表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

287/451

大精霊やハイエルフがすごいのか、多種族を娶ったパパがすごいのか(優香と恵理子)

 ミリーは、馬車を進めていくと、遠くで景色が急激に変わる。

 それが見える。


「優香様、恵理子様、見てください。きれいです」


 御者台のミリーの声に優香と恵理子が馬車から顔を出す。

 道を挟む森の木々は、緑色の葉を広げ、新緑の空を作っていたが、その先からは、ピンクの花が咲き乱れていた。


「桜なの?」


 優香が声を上げる。


「きれい」


 恵理子もその光景に見とれる。

 それを聞いたクサナギのメンバーも皆、警戒をしつつも前方を見る。


「きれい」

「きれいです」

「花ですか?」


 近づくと、それが何かがわかった。

 背の高い、本当に高い枝垂桜が、何本も何本も、道の左右を埋め尽くしていた。

 まるで、桜の、ピンクの雨が降りしきるように、風に揺れて、しだれた枝が揺れている。


「すごい」

「本当に。こんなにたくさんの桜、見たことがない」

「真央ちゃん達が見つかったら一緒に身に来よう」

「そうだね。お弁当を持ってね」


 空も、前も、左右も、後ろも、桜が揺れる。

 幻想的な光景に見とれながら、馬車はゆっくりと進んだ。


 道が行きついたところで、桜の木が途切れ、空の見える広い空間に出る。

 そこには、たくさんの家屋が並んでいた。

 その合間を通っていくと、大きな広場に出た。

 エルフ達はそこで止まった。

 ミリーも馬車を止めた。

 そこでは、大勢のエルフのお出迎えがあった。


 クサナギの全員は馬車を降り、優香と恵理子を先頭に、エルフ達と向き合った。

 アクアとパイタンはそれぞれ、優香と恵理子の下に控える。

 向き合っているエルフ達が左右に分かれる。その間から歩いて来たのは、エルフの老婆だった。


 その老婆は、杖を突きながら前へと進んできた、優香と恵理子の前、というより、アクアとパイタンの前に立った。

 老婆はおもむろに跪くと、


「高位精霊様方、ようこそエルフの里にお越しくださいました。歓迎いたします」


 そう言った。

 だが、その老婆の横に立っていた風の高位精霊は不満げだ。


「長老、こいつらに構う必要はない」

「風の高位精霊様、そうはおっしゃいますが、我々は精霊様方を崇めております。そこに属性は関係ありません」

「ちっ」


 舌打ちをした風の高位精霊は、アクアとパイタンに向き合うと、


「私は風の高位精霊だ。よろしくな」


 と、挨拶をした。

 アクアとパイタンはそれぞれ、


「アクア」

「パイタン」


 そう自己紹介した。

 だが、それに驚く風の高位精霊。


「お前たち、名前を持っているのか? もらったのか?」


 と。

 アクアはちょっと得意げになる。


「私は、大精霊ディーネ様に名前をいただきました。祝福は大精霊のレイ様、ディーネ様、ドライア様にしてもらいました」


 そう教える。

 パイタンも続く。


「私は、ママに名前をもらった。祝福は、大精霊様のレイ様、ディーネ様、ドライア様」

「……」


 固まる風の高位精霊。


「か、風の高位精霊様?」

「私、帰るね。どうせ名前もないし。祝福も受けてないし」


 そう言って、風の高位精霊は、つむじ風となって消えてしまった。


「よかったのかしら?」


 優香が長老に聞く。


「わかりませぬ。風の高位精霊様は感情の起伏が激しい方ので。まあ、そのうち戻ってくるかと思いますが」

「そう。ならいいけど」

「ところで」


 長老がアクアとパイタンに向く。


「このようなところへ、どのようなご用件でしょうか」

「タカヒロ様とマオ様の話を聞いてほしいのです」


 アクアが頼む。

 長老は垂れ下がっていた瞼を上げ、目を見開いて驚く。


「高位精霊様、この人間を様付けですか?」

「この二人の義理のお母様方が、私達に祝福をしてくださった大精霊様なのです」

「……」


 長老が固まる。


「長老?」


 優香が声をかける。

 長老は動かない。長老の前で手を振ってみる。動かない。

 アクアが長老のほほをペシペシする。


「はっ、アクア様、今なんと?」

「こちらにいる、タカヒロ様とマオ様は、義理ではあるが、大精霊様のご子息とご息女なのです」


 ガバッ!


