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うーん。なんだこの気持ち悪い接待は……(優香と恵理子)

 優香は、びくっとして、その一歩で固まってしまう。

 そうなると、その後ろの恵理子もその他メンバーも止まる。

 固まってしまった優香を見て、左右のメイドが優香に駆け寄り、それぞれ優香の左右の手を取った。


「ご主人様、おかえりなさいませ」

「お部屋にご案内いたします」


 そう言って、優香を引っ張って、階段を上らせる。


 そうなると、次に来るのは、執事だ。二人の執事が恵理子の前にやって来て、


「マオ様、おかえりなさいませ」


 と、両側の執事が、キラッキラの歯と満面の笑顔を見せてきた。


 後ろにいたアクアとパイタンがそれを怖く思ったのか、恵理子の右手と左手にしがみついた。

 二人は高位精霊なので怖い者なしだが、このような経験をしたこともないような、ある種の精神攻撃には弱いらしい。


 さらに幼めの執事がやって来て、


「アクアちゃん、僕と一緒に階段を上がろう!」

「パイタンちゃん、僕と一緒にケーキを食べよう」


 と、アクアとパイタンに手を差し伸べる。だが、アクアもパイタンも恵理子にぎゅっとくっつくだけだ。


「ごめんなさい。この子達、ちょっと怖いみたい。私と一緒に上がるわ」


 恵理子がそう、執事たちに言い訳をする。

 実際には、恵理子もこの気持ち悪い執事たちに手を取って欲しいとは思っていない。


「そっか。仕方ないね。アクアちゃん、ぼく、アクアちゃんと友達になりたいんだ」

「パイタンちゃん。僕も仲良くなりたいな」


 そう、満面の笑顔、アクアやパイタンにとっては気持ち悪い笑顔を浮かべ、恵理子とパイタンの後ろからついてくる。


 そんなことは、まだまだ続く。


「はーい、マイスイートキャット、リーシャ様!」


 次の執事はリーシャに絡む。

 リーシャは、耳の先からしっぽの先まで寒気が走る。

 付け耳に付けしっぽなのに。


「リーシャ様は、甘いものがお好き? それとも、お魚かな?」


 どいつもこいつも歯を光らせてキラキラの笑顔を作る。


 普段なら、フー、シャーと、犬歯をむき出しにするリーシャだが、その怖いもの知らずの執事に逆におびえてしまう。


 次いで、


「ブリジット様、ああブリジット様、どうしてお顔をお隠しになられているのですか。その可憐なお顔をぜひ、わたくしめに。どうか、御慈悲を。もしよろしければ、どうか、踏んで……」


 そして、対になってきた執事も。


「ブリジットお姉さま、僕に剣を教えて欲しいな」


 そう、上目遣いで甘えてくる。

 ブリジットには、性質も対になった執事が対応するようだ。


 ネフェリとリピーには合わせて四人の執事が担当するようだ。


「ネフェリ様、ああ、さすがはドラゴン族のお方。そのつややかな緑の髪も、引き締まったスタイルも、美しい」

「リピー様もです。私も自分を磨いているつもりですが、ああ、リピー様にはかなわない」


 こんなのが、ミリー達、オリティエ達にも続く。


 そんな感じで、誰もがげんなりして階段を登り切り、屋敷のエントランスに入った。

 すると、そこには、一人の貴族がいた。


「ようこそ、我がシーガル領へ。私は、この地を納めさせていただいている、辺境伯のカンバー・シーガルと申します。以後お見知りおきを。さて、勇者の皆様におかれましては、どうぞ、この屋敷に好きなだけ滞在していただきたく思っております。もちろん、お金は必要ありません。長旅でお疲れでしょう。どうぞ、いつまでもごゆっくり休まれてください」


