り、ベルの傷が治っていく。
そして、最大限の治癒魔法をかけてしまったエヴァは、ぱたんと倒れた。
「あーあ、またいつものか」
オッキーが呆れる。
「仕方ないよ。それだけ気持ちが乗っちゃったんでしょ。さあ、ヨーゼフにのっけよう」
「じゃあ、ベルはラッシーだね」
マティがエヴァを、オッキーがベルをかかえる。
「ヨーゼフもラッシーも、お願いしてもいい?」
「「わふ」」
二頭の背中にエヴァとベルを乗せ、オッキーとマティは一階へと降りる。
「あ、お疲れ様です」
一階は、すでにミリー達によって制圧された後だった。
「ベルは大丈夫なのか?」
「はい。エヴァが治癒魔法をかけました」
それでこれか。
と、ミリーはヨーゼフの上で倒れているエヴァを見る。
「オッキー、上に生きている者はいるか?」
「いません。しかし、ベルの母親らしき人物が窓から逃げました」
「そうか。まあ、仕方あるまい。それじゃ、帰るぞ」
ミリー隊、オリティエ隊とともに、オッキー達姫様隊も商会のビルから出ていく。そして、ミリーはアリーゼ達魔法少女隊に命じる。
「魔法少女隊。燃やしてしまえ」
「「「「はい」」」」
「「「「インフェルノ!」」」」
ドゴーン!
ビルの一階から最上階に向けて、巨大な炎の柱が立ち上がる。
「魔法少女隊。ついでだから、隣のビルには水をかけておけ」
「「「「はい」」」」
「「「「ウォーターボール」」」」
炎が弱まったこと、よそへ火が移らないだろうことを確認して、ミリーが声をかける。
「よし、帰ろう」
こうして、夜更かしをしなくて済むような時間に、ミリー達は全員、宿へと帰還する。
「ハァハァ、なんなんだあいつら」
ベルの母親、ベルリン商会会長であるリンドバーグは、息もとぎれとぎれに港の端に逃げてくる。
そして、一隻の中型船に乗り込む。
「開けろ、私だ」
「あ、会長。商会が燃えていますが、どうしたんです?」
「いい。拠点に向かうぞ。船を出せ」
「は、はい。お前ら、船を出す。準備しろ!」
船員が船中に声をかける。
船員たちは暗闇の中、船の帆を広げ、出港準備を行う。
「会長、出ます」
「頼む」
そうリンドバーグが指示した瞬間、空が突然明るくなる。
いや、空だけではない、船の周りを覆うように、ファイアボールがいくつもいくつも浮いている。
そして、明るく照らし出される船。
「な、なんなんだ、これは?」
リンドバーグが周囲を見回して、驚愕の声を上げる。




