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誘拐(優香と恵理子)

 ベルは驚きの表情を浮かべる。なぜ自分の首が……。

 しかし、店員は右手にナイフを持っており、それをベルのほほにあてる。


「な、何を?」


 ベルが声を上げる。


「黙れ!」


 と、ナイフの刃の背を強く当てる店員。

 ベルが涙目になって黙る。

 店員は、ベルの首に回した腕を引いて、ベルを無理やり立たせる。


 ガタン


 ベルを立たせたことにより、椅子が倒れる。

 ベルは、自分の首に回された男の腕を両手で抑えるが、それ以上のことはできない。

 ほほにナイフが当てられたままなのだ。


 そうすると、もう一人の店員がマティの後ろに立つ。当然のようにナイフを持って。


「まずはお前、その仮面を取ってもらおう」


 その一言に、マティは仮面を取ってそれをテーブルに置く。

 ベルを抱えたままの店員は正面からマティの顔に視線を移した。


「へぇ、やっぱり幼いけど、それなりにいい顔してるじゃん」

「ちょっと見せてくれよ」


 と、マティの後ろに立っていた店員は、マティの頭に左手を置いて、後ろを向かせようと力を入れる。

 逆らっても仕方ないと、マティはその力にされるがままに後ろを向く。


「ほんとだな。でも、まだ成人してないんじゃないか」

「そうかもな。まあ、王女と女王の護衛ってところか、ちびっこいけど」

「さあ、女王様、王女様も、真ん中のちびも、立ってもらおうか」


 ベルのほほにナイフを当てたまま、店員が要求する。

 オッキーが立ち上がる。マティとエヴァもそれに続く。


 自分達にナイフを当ててくれたなら、すでに解決できたのに、と、三人は思う。


 ベルの首を抱えた店員は、後ずさりながら、ベルを引きずるように、店の奥へと入っていく。


「お前達もついてくるんだ」


 そう言って。




 オッキー達は、仕方なくついて行く。後ろからもう一人の店員がナイフを持ったままついてくる。

 オッキー達にとって、この二人ぐらい、何とでもなる。しかし、ベルが。

 てっきりこの男たちの仲間かと思ったが、ベルの顔は本当に恐怖を感じているようにも見える。


 ベルと店員は、店の奥の部屋に入る。そして、そこにあった階段を降りていく。


 地下か?


