使えない魔法、使える魔法(優香と恵理子)
ベルは涙が止まらない。
「ほら、ベルも首にかけなって」
オッキーがベルに声をかける。
「うん。うん」
ベルもポーチを首から下げ、そして、服の中にしまう。
そして、四人が同じポーズをとる。
右手を胸にあてる。そんなポーズを。
「うわーん」
ついに声を上げて泣きだしてしまうベルをそっとオッキーが抱きしめて頭をなでる。
「ベルは私達のなかで一番のお姉ちゃんなんだから泣かないの。ね、銀貨もポーチもありがとう、お姉ちゃん」
「そうです。ありがとう、お姉ちゃん」
「うん。ありがとう」
オッキーに続き、エヴァとマティもお礼を言う。
「うん。うん」
「おい、姫様達」
教育係のリシェルがやってきて四人に声をかけた。
四人は振り返る。
「宿の前でなに女の子を泣かせているのかな?」
「あ、いえ、リシェル……」
オッキーが両手を振る。
だが、リシェルはオッキー達をとがめたりするわけではなかった。
「ほら、出かけてきなって。女の子を泣かせたまま立たせているなんて、騎士の風上にも置けないよ。ほらほら」
と言って、オッキーとマティ、そしてエヴァの背中を押すリシェル。
ついでにエヴァのポケットにお金の入った財布を入れる。
「夕方には帰ってくるんだよ」
そう言って、リシェルは手を振って宿へと戻って行った。
「どうする?」
オッキーは三人の顔を見回す。
「お金を持たされちゃったけど」
エヴァがポケットの中の財布を確認しながら言う。
「えっと、もしよかったらだけど、また森に行きたい」
涙を拭いたベルが提案する。
「魔物討伐?」
「臨機応変で。ただ、魔法を撃つ練習だけでもいいかな。私は」
「あ」
エヴァが声を上げる。
その理由を察するベル。
「エヴァちゃん、杖……」
しかし、ベルの心配をよそに、エヴァの反応は違った。
「まいっか」
「いいの?」
ベルがエヴァに確認するが、エヴァは気にしないようだ。
エヴァはベルに杖なし魔法を見られている。
「うん。なくても平気」
「そうなんだ」
四人は街を出るべく南の門へと向かう。
「あ、ごめん。今日、お弁当作ってないや」
ベルが謝る。
だが、オッキーは気にしていない。なぜなら。
「どこかで買ってから行こうよ。リシェルが財布貸してくれたし」
「そうだね。今日はうちらが出すよ」
「えー、悪い」
エヴァの提案にベルがちょっとの遠慮をする。
だが、姫様隊にはベルに対して一飯の恩があるのだ。
「昨日サンドイッチもらったよね」
「うーん。ありがとう。じゃ、御馳走になる」
四人は屋台でお弁当を四つ仕入れ、街を出た。
森に入り、昨日来た池に着く。
「んー。今日は魔物いなかったね」
ベルは池の周りを見回すが、ホーンラビットもホーンウルフも見つけられない。
「昨日散らかしたから」
オッキーがため息をつく。そりゃそうだと。
「だから言ったじゃん、一匹は狙えるけど、後は逃げちゃうよって」
「あのストーンバレットね」
「あのって……なんか馬鹿にしてる?」
ベルがオッキーにすごむ。
身長的にちょっと下から。ベルの方がオッキーよりちょっと背が低い。
「ううん? すごい勢いで飛んでくなって」
オッキーは視線を外して言い訳をする。
「それは、ストーンバレットだから」
ベルはポケットから拾った小石を手に持って、池に向かってストーンバレットを撃ちこんだ。
それを見ていたオッキーがベルに聞く。
「それ、魔物の頭に当てるくらいだから、正確だよね」
「うん。けっこう自信がある。っていうか、昨日自信が戻ったかな」
「そう」
オッキーは森に入って行って手ごろな棒を拾ってくる。
そしてそれを両手で持って剣のようにかまえる。
「ベル、それ、私に向かって撃って」
「え、危ないよ」
「大丈夫。もしものことがあってもうちには治癒魔導士がいるから」
「……いいの?」
ベルが慎重に、もう一度確認をする。
「いいよ」
「それじゃ、行くよ」
ベルは覚悟を決め、ポケットから小石を取り出して、振りかぶる。
「ストーンバレット!」
バシュ!
小石がオッキーに向かって飛んでいく。
カキーン!
勢いがあってもしょせん小石。
棒きれで小石を切るかのように振り切り、オッキーは、小石を打ち返してしまう。
「あー?」
ベルは小石が大きく飛んでいく頭上を振り返り眺める。
「オッキー、なんとなくだけど屈辱を感じるわ」
ベルが真顔でオッキーに言う。
さっきの心配事はどこかへ行った。
「もう一回やってみよう」
オッキーがベルに要求する。
「む。行くよ」
ベルは振りかぶった。
「ストーンバレット!」
カキーン!
「ストーンバレット!」
カキーン!
「ストーンバレットー!」
カキーン!
ベルが崩れ落ちる。
「なんていう反射神経……」
ベルにオッキーが近づいて言う。
「ベル、この……ストーンバレットだけど、狙いは正確だし、スピードも速い。だけどこれ、小さなホーンラビットくらいならいいけど、魔物が大きくなるとダメージがあまり入らないよね。それに、すばしっこい魔物にも避けられると思う」
「オッキー、もう一つ試していい?」
ベルが立ち上がってこぶしを握って意気込む。
「いいけど……」
オッキーがベルから離れて元の位置に立つと、ベルは魔法を唱える。
「アイスボール。からの、アイスバレットー!」
カキーン!
ベルは再び膝から崩れ落ちた。だが、ここでは終われない。
「マティ、お願いします」
ベルからの指名に、マティがオッキーから棒きれを受け取る。
「撃ってください」
マティが構える。
「じゃあ行くね。アイスボール、からの、アイスバレットー!」
カキーン!
がっくり。ベルは、両手両ひざをついてうなだれた。
そんなベルの肩に手を乗せて慰めるエヴァ。
「大丈夫。ベルの魔法はストーンバレットもアイスバレットも素直なだけだから」
ベルはふと母親の言葉を思い出す。
「魔法を行使できるかどうかじゃなくて、利用できる魔法かどうかだ」
「エヴァ、私の魔法って、利用できないの? 使えないの?」
「うーん。オッキーが言ったように相手次第ってことじゃないかな」
「ねえ、エヴァ、私に魔法を教えて。お願い。魔法が好きなの。でも、使えないって言われていて」
ベルがエヴァに懇願する。
「……ごめん、ベル」
エヴァはそう答えた。
ベルは、エヴァの返事にがっくりとうなだれる。
「あのね、私、このパーティに入れてってお願いした時、全然強い魔法を使えなかったの。でも、このパーティで魔法について勉強した。私、王立学園しか出ていないからわからないけど、このパーティの教え方っていうか、魔法の上達の仕方って、学園と全然違うの。だからみんなすごい魔導士なの。私なんてまだ全然なの。で、上達の仕方、練習方法なんだけど、パーティの秘匿事項なんだよね。だから。ごめん」
「そうだよね。教えてなんてもらえないよね」
パーティメンバーじゃない。
だけど、ベルにはわかる。
それ以前に、信用されていない。
当たり前だ。この三人にひどいことをした。
後悔しかないが、悔やんでも悔やみきれない。
「ベル。でも、一つだけ見せてあげる」
エヴァは立ち上がってマティに声をかける。
「マティ、かまえて」
「え? エヴァがやるの?」




