出発! 旅に出て三年目(優香と恵理子)
わんも「優香と恵理子の旅が再びスタートします。旅に出て三年目となります」
優香&恵理子「「よろしくお願いいたします」」
ここはシーブレイズ聖王国の王宮にある訓練場。
訓練場とはいっても、壁で覆われ、外から見ることができなくなっている。
そして、そこは、プラチナランク冒険者パーティ「クサナギ」が占有して訓練に使っている。
おかしな光景としては、その周辺部を走る者達がメイドであること。
中央部で訓練する者達の動きが尋常ではないこと。
その中央で訓練を行っているは、勇者タカヒロと聖女マオ、野良猫リーシャと女王ブリジット。その四人がドラゴン族であるネフェリとリピーに挑んでいる。
そして、周縁部には治癒魔法を担当するもう二人のメイド。
「ヒール」
「ヒール」
「ヒールッ」
「ヒールッ!」
ハァハァハァ
「ヒール!」
「ヒール!」
ハァハァハァ
ロージアとアザリアが息を荒くしながら、体力回復の魔法をかけ続ける。
ミリー達がグランドを走っているのだが、ロージア達の前を通るたびに、体力回復の魔法をかけて体力を復活させることになっている。
特訓を始める前は、ロージアもアザリアもクサナギのメンバーに治癒魔法をかけることはできなかった。元々魔力量は多かったにもかかわらず。
今は、優香と恵理子に魔力操作を習い、かけられるようになった。しかし、ミリー達の魔力量は多い。つらいものはつらい。
「こ、これ、いつまで……」
「もう、魔力が……」
ロージアとアザリアが泣きごとを言う。しかし、仕方もない。十五人がひっきりなしに回復魔法をかけてもらおうと、自分達の前を通り抜けるのだ。何度も何度も。
そして、アザリアがついに倒れる。
「もうだめ……」
パタン
「アザリア、しっかりして」
ロージアは、アザリアを気にしながらも、ミリー達に体力回復魔法をかけていく。
しかし、それも長くは続かない。
「ヒールぅ!」
パタン
ロージアも倒れこんだ。二人とも魔力切れである。
「ロージアもアザリアも、だいぶもつようになったね」
恵理子が倒れている二人をほめる。
「「はひ」」
「魔力量も増えたし、治癒魔法も上達したんじゃないの?」
「「はひ」」
「そろそろ、卒業かしらね」
「「え?」」
二人は、倒れたままだが、不満を呈する。
「だってね、春になって来たし、もうそろそろ、私達も旅に出なきゃと思って」
「「……」」
「だからね。そろそろお別れかなって」
まだ、旅立ってほしくない。教えて欲しいことももっとある。
もっともっと魔力を増やしてもっともっとうまく治癒魔法をかけて、本物の聖女様のように広範囲の治癒魔法もかけて。
何より、聖女様のかける治癒魔法は美しい。
私も、私達もそうなりたいのに。そう願っているのに。
聖女様が旅立ってしまう。
だが、二人には目的がある。仕方ない。また冬の間でも来てもらえたのなら……。
夕食時、優香と恵理子がロージアに相談する。
「私達、北から来たんだけど、人探しのためにはどっちへ行ったらいいと思う?」
「人探しの人は、人間族なのですよね」
「……そうとは決まっていないわ」
「お二人には大まかに、三つの道があると思います。一つは、来た道を戻ることになりますが、東方諸国を北へとさかのぼるルート。カヴァデールより北へは行っていないのですよね」
「うん。で、残りの二つは?」
「二つのうち一つは、この街から船に乗りナッカンドラ大陸へ渡ること。もう一つは、東へ行って、山脈の麓の森を北へと行くことです」
「ナッカンドラ大陸はまだわかる。山脈の麓の森とは?」
「私は会ったことがないのですが、山脈の麓の森は、エルフが住むと言われています。お二人の探している人物は、人間と決まったわけではないのですよね?」
「ええ。わからないわ」
「エルフの可能性を探る、もしくは、エルフであるという可能性を排除するためにも、エルフの森へと行く、というのもありかと思いますが」
「なるほど」
恵理子が優香やリーシャ達に視線を向ける。
だが、リーシャもブリジットも、メンバーのすべては二人に従う。
「西のサザンナイトは論外。いつかは行かないとだけど。それにその向こうのアストレイアは、帰っていいのかどうか、よくわからないし」
恵理子がマティの顔をチラ見するが、マティもわからないようだ。
去年、北の街を回った時には、敵対されているようには見えなかった。
「どちらにしても、エルフの森は行った方がいいと思うんだけど。そうすると、カヴァデール王国を北に行ってエルフを探して南下するか、エルフの国を探して北上して、カヴァデール王国を南下するか、か」
どちらにしても、シーブレイズに再び来てくれそうだと、ロージアとアゼリアは微笑む。
「でも、サザンナイトを通ってから南下して、リーシャの国にも行ってみたいよね」
リーシャがうんうんと頷く。
「やっぱり、気になるのはエルフかな」
優香がつぶやく。
「そうね。情報がない分、ここにいてもわからないし」
「いつかは行かないとだし。行ってみようか」
こうして、東へ行って森の中を北上するルートを取ることとする。
「ねえ、ロージア。道はあるの?」
優香が聞く。
「カヴァデール王国のあの大きな馬車でも通れると思います。一番大きな街道は、ですが」
「そう。それに沿って行ってみるよ」
「リシェル、ローデリカ、明日の午前中に買い出しをお願い。午後には出ましょう」
恵理子がリシェルとローでlリカに指示を出す。
「「はい! 承知しました」」
「あの、確認なのですが」
ロージアが優香に聞く。
「北上した後は、また南下して、この街で冬を過ごしていただけるのですよね」
「まだわからないけど、そういうルートかな」
「そうしましたらまた、冬の間は私達に特訓をつけてください」
「そうできるように、僕らも頑張るよ」
ロージアは、残ってくれとも、連れて行ってくれとも言えなかった。
ただ、戻ってきてくれさえすれば、それでいい。
翌日の昼、優香たちは王宮を出る。
馬車は王宮から大通りを通って、海沿いを左に曲がる。
この大通り沿いには、住民が多数旗を振って立っていた。友好国であるカヴァデール王国の旗を。
おかげで、エヴァは御者台に立って手を振ることになる。ニッコリ笑顔付きで。
旗を振る住人の中には子供もいる。
「お母さん、カヴァデール王国の女王様、どうしてメイド服なの?」
「そう言うことは、気にしちゃいけません。王配様のご趣味なのでしょう」
「へー、確かにかわいいもんね」
住人は気づいた。そういえば、最近聖女ロージア様もメイド服を着ていると。
あれ、聖女様は昨年の演説でも王配様の腕を組んでいたし、この国、併呑させられるのか? エルト三国のように……。
優香たちが街から去った後に、ひと悶着起きる。住民が王宮に押し掛けた。
カヴァデール王国に飲み込まれるのではないかと。
これがなかなか静まらなかった。
ロージアがあっさりと否定すればよかったのだが、住人からの「輿入れをするのか?」という質問に、顔を赤らめて回答に詰まってしまったからである。
しかし、住民たちも騒いでもどうにもならない。併呑させられるかもしれないが、生活が変わらないかもしれない。と、ないないづくしですべてが想像なのだ。
よって、何とか元の生活へと戻って行く。




