あこがれ(優香と恵理子)
ミリー隊が宿の前で待っていると、
「お待たせ」
と、オリティエ隊が帰って来た。
「この度は、ご迷惑をおかけしました」
オッキー以下姫様隊がミリー隊に対して頭を下げる。
「あなた達がおとなしく捕まったのは理由があるんでしょ。それがその娘?」
ミリーがベルに視線を向けて聞く。
「はい。その娘、ベルが刃物を突き付けられまして」
「そう。仕方ないわね。ま、怪我もなくおとなしく捕まっていてくれてよかったわ。でもちょっと匂うけど」
「ま、今日のところはいいんじゃないかしら。オッキー達はお風呂に入って着替えて寝なさい。私とミリーでタカヒロ様達に報告するから」
そう言って、オリティエはミリーと一緒に宿に入っていった。
その他のメンバーもそれに続く。
姫様隊は、風呂に入ろうと馬車へと向かおうとする。匂うと言われたし。
そこで、放置されたベルがオッキーに聞く。
「あ、あの。私、どうしたら?」
「帰っていいんじゃない?」
オッキーがそっけなく言う。
「……」
「犯人はもう死んでいるし、大丈夫だと思うけど」
「わかった。じゃあ、今日は助けてくれてありがとう。また会えたらうれしいな」
「じゃ、気を付けて」
オッキー達は、ベルに背を向けて馬車に向かう。
ベルは、不安そうな顔をして、帰路についた。
それを宿の中から見ていたミリー。
「ヴェルダ、メリッサ、後をつけて」
「「はい」」
ベルは、日が暮れていることもあり、なるべく大きな通りを通って帰る。海の方角に向かって。
海に近づくと、すでに息をひそめた市場があり、その左右には、大きな商会の建物が並んでいる。
貿易港らしい街並みでもある。
ベルは、その大きな建物をぐるりと回って細い通りに入る。
そして、この辺りでは一番大きな商会の裏にある、小さな家々の一つに入った。
「お母さん、ただいま」
「おかえり、ベル。遅かったね。心配したよ」
「うん。ちょっといろいろあって」
「そうなの。何があったの?」
ベルは、ハンドサインで二人つけてきている、と、母親に示す。そして、
「今日は遅いからもう寝るね。明日話す」
そう言って、自分の部屋へと入って行った。
ヴェルダとメリッサは、家の明かりが消えたことを確認し、宿へと戻った。
「ミリー、オリティエ、つけてきたけど、対象は一軒の小さな家に入っていった。普通に母親と会話をして寝たみたい」
「そう。じゃあ、普通の町娘だったのかしら」
「だけど、二回ほど、探査魔法を当てられた」
「……ふーん」
じゃあ、追跡がばれたと思っていいのね。ミリーはそう思う。
「まあいいわ。どうせ、もう何もしてこないでしょう」
翌朝。
「そういうわけで事態は解決いたしました」
ミリーが優香たちに詳細を報告する。
「そ。みんな無事でよかったわ」
恵理子がその報告を聞いてほっとする。
「ところで、出発はどうなりそうです?」
「四日後に乗せてもらえることになったんだけど」
優香が船の予定をミリーとオリティエに伝える。
だが、煮え切らない言葉に、ミリーが聞く。
「だけど、どうされました?」
「あの大きな馬車とタロとジロを乗せるのに、お金が結構かかるみたい。っていうか、そのせいで、あまり交易品を乗せられなくなっちゃうみたいで」
「そうでしたか。乗せてもらえるだけ、よかったですね」
「そうなの。だから、とりあえずは四日間、自由行動かしら。あ、乗る前に、タロとジロ、ヨーゼフとラッシーのご飯を仕入れてね」
恵理子がミリーとオリティエに出発準備の指示を出す。
「「承知しました」」
ベルと母親の住む家の背向かいにある巨大な商会のビル。
ベルと母親は、地下通路を通って、ビルへと移る。
その最上階。
「で、ベル、どうだった?」
「正直に言って、相手になるとは思えません。ダイとリックが攫ったのは、あのパーティの最年少組だと思われます。その三人の落ち着きっぷりもありますが、エヴァンジェリン女王のアイスバレットは、無詠唱かつ正確にリックの両肩、両足を捕らえていました。四発同時にです」
「魔導士養成高等学園トップクラスのお前と比べてどうだ?」
「ですから、女王だけでも相手になりません。その三人が信頼していた後から来た六人。さらに、宿にいた六人の合わせて十二人。王女たちより格上かと思います」
「だが、お前の探査魔法に引っかかっても逃げなかったんだろう? 感知できないんじゃないか?」
「逆です。私ごときにつけていることがばれたとして、問題にもならない、そういうことでしょう」
「確認なんだが、その十二人には、勇者は入っていないんだな」
「ええ、勇者の二人、猫耳と女王と呼ばれる騎士、ドラゴン族が二人、それから小さな子が二人。この八人は入っていません。というより、そのさらに上だと思われます」
「ふう」
ベルの母親はため息をつく。
「そうか。わかった。では、四日後に出る船団を襲うのはやめよう」
「それがいいかと思います」
「ところでだが。お前、どれくらい疑われている?」
「思いっきり共犯だと思われています。ただ、ほほを切られそうになったことから、裏切られた、とも思われているようですが」
「もう一度近づけるか?」
「もう一度ですか? 生きた心地がしないのですが」
「向こうも、何もしなければ襲ってはこないだろう? 違うか?」
「余裕の態度ですから、そうかもしれません」
「では、勇者たちに同行して、船に乗れ」
「その目的は?」
「実は、バウワウからフィッシャーへ行く船団を襲わせたのだが、それ以降なんの連絡もない。遠目でいいから拠点の様子を見て来てくれ」
「わかりました。何もしなくていいのですよね?」
「そうだ。ただ、獣王国に行ってこい」
ベルは、再び裏にある家へと地下通路を使って戻り、外出をする。
今度は、勇者一行が乗ることにした船に交渉するためだ。もう一人乗せてほしいと。
もう一度、あの人たちに近づく。
私はあんなことをした。だから疑われている。それはわかっている。
きっと危ない。でも、疑われているというだけなら、何かをしない限り何もしてこないとは思う。
でも、でも……
ベルは、それでも、と、思う。
「かっこよかった……」




