武闘会にも出させてもらえない庶民、商家を買う?(優香と恵理子)
「薬草採取が多いですね。頑張りましたね」
受付嬢は、新人が頑張ってシルバーになったことをほめる。
「ありがとうございます。それで、質問していいですか?」
「いいわよ」
「この辺りで、薬草採取や、常設依頼の魔物討伐を行うのに、ちょうどいいところはありますか?」
「うーん。この王都はね、平野に作られていて、森がねー。ここから東に進んで、分かれ道で北東へ向かうとノーレライツ王国。南東に向かうとサウザナイト帝国。だけど、そのまま東に行くと森が広がっているの。そこが薬草集めや魔物討伐にはいいのだけど、ちょっと遠いのよね。行くだけで三時間はかかるわ。だから冒険者はその分かれ道のところにある村に泊まっていることが多いの。そこに買取屋もあるし。あと、北には小一時間くらいで森があるんだけど、こっちは、カッパー向きなの。シルバーの皆さんは、できれば避けてほしいわ」
「では、この辺で行える常設依頼って?」
「まあ、街中でやる雑用。これはカッパーの仕事ね。取っちゃだめよ。それから、魔物討伐、都市間の護衛、それから、訓練の相手、かしら」
「最後のは何です?」
「どこの国も一緒だけど、脅威なのは隣国だけじゃないの。魔物もなの。だから、それに対抗するため、魔物の動きを知っている冒険者が、騎士団の相手をして、魔物に対応できるようにしているのよ。でもこれは、ベテランが勤めることが多いわ」
「なるほどね」
「で、ご希望のものはありそう? シルバークラスなら、技量上げを兼ねた魔物討伐だと思うけど」
「ええ、薬草採取に行ってきます」
「この流れで、何で?」
優香と恵理子は冒険者ギルドのテーブルについてミリーたちを待っている。
そうすると、冒険者ギルドの一角がにぎわっていることに気づく。
優香は、立ち上がって受付嬢のところへ行く。
「あの、盛り上がっている一角は何?」
「あー、王都がやっている感謝祭のイベントよ。あの人らが興奮しているのは、武闘会ね。あの人らは出るつもりはないわよ。単なる冷やかし」
「何で?」
「本戦は十六人のトーナメント。うち、四名は昨年度のベストフォーが推薦で確定。残りの十二人を決めるための予選会が来月。だけどね。このベストフォーはみなプラチナの上位とか王国が抱えている騎士。それに、残りの十二人も、多くがプラチナよ。基本、ゴールド以下なんて、およびじゃないのよ。でもね、勉強にはなるのよ、高レベル冒険者の戦いは。それに、かけ事もね」
「へぇ。で、優勝したら何がもらえるんです?」
「何って? 栄誉以外に欲しいものあるの?」
「え?」
「冗談よ。王城の宝物庫の中から、一つだけ欲しいものをもらえるみたいよ」
「何があるのかみんな知っているの?」
「さあ。でも、興味ない?」
「あると言えばあるけど。どうでもいいと言えばどうでもいい」
「まあ、シルバーのあなたには関係ないわよね。いつか出られるようになるといいわね」
「で、どうやったら出られるんです?」
「出るんかい!」
「はは、ちょっとだけ興味があるだけです」
「王城の騎士団もしくは衛兵の詰所に出場登録用紙があるわ。もちろん、ここにもね」
受付嬢が紙をひらひらさせる。
「あっ!」
優香がその紙を手に取って見る。
「予選の場所はこの王都の闘技場。ランダムに六つに分かれてのバトルロワイヤル? 上位二名が決勝進出。へー、意外と簡単なルールなんだね」
「何言ってるの。なんでもありなのよ?」
「でも、魔法なしって書いてあるけど」
「あのね、魔法をただ打ち合うだけの試合を見て誰が楽しむのよ。基本切り合い殴り合いなの。だから盛り上がるの。いいから、その紙、返しなさい」
