大精霊やハイエルフがすごいのか、多種族を娶ったパパがすごいのか(優香と恵理子)
ミリーは、馬車を進めていくと、遠くで景色が急激に変わる。
それが見える。
「優香様、恵理子様、見てください。きれいです」
御者台のミリーの声に優香と恵理子が馬車から顔を出す。
道を挟む森の木々は、緑色の葉を広げ、新緑の空を作っていたが、その先からは、ピンクの花が咲き乱れていた。
「桜なの?」
優香が声を上げる。
「きれい」
恵理子もその光景に見とれる。
それを聞いたクサナギのメンバーも皆、警戒をしつつも前方を見る。
「きれい」
「きれいです」
「花ですか?」
近づくと、それが何かがわかった。
背の高い、本当に高い枝垂桜が、何本も何本も、道の左右を埋め尽くしていた。
まるで、桜の、ピンクの雨が降りしきるように、風に揺れて、しだれた枝が揺れている。
「すごい」
「本当に。こんなにたくさんの桜、見たことがない」
「真央ちゃん達が見つかったら一緒に身に来よう」
「そうだね。お弁当を持ってね」
空も、前も、左右も、後ろも、桜が揺れる。
幻想的な光景に見とれながら、馬車はゆっくりと進んだ。
道が行きついたところで、桜の木が途切れ、空の見える広い空間に出る。
そこには、たくさんの家屋が並んでいた。
その合間を通っていくと、大きな広場に出た。
エルフ達はそこで止まった。
ミリーも馬車を止めた。
そこでは、大勢のエルフのお出迎えがあった。
クサナギの全員は馬車を降り、優香と恵理子を先頭に、エルフ達と向き合った。
アクアとパイタンはそれぞれ、優香と恵理子の下に控える。
向き合っているエルフ達が左右に分かれる。その間から歩いて来たのは、エルフの老婆だった。
その老婆は、杖を突きながら前へと進んできた、優香と恵理子の前、というより、アクアとパイタンの前に立った。
老婆はおもむろに跪くと、
「高位精霊様方、ようこそエルフの里にお越しくださいました。歓迎いたします」
そう言った。
だが、その老婆の横に立っていた風の高位精霊は不満げだ。
「長老、こいつらに構う必要はない」
「風の高位精霊様、そうはおっしゃいますが、我々は精霊様方を崇めております。そこに属性は関係ありません」
「ちっ」
舌打ちをした風の高位精霊は、アクアとパイタンに向き合うと、
「私は風の高位精霊だ。よろしくな」
と、挨拶をした。
アクアとパイタンはそれぞれ、
「アクア」
「パイタン」
そう自己紹介した。
だが、それに驚く風の高位精霊。
「お前たち、名前を持っているのか? もらったのか?」
と。
アクアはちょっと得意げになる。
「私は、大精霊ディーネ様に名前をいただきました。祝福は大精霊のレイ様、ディーネ様、ドライア様にしてもらいました」
そう教える。
パイタンも続く。
「私は、ママに名前をもらった。祝福は、大精霊様のレイ様、ディーネ様、ドライア様」
「……」
固まる風の高位精霊。
「か、風の高位精霊様?」
「私、帰るね。どうせ名前もないし。祝福も受けてないし」
そう言って、風の高位精霊は、つむじ風となって消えてしまった。
「よかったのかしら?」
優香が長老に聞く。
「わかりませぬ。風の高位精霊様は感情の起伏が激しい方ので。まあ、そのうち戻ってくるかと思いますが」
「そう。ならいいけど」
「ところで」
長老がアクアとパイタンに向く。
「このようなところへ、どのようなご用件でしょうか」
「タカヒロ様とマオ様の話を聞いてほしいのです」
アクアが頼む。
長老は垂れ下がっていた瞼を上げ、目を見開いて驚く。
「高位精霊様、この人間を様付けですか?」
「この二人の義理のお母様方が、私達に祝福をしてくださった大精霊様なのです」
「……」
長老が固まる。
「長老?」
優香が声をかける。
長老は動かない。長老の前で手を振ってみる。動かない。
アクアが長老のほほをペシペシする。
「はっ、アクア様、今なんと?」
「こちらにいる、タカヒロ様とマオ様は、義理ではあるが、大精霊様のご子息とご息女なのです」
ガバッ!
