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王都アストレイア(優香と恵理子)

 優香と恵理子はヴェルダとメリッサと一緒にヨーゼフとラッシーに乗り、ヘブンリー公爵領都を出る。

 そして、待っているミリー達と合流する。


「大丈夫でしたでしょうか、お時間かかられたようですが」


 ミリーがヨーゼフに乗る優香に声をかける。


「ほら」


 優香が促すと、優香と恵理子の後ろから、ヴェルダとメリッサが申し訳なさそうに顔を出した。


「「ごめんなさい」」

「二人は、少女を守ろうとしたんだ。勇敢にね。だから、僕は二人をほめたいと思うよ。どう?」

「あの、その件はその通りですが、二人が謝っているのは別件かと」


 ミリーがいう。


「ほら、タカヒロ様にちゃんと謝りなさい」

「「パンツを買ってくるのを忘れました! ごめんなさい!」」


 二人は深々と頭を下げた。

 優香は唖然とする。

 その一方で、恵理子は大笑いだ。

 ヴェルダとメリッサが頭を下げ続けるので、たまらず恵理子が優香の横腹を肘でつつく。


「はっ。あ、ヴェルダ、メリッサ、気を遣ってくれてありがとう。次の街で買うよ。っていうか、選んでくれるかい?」


 と、優香が二人にお願いをする。


「「はい!」」


 二人は、満面の笑顔を咲かせた。

 恵理子の笑いは止まらないが。




「タカヒロ様、かっこよかったのです。プラチナBランクですよ。プラチナBランクに圧勝です。こうですね、剣を下から切り上げると思ったら、時が止まったかのように静止したのですよ。相手が空ぶった後に、時間が戻り、ザシュって! しかもですよ、しかも。その瞬間に、剣をくるって逆刃に代えて!」

「「「うわー」」」


 ヴェルダとメリッサの話に、目にハートを浮かべるメンバー達。


「いいなー。私もタカヒロ様の勇姿を見たかった」

「前の街の時もかっこよかったわ」

「私達を救ってくれた時だって」

「ああ、タカヒロ様とマオ様は、いつだって私達のことを守ってくださる」


 馬車は進む。しかし、十二人の娘は立ち止まって拝みだす。


「おーい、行くよ!」

「「「はーい」」」


 ああ、私達は、勇者様に出会えて幸せだ。あのつらい日々は、勇者様に会うための試練だったに違いない。つらかった。確かにつらかった。だけど、これからの勇者様との生活のことを考えると、笑みがこぼれてくる。ああ、幸せだ。勇者様。私達はいつまでもどこまでもご一緒します。




 ヨーゼフとラッシーは馬車を引いて進む。とことこと。

 二頭の馬も進む。とことこと。

 十四人も進む。とことこと。

 当面の目標は、王都だ。




 いくつかの村を過ぎた。

 いくつかの街を過ぎた。

 いくつかの領都を過ぎた。

 いくつかの常設依頼をこなした。

 いくつかのパンツを買った。

 毎日、剣の、魔法の鍛錬をした。




 のんびりと進む一行は、一か月ほどたち、王都アストレイアにたどり着いた。


「王都が見えてきました!」


 先頭を行く元気っ子ヴェルダが叫ぶ。


「おおー、あれが王都か。大きいね」


 高い城壁、その広がり。遠くから見ると、その大きさがわかる。

 城壁の外には、広大な畑が広がり、馬車を止めて作業をしている人達が見える。

 今は夏。畑は青々としており、風吹けば、緑の波が広がっていく。


「さあ、王都へ入ろう!」


 皆は、馬車と進んでいく。ヨーゼフたちは馬車の中に入れて、馬車は馬が引いて。


 城門を通る。


「冒険者パーティ、シルバーランクのクサナギか。全員カード持っているな。いいぞ、通って」


 いくつもいくつも常設依頼をこなし、クサナギはシルバーランクになっている。そのクサナギは、城門をくぐり、大通りを進んでいく。


「さてと。どうする? 君たちの希望通りの王都だけど」


 それは優香の失言だった。


 十二人全員が、大通りの真ん中で土下座をした。


「タカヒロ様、マオ様。お願いです。捨てないでください。私達はお二人の従者。いついかなる時も共に過ごします。剣の修行もします。魔法の修行もします。今はまだお二人の足かせにしかなっていないと思います。ですが。頑張ります。頑張りますから。どうか、お二人に付き従うことをお許しください」


 と、ミリーが代表して、しかも、大声で言う。


「「なっ!」」


 二人は、あんぐりと口を開ける。


「み、ミリー、あの、あのね、こんなところで」


 恵理子がミリーをたしなめる。


「ミリー、お願い。頭をあげて、立って、こんなところじゃちょっと」


 十二人は微動だにしない。しかも、時々、チラッと、二人を見る。


「タカヒロー」


 恵理子が優香に全振りをする。


「わかった。わかったよ。僕らは、しばらく王都にいるつもり。みんなにも一緒にいてほしい。楽しかった。みんなと一緒にいて楽しかったから」


「「「はい!」」」


 泣くもの多数。


「「「やったー」」」


 歓喜の声を上げるもの多数。


「「はぁ」」


 ため気をつくもの、二名。


「「わふー」」


 あくびをするもの二頭。




「ねえ、ミリー、お願いがある」

「なんでしょう、タ、カ、ヒ、ロ、様!」


 ミリーは一緒にいることを許されてご機嫌だ。


「僕らはしばらく王都で過ごして名をあげようと思っている。だけど、十四人で宿屋を押さえるのは金銭的にちょっとつらい。郊外でいいから、十四人で住める住居が買えないか、商業ギルドに行って聞いてくれない? 費用は、馬車に積んである財宝で」

「はい。承知しました。十四人の愛の巣ですね。頑張ってよりいいところを探します」

「いや……えっと、まあいいよ。できれば、鍛錬できる庭があると嬉しい」

「わかっています。みんな、家を探しに行きますよ」

「「「おー」」」

「僕らは冒険者ギルドに行ってくるからね。迷子になったら、そこで!」

「「「はーい」」」


 十二人は、馬車を置いて走り出した。




 優香と恵理子は馬車を連れて冒険者ギルドに向かう。


「さすがは王都だよね。道が広いし、それでも人が多くて狭く感じる」

「ほんとね……なんて、そんなこと思う時点で、前の日本を忘れてしまっているのかしら」

「まあ、函館は観光都市だったし、それなりだったけど、ここまで大きな町じゃなかった」

「っていうか、こっちの世界の街が、城壁に囲まれているせいか、密度が高いのよ」

「そうなんだろうね」


 二人は、冒険者ギルドにたどり着き、入り口の脇に馬車を止める。

 そして、ギルドの中に入る。

 もう昼過ぎだ。受付嬢は暇そうにしている。


「あの」

「はいはい。えっと、あの、見ない顔ね、っていうか、見ない仮面ね」

「すみません。子供のころに顔に怪我を負って仮面で隠しているんです。それで、旅をしている冒険者パーティです。王都にたどり着いて、しばらくここで過ごそうと思っているので、ご挨拶に伺いました」

「あら、ご丁寧にありがとうございます。えっと、カードをお願いします」


 優香はカードを渡す。


「えっと、シルバーランクパーティクサナギ、シルバーマイナスのタカヒロ様ですか?」

「はい。ちょっと前にシルバーにしてもらいました」



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