「ペン貸して」
「は? 何言ってるの? 言ったわよね。なんでもありって。殺されても文句も言えないのよ?」
「死人が出るの?」
「その前に審判が止めるわ。止められればだけど。死ぬ可能性がないとは言えないわ。特にあんたみたいなシルバーじゃね」
はぁ。と、受付嬢がため息をつく。
「ヘブンリー領で突然現れたカッパーの勇者みたいな人ならまだしもね、しつこいようだけど、あなたみたいなシルバーには勧められないわ。返しなさい、その紙」
「締め切りいつ?」
「一週間後だけど、あなたには渡さないわよ」
「はいはい」
優香は、紙を受付嬢に返し、恵理子の下に戻った。
「なんだって?」
「武闘会の予選にすら出してもらえないらしい」
「あはははは。まあ、そんなもんね。期限は?」
「一週間」
「じゃあ、一週間考えましょう」
「タカヒロ様、マオ様!」
ヴェルダとメリッサが駆けこんで来る。
「ヴェルダ、メリッサ、お疲れさま。いいところあった?」
「はい! ミリーが見に来てほしいと言っているんですが」
「わかった。行こう」
二人は立ち上がった。
馬車を引き連れてヴェルダ達について行く。北に向かったと思ったら円状に描かれた大通りに沿ってぐるっと回る。王都の中心部には王城がそびえ、その周りに行政府や貴族街が陣取っている。これらの区域も城壁が囲っており、そこに庶民は許可がないと入れないそう。なので、ぐるっと大回りをして北側を目指す。
街の真北までくると、南北に走る大通りをまっすぐ縁辺に向かって進んでいく。
「ずいぶん北だね」
「北は人気がないらしくて、それなりの物件が安く買えるそうなんです」
北側の区画、特に大通り沿いは、他の区画と同じように背の高い建物が並んでいる。しかし、少し古ぼけたイメージだ。街行く人たちの顔も少し暗く見える。一方で、子供達が走り回っている様子も見られる。王都、というより、地方の町のようだ。
結局、本当に端っこまで歩く。北の城門は開いており、まばらに人が行き来していた。
「えっと、外に出ちゃうんじゃないよね?」
「いえ、城壁沿いの通りを少し東に行ったところです」
本当に端っこか。優香は思う。
言われた通り城門を右に曲がる。
すると、手を振る面々が見えてくる。
「タカヒロ様―、マオ様―!」
優香と恵理子はミリー達がいる建物の前に馬車を止め、その建物を眺める。
「えっと、なに? ここ」
建物は三階建て。十四人で過ごすのだからそれはまあいい。いい?
それより、その横にある巨大な倉庫。
「はい、大きな商人さんが使っていたところだそうです。なので、倉庫もこんなに大きいものが併設されていて。ここなら雨の日でも風の日でも鍛錬が出来ます」
はぁ、と、優香と恵理子が呆ける。
「建物の中を見てください」
二人は、ヴェルダとメリッサに手を引かれて中に入る。
「一階は、事務所だったらしく間取りが広くなっています。ここを食堂とかミーティングルームにしてはいかがでしょうか」
はぁ。
「二階は、小部屋がいくつかあります。ここを私達が使わせていただけると嬉しいです」
はぁ。
「三階は、大きな部屋がいくつかあります。お二人のベッドルームや、執務室にいかがですか?」
はぁ。
前世でマンション暮らしをしていた二人は、こんな巨大な買い物をするなんて、思いもしていない。
「見てみてください。裏庭もあります」
建物の裏側に確かに庭がある。そこならヨーゼフとラッシーを放してあげられるか。
「それから、こっち、建物と裏庭の分と同じだけの倉庫です」
確かに、奥行きが庭の端まである倉庫が上から見える。これ、金森倉庫じゃん?
「ねえミリー、僕ら商人になるんだっけ?」