 と、長老が土下座をする。


「だ、大精霊様のご子息、ご息女……」

「えっと、それを信じてくれるの?」

「アクア様のおっしゃることですから」

「じゃ、頭を上げてください。っていうか、普通に接してもらえます? 見てわかると思いますけど、単なる人間ですから」

「そうは言っても」

「お願いします。話が進みませんから」


 長老は何とか立ち上がる。

 恵理子は思う。何とか信じてもらえたようだけど。ここは一発。


「長老様」

「様付けはやめてくだされ」

「長老……」

「何でしょうか、ご息女様」

「この季節、お酒に合いそうなおいしそうな食材ってある?」

「この季節ですと、山菜やキノコ、タケノコなど、焼いても天ぷらにしてもおいしいと思いますが」

「そう。ありがとう。アクア、ちょっとそれを念じてみて」

「念じるですか?」

「そう。お酒に合う天ぷらを晩御飯に食べれそうって」

「……わかりました」


 アクアは、強く心の中で念じる。

 もちろん、なにも起こらない。


「ところで、長老。お聞きしたいことがあるのですが」

「は、ここではなんですので、屋敷までお越しください」




 優香たち全員は、エルフの屋敷の食堂に通される。とはいっても、広い広い食堂で、長いテーブルが置かれている。


「申し訳ありません。ご子息様、ご息女様」

「タカヒロと呼んで」

「マオと呼んで」

「タカヒロ様、マオ様、そうしましたら、ご用件をお聞きいたします」


 上座に座った長老が二人に話を促す。


「私達は、人を探しています。それが人間なのか、エルフなのか、獣人なのか、ドワーフなのか、何一つ情報がありません。ただ、おそらく、という予想ですが、私達並みに鍛えられていると思う、ということだけが頼りなのです」

「鍛えられていると?」

「はい。おそらくですが」

「お二人は、どの程度鍛えられているのですか?」

「それは何とも説明しがたいので、とりあえず、強い人に会いに行こうと思っているのです」

「お言葉ですが、鍛えられている、ということは鍛える者がいるということですよね。どのようなものに鍛えられているとお考えですか? 例えば、我々エルフで鍛えられるレベルなのでしょうか」

「そうですね。そういえば、鍛える側を絞れば、可能性も狭まるのかもしれません」

「ちなみに、私どもエルフには、強い者は確かにおりますが、私ども基準でしかありません。それはエルフによって鍛えられた者です。お二人がお探しになられているのは、どのようなものに鍛えられた人を探しているのでしょうか」

「僕らを鍛えたのは、ドラゴン族、悪魔、大精霊、ハイエルフ、獣人……ソフィリア義母様やフラン義母様は人間族か」


 優香も恵理子も知らない。その全員が天使だということを。より高位の存在だということを。


「ちょ、ちょっとお待ちいただきたい。いろいろと聞きたいことがありすぎて」


 長老が年甲斐もなく慌てる。


「まず、ドラゴン族や悪魔に鍛えられた者などいるのですか? そもそも、悪魔?」


 優香と恵理子が自分の顔を指さす。


「それと、ハイエルフ様とおっしゃいましたか? ハイエルフ様にお会いしたことが?」

「義理のお母様にハイエルフがいて、時々習ったんだよね」

「……先ほど、大精霊様も義理の母上だと」

「パパがたくさんの種族から奥さんをもらっていてね。確か二十人も奥さんがいるって」

「すまぬ、もう、何を聞いていいか」


 長老がげんなりする。


「どうする? とりあえず、我がエルフの戦士と戦ってみるか?」

「お願いできます?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