救出作戦~ミリー隊とオリティエ隊でやらないと街が消えるの(優香と恵理子)
ギルマスと受付嬢が相談をしている中、やってきてしまうクサナギ。
「すみませーん。買取をお願いしますー」
受付から声が聞こえる。
受付嬢は、仕事をしている場合ではないと思いながら、ギルマスの部屋を出て下を覗く。
が、なんてタイミングで、と、受付嬢は冷や汗をかく。
そこには、メイド服を着たクサナギのパーティメンバーがいた。
「すみませーん」
オリティエは、二階から覗き込んでいる受付嬢をみつけて、改めて声をかける。
「は、はい。あの、えっと」
「買取をお願いしたいんですけど」
「ちょっと待ってください」
受付嬢は、もう一度ギルマスの部屋に戻る。
「どうします? クサナギ、来ちゃいました」
「ドラゴンはいそうか? いなかったらちょっと相談するか?」
「そうですね。そうしましょうか?」
「街が無くならないようにな」
受付嬢は再び二階から顔を出し、
「申し訳ないのですが、代表の方、上がってきてもらえます?」
と、若干視線を外しながらお願いをする。
オリティエはローデリカと顔を見合わせ、うなずき合う。
オリティエが階段を上り、二階のギルマスの部屋へと足を踏み入れる。
すると、受付嬢がそそくさと扉を閉めた。
「すまないが、落ち着いて、声を出さずにこれを見てくれ」
ギルマスが、背中に隠していた仮面をそっとオリティエに見せる。
「「ヒィッ!」」
ギルマスも受付嬢も思わず声を上げてしまう。
オリティエの殺気が部屋中に充満した。
「これは、うちのメンバーのものですが、どういうことですか?」
オリティエがギルマスと受付嬢にすごむ。
その気迫に気後れするギルマスと受付嬢。
「ギルドの入り口前にあったそうだ」
「それで置いた者は?」
「わからないんだ」
「これ、預かってもいいですか?」
「行動を起こすのか?」
「起こさない理由がありませんが?」
「あの、街を崩壊させるのだけは……」
受付嬢が、そっとお願いをする。
「なるべくそうしたいとは思いますが、保証はしません」
オリティエはギルマスの部屋を出て階段を降りる。
そして、ローデリカや他のメンバーと相談を始める。
ギルドにいた冒険者全員が縮み上がったのは言うまでもない。
オリティエ隊六人全員が殺気をまとったのだ。
「みんな、戻ろう」
オリティエ隊は、ギルドを出ていく。
出ていく際に、換金する物をカウンターにごっそりと置いて。
馬車で掃除洗濯をしているミリー隊にオリティエが近づく。
「ミリー、これ」
オリティエがミリーにマティの仮面を見せる。
美しいミリーの顔に、殺意の表情が現れる。
「ミリー、どうする?」
「これ、私達にやらせてもらいましょう」
「私達って、ミリー隊と私の隊でってこと?」
「ええ。私達が犯人を殺します」
「じゃ、私達が姫様隊を探しに行くと。ヨーゼフとラッシーを使っていいかしら」
「それは優香様と恵理子様にお伺いをたてないと」
「うーん。でも、お二人に知らせると、街が消えるかもでしょ?」
オリティエの言葉に少し冷静になったミリー。
「そうね。一緒に行って、私達にやらせてもらえるようにお願いしましょう」
トントントン
ミリーは優香と恵理子の部屋をノックする。
そのドアを開けるのはリーシャ。
「どうしたの、ミリーにオリティエ。そんなに殺気だって」
「優香様、恵理子様、これを」
と、オリティエがマティの仮面を優香に渡す。
もちろん、紙が貼られたままの仮面を。
それを覗き込む恵理子にリーシャにブリジット。
その瞬間、ミリーとオリティエが冷静になれるほどの殺気が部屋中に、いや、宿を中心として広がっていく。
鳥も野良猫も野良犬も鳴きながら逃げていくほどに。
ミリーが冷や汗を流しながら優香と恵理子にお伺いをする。
「優香様、恵理子様。この件、私達にお任せいただけませんか?」
「なぜ?」
優香が鋭い視線を向けてくるが負けてはいけない。
街の存続がかかっている。