 オッキーは思うが、ついて行かざるを得ない。


 地下室は、石が積み重ねられて作られたような壁だった。

 その部屋の床に設置されていた扉。床下収納か、それともさらに下に行く階段だろうか。


 店員が扉を男が開くと、そこには、さらに下に降りる階段があった。

 それを降りていく店員とベル。それに続く、姫様隊。それから、もう一人の店員。


 最後からついてくる.店員は、階段を降りると、そのドアを閉めた。

 その階段は、しばらく続き、その先にはまた扉があった。

 その扉を出ると、地下道に出る。

 そして、嫌な臭い。


 地下下水道か。オッキーはそうあたりをつける。

 が、下水道までは歩くことなく、近くにあった扉に、男はベルを連れて入っていった。


 その部屋は二重扉になっており、奥側の扉は、扉というより、鉄格子だった。


「ほら、全員入れ」


 店員に連れられたベル、姫様隊、最後にもう一人の店員が部屋に入る。


「さあ、しばらくここにいてもらおうか。王女様達は、部屋の奥に行ってもらおうか」


 オッキー達は、だまって指示に従い、部屋の奥へと進んで振り返る。

 店員は、ベルを連れて入り口まで戻ると、ベルを部屋の中につきとばして鉄格子を閉め、さらに鍵をした。


「えっと、どういうつもりかな?」


 オッキーが問いかける。


「どういうつもりかだと? お前らは金になりそうだしな。ちょっとそこに入っていてくれよ」


 と、一人の店員が言う。


「なあ、俺を要職に付けてくれない? 約束してくれたら出してもいいけど。ねえ、王女様に女王様」


 もう一人の店員が雇うように要求する。


「やめとけって。このお姫様達に仕えたって、ここで閉じ込めたことは忘れられないって。そしたら、殺されるぞ?」

「まあ、そうだよな。無難に金でも要求しておくか。今日、金貨千枚を稼ぎ損ねたことだしな」

「じゃあな、姫様」


二人の店員は、ドアを閉めてしまった。




 ベルは未だに立ち直っていない。

 どうして自分までここに閉じ込められたのだろうか。

 確かに、この三人を店まで誘導した。だけど、私まで閉じ込められたのはなぜ。

 そんな顔をする。


 そんなベルにオッキーが近づく。


「ねえ、ベル。これ、あなたが仕込んだことよね」

「え? 私もここに閉じ込められているんだけど? ナイフを突きつけられて怖かったんだけど?」

「裏切られたってこと?」

「……」

「まあ、タカヒロ様にあてがわれるほどの顔だもの、高く売れるのかもね」


 オッキーは、ベルの顎をつかんでにらむ。


「嫌、嫌よ。わたし、お母さんと暮らして、それでちょっとだけお金を稼げたらそれでいいんだから。何でこんなことに」

「さあね。ま、ベルはベルで好きにしたら」


 オッキーはベルを離し、マティとエヴァがいる壁際まで戻る。


「あなた達はどうするの?」


 ベルがオッキーに聞く。


「私達? 待つわよ」

「いつまでここに閉じ込められているのかわからないじゃない」

「そう? 日が暮れてしばらくだと思うけど」

「何で、何でそんなことが言えるのよ」


 ベルは必死だ。

 だが、オッキーは余裕の答えを告げる。


「あいつらが死ぬのもそのころだからよ」

「……え? あいつら死ぬの?」

「やってることは盗賊と変わらないわ。ならば死なない理由が見つけられない。誰に、誰のパーティに手を出したと思っているの?」

「……」

「だから、私達はここで待つわ」


 そう言って、三人は立っている。

 ベルがそんなオッキー達に聞く。


「ねえ、ずっと立っているつもり?」

「何で? 座ったらメイド服が汚れるじゃない」

「夜までだって、まだ時間があるよ」

「大したことないわ。訓練の方がよっぽどつらいもの」


 そう言って、オッキーは腕を組んだ。




 ダイとリックは地下下水道から店に戻る。そして、マティの仮面を手に取る。


「なあ、どうする?」

「あの隠れ家に金貨千枚持って来てもらうか?」

「そうだな。それがいいんじゃないか?」


 二人は、その旨をかいた紙を、マティの仮面に貼り付ける。


「それじゃ、俺、これを冒険者ギルドの前にでも捨ててくるわ」


 と、リック。


「じゃあ、俺は隠れ家に行って金を持ってくるのを待っているな」


 ダイは受け取りを担当する。


「気をつけろよ」

「お互いな」




 ギルドの玄関先に落ちている仮面に、とある冒険者が気づく。

 それを手にして、裏を見て、貼られている紙の文面を見て驚く。

 そして、慌ててギルド内に飛び込み、受付嬢へそれを渡した。ギルドの入り口に落ちていたと。


 受付嬢は、その見覚えのある仮面を受け取り、そして、何気に裏を見る。そして、二階へと走り出す。


「ギルマスー!」


 受付嬢は二階のギルマスの部屋へと駆けこんだ。


「なんだこれは!」


 ギルマスは受付嬢が持って来た脅迫状を見て叫び声をあげてしまう。


「これ、勇者様がつけていた仮面と同じものです。少し小さく見えるのは他のメンバーのものかもしれません」

「勇者パーティにこんな喧嘩を売る奴がいるとは」

「どうします?」

「どうもこうもあるか。勇者パーティはドラゴン族を従えているんだぞ? 下手をすると、この街が無くなるんだぞ」

「そ、それは……」

「どうする。冒険者ギルドの総力を挙げて先に解決するか? それとも、素直にこのことを勇者様達に伝えるか?」

「ですけど、金貨千枚なんて、このギルドにはありませんし、女一人で来いって、私、嫌ですよ」

「だが、一人で行かないと姫様達を殺すと」


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