人には適した対応があろうというもの(優香と恵理子)
「子猫ちゃんはどうする? ミルク? それともー」
リーシャも飲み物を勧められる。
「ワイン、マオ様と同じやつ」
飲まずにやってられるかモードに入ったリーシャがワインを所望する。
「んー、いいね。じゃ、ワイン、開けちゃうね」
と言って、執事はリーシャのグラスにワインを注いでいく。
「おいしそうでしょ。ねえ子猫ちゃん、僕も飲んでいい?」
「好きにすれば」
「ありがとう!」
執事は自分ともう一人のグラスにもワインを注ぐ。
「それじゃ、リーシャちゃん、カンパーイ!」
「カンパーイ」
リーシャは無言でワイングラスを差し出す。
「お姉さまはどうするのです?」
ブリジットも飲み物を勧められる。
「果実水、ストロー付きで」
「お姉さま、仮面を外してくださらないおつもりですね? 僕、寂しいです」
結局、多くのメンバーがワインを。未成年は果実水を頼み、それぞれ、おつまみやケーキなどもいただく。
やたらとテンションの高いメイドや執事にうんざりしながら。
「タカヒロ様ー、お顔が見たいー。ここじゃダメなら、お部屋へ行く?」
「いやー、私、タカヒロ様ともうちょっとここで飲みたーい」
と、タカヒロの手を引くメイドと、隣に座って腕を抱きしめるメイドとで、タカヒロの取り合いになる。
ここまで来ると、恵理子も落ち着いてくる。
すごいな、ここのメイドと執事。これだけうちのメンバーがみんな冷めてても、テンションを維持し続けているよ。これが商売人か。と、関心をする。
アクアとパイタンも、少しずつ慣れてきた、というか、無視すればいいということを理解してきたのか、ケーキを食べ始めている。
「はい、マオ様ー、チーズですよー。あーん」
と、執事がピックに刺したチーズを差し出してくる。
貴博とメイド二人のやり取りに気を取られていた恵理子は、つい、それをパクッとしてしまう。
「おいし?」
もぐもぐもぐ。
「じゃ、僕ももらっちゃおーっと」
と言って、同じピックでチーズをさして、自分の口に運ぶ執事。
はっ、と気づく恵理子。
「ちょっと待てー!」
と、すごい勢いでそのピックを奪い取る。
執事は一瞬焦った顔を見せたものの、
「うーん、残念。マオ様ったら、旦那様の前だからって照れちゃって、か、わ、い、い!」
と、言い切った。
そのやり取りを見たメイド。
「ねえ、奥様も楽しそうですしー、一緒にお部屋で休みませんか? 旅の疲れが取れてませんよねー。お背中流しますよ? 私でよ、け、れ、ば!」
「いやーん。私がやるー」
立ちあがらされた優香の反対側の腕を抱きしめるメイド。
さすがに、仮面越しでも優香が慌てている様子がわかる。それを、つい、目にいれてしまった恵理子。
「ぶふっ」
と、恵理子は笑ってしまう。
それを見てメイドの二人が固まる。
何だこの妻は。
普通、夫がこんな状況にあれば、殺気の一つも送って来るのに、そんな目つきもしなければ、怒りもしない。
挙句に笑うだと? そんなに夫のことを信用しているのか? 手ごわい。
だが、やめるわけにはいかない。金貨がかかっているのだ。
「あら、奥様のご許可も出たことですしー、行きましょう」
「やっとお顔が見れるー。楽しみー」
と、二人のメイドは優香の腕を組んで引っぱって行く。
そこまで来ると、無言を貫いていた優香がようやく声を上げる。
「あの、辺境伯閣下を呼んでいただけたりは?」
「辺境伯様ですか?」
「少々お待ち下さい。呼んでまいりますね」
メイドの一人が部屋を出て行った。
メイドが報告に来た辺境伯カンバー。
「どういうことだ? 盛り上がっておらんではないか」
「わかんないわよ。あの、タカヒロって勇者、私達の色気に全く興味を示さないで固まっているのよ。女に興味ないんじゃないの? そもそも男なの?」
「他のメンバーも飲み食いはするが、執事たちに全然目を向けないだろう」
「どういうことかしらね。執事の質が低かったんじゃないの?」
「見た目はいいだろうが。どうしてなびかないのだ」
「さあ。何にしても、閣下、お呼びです」
「わかった」
カンバーは、来客室に向かう。
「これはこれは勇者タカヒロ様。私をお呼びとかで。飲み物も食事もいかがでしたか?」
「うん。ありがとう。おいしかった。それから、このたくさんのメイドさんと執事さんによるもてなしも、気持ちとしてはうれしい。だけど、僕らは、家族でにぎやかに食べるのが好きなんだ。僕らはやっぱり、家族でのんびりできそうな宿を探すことにするよ」
優香がそう言うと、メイド二人が優香の腕をとって抱きしめる。
「そんな―」
「ここに泊まってくだされば、私達がご奉仕いたしますのに」
「ありがとう。でも、僕らはみんな自分のことは自分でするし、家族が家族のためにするし。それで十分なんだ」
リーシャがやってきて、メイドを一人引きはがして、優香の腕をとる。
「そうよ。タカヒロ様のお世話は私がするんですから」
次いで、ミリーがもう一人のメイドを引きはがす。
「そうです。私が、タカヒロ様のお世話をするのです」
そうなると、再び優香が固まる。
仕方ない、と、両腕をアクアとパイタンに取られている恵理子が優香に代わる。
「そう言うことですので、私達はこれで失礼いたします。ここまでのおもてなし、本当に感謝いたします。何かありましたら、このように歓待をしてくださらなくてもよいので、気軽に呼んでくださればと思います」
そう、恵理子が頭を下げると、他のメンバーも頭を下げた。
そして、恵理子を先頭に屋敷を出て行った。
優香は、リーシャとミリーに引きずられて。
「閣下?」
メイドがカンバーに声をかける。
「行っちゃいましたね。まあ、あの人たち相手では、やり方が間違っていたみたいですね」
「そうだな。プラチナランクだって言っていたのに、見た目、まだ若かったな。こういう遊びをしたことがないのかもしれん。ま、見誤ったというところだな。嫌われたわけでもなさそうだし、より良い関係の構築に励むか」
「領としてはそうでしょうね。ですが、私達のお金としては」
「私がやり方を間違ったのだ。一人あたり金貨一枚払おう。それで許せ」
「「「「ありがとうございます」」」」
メイドも執事も感謝の頭を下げた。
「ミリー、オリティエ、タロとジロ、ヨーゼフとラッシーを連れて宿を探してきてくれる?」
「承知しました。タカヒロ様達は冒険者ギルドですか?」
「うん。冒険者ギルドへ行って、それから、ムーランドラへの乗船について聞いてくる」
「私達は宿を確保した後……」
「市場でも見て来て。いつ出発になるかわからないから」
「はい」
ミリー達は、宿へ。優香たちはギルドへと向かった。




