動かない理由なんてありません(優香と恵理子)
不安を伴ったエヴァの質問に答えたのはヴェルダ。
「お前達を誘拐した犯人だぞ? 心配する方がおかしくないか?」
そう言われて、エヴァは言い返すことが出来ない。オッキーとマティもだ。
三人は、服の下で胸にかかっている銀貨を手で押さえる。
そして、流れる涙。
それを知ってか知らずか、優香が解散を指示する。
「ということだから、ミリー、オリティエ、夜更かしをしないように解散。それと、夜なら人目につかないだろうから、ヨーゼフとラッシーを放してよし。それじゃ、お休み」
「「はっ」」
ミリー隊とオリティエ隊が部屋から出ていく。
そこに立ったまま残っている姫様隊。
涙が頬を伝い、顎から落ちる。
「ほら、私達が部屋から出ないと、優香様方が寝られないでしょう」
そう言って、ミリーとオリティエは三人の襟首をつかんで引きずっていく。
パタン!
優香たちの部屋の扉が閉められた。
ミリー隊もオリティエ隊も優香たちの部屋から離れ、自分達の部屋へと移動する。
その廊下で、ミリーがオッキー達に言う。
「いつまで泣いているんです?」
「ごめんなさい。ごめんなさい」
エヴァがミリーに謝る。
「さあ皆、夜更かしをするなという命令です。いいです? 速攻で終わらせます。着替えてきなさい。完全武装です」
「「「はい!」」」
「「「え?」」」
ミリー隊とオリティエ隊が出撃準備に走って行ったのに対し、姫様隊は状況がよくわからず立ち尽くす。
そんな三人にミリーが再度命じる。
「あなた達、何をしているんです。出かけますよ」
「え、でも」
「言われましたよね。夜更かしをするなと。だから言いましたよね。夜更かしをしないように早く解決すると。大事な家族が泣いているんです。動かない理由なんてありません。ヨーゼフとラッシーまで走らせていいと言ってくださっているんです。何をするかわかりますよね。ほら、早く出撃準備を整えなさい」
「「ミリー」」
エヴァとマティがミリーに抱き着く。
「オリティエ、ありがとう」
オッキーが頭を下げる。
「いいから準備!」
「「「はい!」」」
「それから、感謝は優香様と恵理子様に」
「「「はいっ!」」」
出撃準備が整い、宿の前に集まる。
「姫様隊、ベルのにおいがするものを持っているか?」
オリティエが声をかける。
「「「はい」」」
三人が首にかけているポーチを取り出す。
「それをヨーゼフとラッシーに嗅がせろ」
ヨーゼフとラッシーがポーチのにおいを嗅ぎ、
「「わふ」」
と、鳴いた。
「よし、出るぞ。まずは辺境伯邸の裏だ。準備はいいか。仮面をつけろ」
ミリー隊、オリティエ隊、姫様隊の全員が仮面を装着する。
「出る!」
その一言に対し、全員が無言で行動を開始した。
辺境伯邸の裏までたどり着くと、
「「わふ」」
ヨーゼフとラッシーが辺境伯邸に背を向けて走り出す。
メンバーはそれについて街の中へ、闇夜に再び紛れて行く。
細い路地に入って、西へ西へ。
そして、街の西端近くのある一軒の家の前でヨーゼフとラッシーが立ち止まった。
玄関からも、窓からも、光は漏れていない。
誰もいないか、すでに寝ているか。
ドカッ!
ミリーはお構いなく、玄関を蹴り開ける。
ヨーゼフとラッシーがミリーの左右をすり抜けて突入する。
ヴェルダとメリッサ、ウルリカとトリシャは階段を二階へと上がっていく。
そして誰もいないことを確認する。
ヨーゼフたちは、奥の部屋へ行き、地下へと続くドアを足でひっかく。
ヴェルダ達が戻って来たところで、ミリーが扉を開け、ヨーゼフとラッシーを先頭にして地下へと走り込んでいく。
そして、下水道の通路へ。
「ヨーゼフ、ラッシー、つらいよね。ごめんね、頑張って」
エヴァはヨーゼフとラッシーを隊列の後ろからねぎらう。
ヨーゼフとラッシーは走る。
時に右に曲がり、時に左を曲がり、下水路を飛び越え、走っていく。
「ヴェルダ」
ミリーが声をかける。
「はい。おそらくですが、走っている方向、下水の流れる向き、海の方、北へと向かっています」
とある階段の前で、ヨーゼフとラッシーが止まった。
「ここは?」
ミリーが聞くと、同じようにヴェルダが答える。
「位置的に、ベルリン商会かと」
「ベルリン商会?」
「はい。ベルの家の裏にある商会です」
「なるほど。じゃあ、行こうか」
ミリーを先頭に、ミリー隊、オリティエ隊、そして姫様隊が階段を上がっていく。
すると階段の先、地上へ出るであろう天井に設置されたドアにつき当たる。
「アリーゼ!」
「ファイアランス!」
ドゴーン!
ミリーの命令に間髪入れずに放たれたアリーゼのファイアランスによってドアが吹き飛ぶ。
当然、それを目の当たりにした商会職員が集まってくる。
真夜中だと言うのに、なぜこんなに人がいるのか。
それは、ここの商会職員たちも先ほど帰ってきたところだからだ。
ヨーゼフとラッシーを先頭にして、ミリー達は商会の部屋へと飛び出る。
「お前達は何者だ?」
商会職員と思われる男が声を上げる。
ミリーは質問に対して質問を返す。
「ベルはどこだ?」
「知らん。誰だベルって」
「そうか。じゃあ、捜させてもらう。姫様隊、ヨーゼフ達について行け」
「「わふ」」
「「「はいっ!」」」
「さてと、かわいい家族のために、ここは私達がお相手をしよう。全員、抜刀!」
ミリー隊、オリティエ隊の十二人がナイフを抜く。
「先に聞くが、お前達はうちの娘たちを誘拐して売ろうとした。それでいいな?」
ミリーが確認を取る。
「俺らは商会なんだ。売れるものは何でも売る。だが、娘? 知らんな」
「一昨日、うちの娘を誘拐した犯人二人が死んだ。海賊の仲間だったらしい。その海賊に心当たりは?」
「あるわけないだろう。うちの船が海賊に襲われる方なんだ」
「そうか。じゃあ、うちの娘の誘拐とも海賊とも関係ないってことか?」
「そう言うことだ」
「それにしちゃ、構えが様になっているじゃないか」
バシュッ!
ミリーが男の腕を切り落とす。
「グワッ!」
腕を着られた男は、切られた肩口を押さえて後ずさる。
ミリーはその腕を拾って確認する。
「そうそう。うちの娘をさらった海賊な、こんな紋章が刻まれていたそうだぞ?」
切り落とした腕の肩口に入れられた刺青を従業員達に見せる。
「貴様らー」
従業員達がカットラスを抜き、海賊となる。
「よし、ようやくやる気になってくれた。全員いいな。海賊も盗賊も同じだ! 殲滅する!」
その瞬間から、ミリー隊もオリティエ隊も、集まって来た男たち、海賊を容赦なく切り倒していく。
次から次へと襲い掛かってくる海賊たち。
だが、ミリー達は一撃も入れられることなく、相手を切り裂いていく。
彼女らは賊が大嫌いなのだ。