 そう言って、頭を下げた。

 さらに、カンバーは、メイド、執事に命じる。


「お前達。勇者様方をおもてなしなさい」

「「「「はい」」」」


 その返事を聞くと、カンバーは


「お部屋が用意できますまで、そちらの来客室でお休みください」


 そう言って、下がっていった。


「それでは、タカヒロ様、どうぞこちらへ」


 相変わらず、優香の両手を取っている二人のメイドが、優香を来客室へと連れて行く。


「マオ様もどうぞ」

「アクアちゃんも行こう!」

「パイタンちゃんも、ケーキ用意するからね」


 と、恵理子達も六人の執事に囲まれて移動する。

 リーシャ以降もそんな感じだ。




 来客室に入ると、壁ぎわにやたらと長いソファが置かれている。


「タカヒロ様、どうぞこちらへ」


 と、優香はソファの一番奥側に座らされる。

 次いで、少し離して恵理子とアクアとパイタン。

 さらに少し離してリーシャ、さらに離してブリジット……というように、一定間隔をあけて座らせていく。しかも、その前に、一人ひとつずつテーブルが置かれる。


「それでは、お飲み物とお菓子などお持ちしますので」


 そうメイドが優香に言うと、全メイド、全執事が部屋から出て行った。




 それを見計らって優香が恵理子に聞く。


「これ、何?」

「わかんないわよ。何? 私、行ったことないけど、メイド喫茶とか執事喫茶とかそういうやつ?」

「ノリ的にはそんな感じだよね。私も知らないけど。でも、目も歯もキラッキラで、笑顔もすごくて……ちょっと気持ち悪い」

「うん。これ、相手を間違えていると思うわ」

「そうだよね。千里ちゃんや桃ちゃんなら楽しめたのかな」

「そうかも」




 一方、飲み物やお菓子を取りに部屋を出たメイドに執事は、厨房でカンバーから叱咤される。


「いいか、お前ら、この街に永住すると言わせたら、一人当たり、金貨五十枚だからな。勇者一行なんだ。この街の顔になりえる存在なんだ。是非、とどめていおきたい。気合を入れて落とせ。いいな」

「「「「はい」」」」

「特に、勇者の二人、それに、ねらい目は、オキストロ王女殿下にエヴァンジェリン女王陛下。この四人は残って欲しい。まあ勇者の二人が残ってくれたら、他が残ってくれるかもしれないしな、この二人を狙うのがいいのかもしれないがな」

「辺境伯閣下、永住する方法は何でもいいのですよね」

「ああ。いいぞ。お前が婚約できるなら、それでもいい」

「よし、狙ってみるか。女王陛下か。やりがいがあるぜ。見た目かわいいしな」

「アリーゼちゃんもナディアちゃんも小さくてかわいいよ」

「ミリー様なんて、超美しいじゃないか」

「オリティエ様も負けてないぞ」

「おい、そろそろ戻らないと、怪しまれるぞ」

「「「「はい」」」」




 来客室に、カートを押したメイド、執事が戻ってくる。


「タカヒロ様、お飲み物は何になさいます? 紅茶? 果実水? それとも、お酒かしら? もしかして……私? キャッ!」

「いやーん、タカヒロ様、仮面をかぶってちゃ、その表情がわかんなーい」


 きゃぴきゃぴのメイド二人に攻められる優香。仮面の下は、完全にドン引きだ。


 それを目にした恵理子も、目が点になっている。

 すごいな、と。


「マオ様はどうされますか? んー、僕のおすすめはですね、これ、ワインです。これ、獣人の国から届いたばっかりの、ワインなんですよ」

「じゃ、それで」


 恵理子は、目が点になったまま、説明をよく聞くこともなく、オーダーする。


「それではワインによく合うチーズも用意しますね」

「アクアちゃんとパイタンちゃんは、どのケーキがいい?」


 二人は恵理子にくっついたままだ。


「それともクッキーかな? 飲み物はー、果実水! おいしいんだよ。僕もよく飲むんだ」


 そう言って、アクアとパイタンの前には、果実水とケーキ、クッキーの盛り合わせが置かれていく。



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