と、長老が土下座をする。
「だ、大精霊様のご子息、ご息女……」
「えっと、それを信じてくれるの?」
「アクア様のおっしゃることですから」
「じゃ、頭を上げてください。っていうか、普通に接してもらえます? 見てわかると思いますけど、単なる人間ですから」
「そうは言っても」
「お願いします。話が進みませんから」
長老は何とか立ち上がる。
恵理子は思う。何とか信じてもらえたようだけど。ここは一発。
「長老様」
「様付けはやめてくだされ」
「長老……」
「何でしょうか、ご息女様」
「この季節、お酒に合いそうなおいしそうな食材ってある?」
「この季節ですと、山菜やキノコ、タケノコなど、焼いても天ぷらにしてもおいしいと思いますが」
「そう。ありがとう。アクア、ちょっとそれを念じてみて」
「念じるですか?」
「そう。お酒に合う天ぷらを晩御飯に食べれそうって」
「……わかりました」
アクアは、強く心の中で念じる。
もちろん、なにも起こらない。
「ところで、長老。お聞きしたいことがあるのですが」
「は、ここではなんですので、屋敷までお越しください」
優香たち全員は、エルフの屋敷の食堂に通される。とはいっても、広い広い食堂で、長いテーブルが置かれている。
「申し訳ありません。ご子息様、ご息女様」
「タカヒロと呼んで」
「マオと呼んで」
「タカヒロ様、マオ様、そうしましたら、ご用件をお聞きいたします」
上座に座った長老が二人に話を促す。
「私達は、人を探しています。それが人間なのか、エルフなのか、獣人なのか、ドワーフなのか、何一つ情報がありません。ただ、おそらく、という予想ですが、私達並みに鍛えられていると思う、ということだけが頼りなのです」
「鍛えられていると?」
「はい。おそらくですが」
「お二人は、どの程度鍛えられているのですか?」
「それは何とも説明しがたいので、とりあえず、強い人に会いに行こうと思っているのです」
「お言葉ですが、鍛えられている、ということは鍛える者がいるということですよね。どのようなものに鍛えられているとお考えですか? 例えば、我々エルフで鍛えられるレベルなのでしょうか」
「そうですね。そういえば、鍛える側を絞れば、可能性も狭まるのかもしれません」
「ちなみに、私どもエルフには、強い者は確かにおりますが、私ども基準でしかありません。それはエルフによって鍛えられた者です。お二人がお探しになられているのは、どのようなものに鍛えられた人を探しているのでしょうか」
「僕らを鍛えたのは、ドラゴン族、悪魔、大精霊、ハイエルフ、獣人……ソフィリア義母様やフラン義母様は人間族か」
優香も恵理子も知らない。その全員が天使だということを。より高位の存在だということを。
「ちょ、ちょっとお待ちいただきたい。いろいろと聞きたいことがありすぎて」
長老が年甲斐もなく慌てる。
「まず、ドラゴン族や悪魔に鍛えられた者などいるのですか? そもそも、悪魔?」
優香と恵理子が自分の顔を指さす。
「それと、ハイエルフ様とおっしゃいましたか? ハイエルフ様にお会いしたことが?」
「義理のお母様にハイエルフがいて、時々習ったんだよね」
「……先ほど、大精霊様も義理の母上だと」
「パパがたくさんの種族から奥さんをもらっていてね。確か二十人も奥さんがいるって」
「すまぬ、もう、何を聞いていいか」
長老がげんなりする。
「どうする? とりあえず、我がエルフの戦士と戦ってみるか?」
「お願いできます?」