「お二人が動くと、リーシャ様やブリジット様、ネフェリ様とリピー様が動きます。すると、この街が無くなります」
「そんなことしないわよ」
という優香に同意して、頷くリーシャら四人。
「それもそうね。じゃあ任せようかな」
しかし、恵理子がミリーとオリティエにお願いをしてしまう。
恵理子はキリルの街をちょっとだけ思い出した。
優香が恵理子に視線を向ける。だが、恵理子がそう言うなら任せてみてもいいかもしれない。そうとも思う。
「で、どうするの?」
優香がミリー達に聞く。
「夜が更けてから行動を開始します。金貨の受け渡し時間も夜ですし」
「ミリー隊が金貨の受け渡しの方へ。私の隊が救出に向かいます。それで、ヨーゼフとラッシーの使用許可を」
「いいわよ。お願いね。でも、何かあったら言うのよ。リーシャ達に出てもらうから」
「「はい。わかりました」」
優香たちの部屋を出たミリーとオリティエが相談する。真顔で。
「オリティエ、失敗できないわ」
「そうね。リーシャ様が出てきたら、キリルの二の舞よ。きっとネフェリ様のブレスも約束されたようなものだわ」
「そうね。速攻で終わらせるわ」
そうして、夜が更ける。
ミリー隊のアリーゼが金貨千枚の入った箱をもって、指定された空き家に一人で入っていく。
「あの、指示されたものを持ってきましたが」
アリーゼが声をかける。
その家は、明かりが全くついていない。そのため、暗い。足元すらおぼつかない。誰かがいるようにも見えない。
「奥へ入ってこい」
声だけが聞こえる。
アリーゼ達は、もし相手が魔導士だった場合に何が起こるかわからないため、探査魔法を軽々しく使うわけにはいかない。
アリーゼは慎重により暗い部屋の奥へと入っていく。
「おい、一人だろうな」
「ええ、一人です」
この段階で、上級の魔導士ではないことが決定。上級なら逆に探査魔法を使って、この家の周りにミリー達が潜んでいることを知ることが出来たであろう。
「そのテーブルの上に金を置け」
アリーゼは、暗闇の中、うすぼんやりと見えるテーブルに箱を置く。
「ふたを開けて見せろ」
そう言われて、アリーゼは箱のふたを開ける。
暗い中で見えるのかな?
アリーゼはそう思ったが、気にしない。この男はもうすぐ死ぬのだ。
「部屋から出ていけ」
そう言われて、アリーゼは後ろ向きに歩いて部屋を出ていく。そして、その家の玄関からも出ていく。
男は、テーブルの上に置かれた箱に手を突っ込み、金貨の感触を確かめる。
「よし、やった。金貨だ。しかも千枚」
暗闇の中、金貨の重さに満足する男。
しかし、その次の瞬間。
ザシュ、ザシュ、ザシュ、ザシュ!
「う、うわー」
男の両手首、両足首にアイスランスが突き刺さる。
そして、男は床に倒れ込む。
そこへ、ミリー隊が音もたてずにやってきて、倒れている男を囲む。
アリーゼもすでに戻ってきている。
ミリーが男に声をかける。
「さあ、お前のお仲間はどこですか。それから首謀者は誰ですか?」
「リックだ」
「それ誰です? あなたも誰ですか?」
「俺はダイ。俺もリックも今日、お前達の執事をしていたものだ」
「ん? 覚えていませんが。ということは、辺境伯が関係者ということですか?」
「そ、そうだ」
思わず嘘をつくダイ。自分が首謀者だと思われるのはまずい。
「リックって言ったじゃないですか?」
「辺境伯に、お前達をこの街にとどめるように言われたんだ。だからリックとあの三人をさらった。脅せば、この街にいてもらえると思った。だから首謀者が辺境伯で、実行犯のリーダーがリックだ」
「まあいいでしょう。で、何で金貨千枚なのですか?」
「辺境伯に聞いてくれよ」
あくまでも辺境伯に責任を押し付けるダイ。
「わかりました。とりあえず、あなたは死んでください。その両腕、両足に刺さったアイスランスのおかげで、傷は凍り、血は出ていませんけど。それが溶けたら流れ出ますから」
「た、助けてくれ、何でも話すから」
「そうですか。じゃあ、一緒に辺境伯のところへ行きましょうか」
「……」




