シーガルの街での歓待(優香と恵理子)
優香たちクサナギの馬車は森の中を進む。北へ北へ。
途中の町も里も長老の手紙のおかげでトラブルもなく進む。
食材の調達すら、エルフ達の好意でさせてもらえた。
よって旅は順調だ。
森を通り、川を渡り、魔物を狩って、バーベキューをして。
次第に季節が変わって温かくなる。優香達は、暖かな風と共に北上していく。
パイタンは馬車の上で気持ちよさそうに昼寝をする。アクアも一緒に。
十日ほどが過ぎたころ、
「優香様、恵理子様、海が見えます」
御者台の上でミリーが声を上げる。
「どれどれ?」
優香が馬車の窓から顔を出す。
まだまだここは、標高の高い森の道。だが、眼下に広がる森と遠くその向こうに輝く海が何とか見える。
「よーし、もうちょいだね。みんな、よろしく」
「「「はい!」」
下り道を進んでしばらく行くと、道が川沿いを通るようになる。右に川、左に森だ。エルトを通った時の風景に似ている。
急ぎたい旅ではあるが、焦ってはいけない。着実に一歩ずつ。
貴博か、真央か、千里か、桃香か、誰かわからないけれど、近づいて行く。
それから数日も経つと、一行は海に出る。
優香が道を確認するため、オッキーに問いかける。
「オッキー、ここを左だよね?」
「はい。そうです」
「ちなみに右は?」
「ノーレライツの最東端の町になります」
「今回はスルーしましょうか。今は船に乗りたいのだし」
「それがいいと思います」
さらに数日するとシーガルの街が見えてきた。
「オッキー、そういえば、どうしてこんな東に貿易港を?」
「まあ、ある意味獣人を恐れてです。そのため、ここには、それなりに兵士が配属されています」
「それは、フィッシャーの街も同じだよね」
「貿易港はどこもそうなのでしょうか。そういうのもありますし、やはり商人が多いので、大きな街になりがちです。そのため、警備も厳重になってきます」
「それじゃ、この街は、おじいちゃんばっかりってわけじゃなさそうだね」
「はい。違います」
優香達は、東の城門からシーガルの街に入る。
東から来る人は少ない、というか優香達しかいないため、すぐに対応される。
「はい。冒険者の皆さんね。冒険者カードをお願いします」
門兵は、一人一人、その顔を確認していく。
が、気づいてしまう。
「え、え? お、オキストロ王女殿下?」
しまった、という顔をするオッキー。
ただ、ばれてまずいと言うことではない。めんどくさいだけだ。
「あの、私は今、一人の冒険者、オッキーです。お構いなくお願いします」
だが、もう一人の門兵が気づいてしまう。
「この馬車、白ヘビの紋章が書かれているぞ」
「え? ということは、カヴァデール女王陛下もいらっしゃるのか?」
オッキーの後ろに並んでいるエヴァが顔を伏せる。
その騒ぎを聞きつけて、一人の騎士がやってきた。
「恐れながら、プラチナランク冒険者パーティ、クサナギの皆さまでしょうか」
「そうですけど」
優香が対応をする。
「あなた様が勇者タカヒロ様ですね」
「はい。タカヒロです」
勇者のところは肯定も否定もしない。
「この度は、手続きに時間を取らせてしまい、申し訳ございません。今後は、この悪魔の従者が引いた馬車につきましては、手続き無く入っていただけるよう、各街に触れを出しておきたいと思います」
「そのような特別扱いは……」
「そうは言われましても、我が国の第一王女殿下がメンバーとしていらっしゃること、隣国カヴァデールの女王陛下および王配殿下がいらっしゃることから、このパーティは両国の友好の証でもあるのです。もしよろしければ、この街の中でだけでも構いませんので、両国の旗を掲げていただけると、より分かりやすいかと」
「……お互いにメリットがあるのであれば考えます」
「ありがとうございます。早速ですが、領主のところまで案内させていただきます」
「……」
騎士は馬に乗って先に進んでしまう。
仕方なく、優香達もそれに続く。
さて、こういった街は、たいていは中心に領主の館がある。
この見た目にも商業が盛んな街でもそれは例外ではない。街の中心に向かっていく道の先には、領主の館が見えている。
しかしながら、騎士は、道をそれていく。
「皆さま、ここがこの街最大の市場です。我が領は、輸入品が入って来るため、このように市場が大きく、大勢の商人でにぎわっております。輸入についてもこの間、今年最初の荷が届いたところです。それもまた、商人たちが積極的に買い付けを行っている理由になります」
と、なぜか、街案内のようなことをしてくれる。
「さて、あっちに見えるのが港です。先日入港した船が並んでいます。今は、獣人の国よりやってきた船が多く止まっています。今日は、荷をおろして落ち着いているところです。今後、こちらから輸出する商品を乗せて、また出港していく予定となっております」
騎士は、さらに街を大きく回って行く。
「ここは、教会です。この街の規模に合わせて大きく作られています。王都ほどではありませんが、それでもこの街のシンボルと言われるほど、立派なつくりになっています。もしよろしければ、滞在中にお寄りください」
そう、観光案内をしてくれる騎士に、優香が尋ねる。
「あの、領主の館に行くのではないのですか? というか、私達は宿に泊まれればそれでいので、宿に案内していただけた方がうれしいんですが」
「あ、申し訳ございません。少し、夢中になりすぎました。私もこの街が好きなものですから。いやはや申し訳ありません。それと、宿泊については、ぜひとも、領主の屋敷にお越しください。勇者様方を招かないわけにはいきません。領主としてお迎えしたいということです。ええ、食事などは出させていただきます。もちろん、お金は必要ありません」
「……」
騎士は、そう言って、気持ち程度、馬の足を速めた。
街の中央へと向かうと、再び大きな領主の屋敷が見える。
街がにぎわっていることを示すかのように、立派な屋敷が立っている。
その周りを囲っている塀も背が高く、しかも、その上には金属で薔薇のツタをデザインしたエクステリアが乗せられている。これでは塀をよじ登ることは不可能だ。
そもそも、こんなにも塀にお金をかけるとは。
正面の門も立派で、大きな金属の両開きの門が設置されている。
その門が開き、騎士が敷地内に入っていく。優香たちはそれに続き、屋敷の玄関先に馬車を止める。
優香と恵理子が馬車を降りる。
それに続いて、アクアとパイタン。リーシャとブリジット、ネフェリにリピー。ミリー隊、オリティエ隊、姫様隊。総勢二十三名。
屋敷の前で降りたはいいが、屋敷に入るために、何段もの階段を上る必要がありそうだ。
しかも、その階段の左右には、メイドが一人ずつ、そして、その後ろに階段一段につき、執事らしき青年が二人。それが二十段以上。つまり、メイド二人と執事四十名ほどが立っている。
恐る恐る、優香が一歩を踏み出す。その瞬間、合唱のような大声が上がる。
「「おかえりなさいませ、ご主人様」」
これは、先頭のメイド二人。
「「「「おかえりなさいませ、お嬢様」」」」
これは、その後ろの執事四十名。
全員が全員、目も歯もキラキラに光らせて笑顔を向ける。