二属性魔法使いベルの三つ目の属性(優香と恵理子)
結局、もう一匹のホーンラビットを、オッキーが剣でいなし、マティがとどめをさす、といういつもの形で倒し、帰ることにした。
「オッキーとマティちゃんの連携もすごいね。何度も練習したの?」
「うん。三人で魔物を狩りに行く事がほとんどだから、オッキーがパリィで体勢を崩して私が倒すか、二人で体勢を崩してエヴァがドーンか、それが必勝パターンかな」
マティが答える。すっかりベルの明るさになれたようだ。
ホーンラビットの討伐証明と肉は、ベルのバスケットに入っている。
「持とうか?」
と、オッキーが言った時には、
「いやーん。かっこいい。でも、私が一番お姉ちゃんだから持つね」
と、ベルはバスケットを譲らなかった。
オッキーは、言葉を失ったが。
帰る途中、行きにベルがホーンラビットを倒した池に出る。
「あ、私、エヴァちゃんの魔法、見たいな」
「私の魔法ですか?」
「うん。昨日、無詠唱で四つも的確に当てたでしょ。でも、今考えると、あのアイスランス、どこから飛ばしたの? 部屋、狭かったと思うけど」
「うーん。ま、いいか。今日は一度も魔法を使っていないし」
エヴァは背中に背負っている杖を手に取る。
「えっと、エヴァちゃん、昨日、杖もって魔法を使ってないよね」
「……うん。気持ち、っていうか、雰囲気」
「そっか。大事だよね。そう言うの。私、杖を持っちゃうと、ストーンバレット使えないからさ」
「……」
だから、それは違う。と、エヴァは思う。
「えっと、見てて」
と、エヴァは魔導士らしく杖をかまえると、目をつむって念じる。これまでの訓練によってそんなことをする必要はないが、あくまでも雰囲気である。
そういえば、無詠唱は昨日見られているか、と、エヴァは自分の周りに四つのアイスランスを顕現させる。
そして、目を見開き、杖を掲げ、
「アイスラーンス!」
と声を上げると、四つのアイスランスが池に突き刺さった。
ドオン、ドオン……
「エヴァちゃん、すごい。おっきなアイスランスを四つも。しかもアイスランス、透明できれいだった」
ベルは指を組んで感心した目をエヴァに向ける。
そして、ベルは、自分も、と言い出す。
「実は私もアイスバレットを使えるんだ」
「え?」
嫌な予感しかしないエヴァ達。
「アイスバレット?」
「うん。特別だよ。あんまり見せないんだ。エヴァちゃんが魔法見せてくれたから、私も見せるね」
そう言って右の手のひらを上に向けてベルが念じる。
「アイスボール」
そう言って。
すると、ベルの手のひらに氷のボールが顕現する。
「え」
エヴァが思わず声を上げてしまう。
無詠唱で氷の玉を顕現させた。ストーンバレットという名の風魔法の時もそうだ。詠唱していない。
しかし、ベルはエヴァのその反応を気にしないかのようにその氷のボールを握り、そして、後は同じだ。
大きく振りかぶって、
「アイスバレットー」
と池に向かって投げた。
バシャン!
「どう? ランスとはいかないけど、アイスバレット。ストーンバレットより大きいから、与えるダメージも大きいんだ」
「う、うん。ベルって二属性の攻撃魔法が使えるんだねー」
エヴァは顔を引きつらせて一応の感心をする。
水属性魔法で氷のボールを作り出し、それを風魔法で投げる、という二つの魔法を連続して使ったベルのアイスバレット。
ただし、ベルは風魔法を使っているという自覚は全くない。そのため、
「そうよ。土魔法のストーンバレットと、水属性のアイスバレットね。もちろん、水魔法は水も出せるわよ」
と、ある意味期待通りの答えを、しかも得意げに出すベル。
「ぷっ」
思わずエヴァは笑ってしまう。
「あー、エヴァちゃん、ランスが撃てるからって、馬鹿にしてー」
ベルが頬を膨らませる。
「違うよ。違う。属性が面白かっただけ」
エヴァが片手でおなかを、もう片手で口を押さえながら、言い訳をする。
「なにっていうの? そのおもしろいって属性。もしかして、私、土と水、それからそのエヴァの言う属性の三属性持ちだったってこと?」
それを聞いたオッキーがふざけてベルのおでこに手を当てる。
「なになに、うーん。こ、これは……」
オッキーは、深刻そうな顔をする。
一方のベルは真顔だ。
そして、オッキーはベルに告げる。
「ベル、君は三属性持ちだ。一つは土、二つ目は水。そして三つ目だが、これは珍しい」
ベルがごくりとつばを飲み込む。
オッキーは、ためにためて答えを口にする。
「三つめは天然ボケ属性だ」
「……」
ベルが固まり、
「「ぶふっ!」」
マティとエヴァが噴き出す。
「あー、ひどい。オッキー、あなた本当に人の使える魔法属性がわかるのかと思っちゃったじゃん。三つ目、何か期待しちゃったじゃん。しかもなに? 天然ボケ属性って?」
「あはは」
「あははははは」
「「あははははは」」
四人はおなかを抱えて笑った。
「でもね、ベル。天然ボケ属性魔法って言うのは、きっとだけど、人を幸せにする魔法なんじゃない? みんな笑っちゃった」
「え?」
ベルが頬を染める。そんなことを言われたことはなかった。
なんだかうれしい。
私は人をしあわせにできるのか……。
みんなで笑えたこと、それがうれしい。天然ボケ属性はどうかと思うが。
「ありがとう、オッキー、それからマティちゃん、エヴァちゃん」
ベルが頭を下げた。
「ん。こちらこそ、天然ボケ魔導士さん」
それに対して、オッキーが返事をする。
「ん? ひどいー。そんな属性ないもん! そんな魔導士いないもん!」
「「「あははははは」」」
「「「「あははははは」」」」
街にたどり着き、冒険者ギルドへと行って、討伐証明の角と肉を買い取ってもらう。
「えっと、皆さんは一つのパーティじゃないですよね。お金、どうします?」
「四等分で」
受付嬢の問いにベルが答える。
「ベル、一匹はベルが倒したんじゃん」
オッキーがそれはもらいすぎだとベルに言う。
「いいの、みんなで行ったから」
「ふふふ。それじゃ、銀貨四枚。一人一枚ずつです」
受付嬢はその様子をほほえましく思い、銀貨を四枚取り出す。
「ありがとうございます」
ベルは嬉しそうに銀貨四枚を受け取り、一人に一枚を配った。
「うれしい。みんな、ありがとう。私、この銀貨、大事にする」
そう言って、ベルは一枚の銀貨を両手で握り締めた。
冒険者ギルドを出たところで、ベルが別れを告げる。
「みんな、今日は付き合ってくれてありがとう。とっても楽しかった。また一緒に行けると嬉しいな」
と、少しだけ寂しそうな顔をする。
「それじゃ、またね。バイバイ」
そう言ってベルは走って去って行った。
「楽しかった、か」
オッキーがつぶやく。
「警戒をしていたけど。飲まれちゃったね」
エヴァが笑う。
「そうね。あんな子供っぽい十九歳、いたんだって感じ」
マティも笑う。
「さあ、私達も帰ろう。仕事が残っているかもしれないし」
「それでどうだった?」
オリティエが帰ってきたオッキーに聞く。
「それが、最初から最後まであんな感じでして」
マティとエヴァは、ポケットの中に入っている銀貨を服の上からぎゅっと握り締める。
「そうか。また来るかもしれないが、何が目的で近づいてくるのか、気にしておけよ」
「はい」




