再会「えっと、どちら様?」(千里と桃香)
「よし、桃ちゃん。温泉に行こう」
「はい。行きましょう」
「みんなも行くでしょ。キキとララも行こう」
千里はローレル達みんなを誘って部屋を出た。
キキとララ、いいんだろうか。ま、いいか。
女子風呂の脱衣所に皆で入る。
ちょっと浴場を覗いてみる千里。
「広いねー。みんなで広々と入れそう」
そう言って、脱衣所で服を脱ぎ、温泉へと向かった。
「桃ちゃん、前と同じだと思う?」
「はい。思います。まずは体を洗うべきかと」
「千里、流そうか?」
ローレルが声をかけてくる。
「うーん。今日はいいよ。先客さんもいるみたいだから、静かに入ろう」
「わかった」
岩でかこまれた広い露天風呂には、何人かの先客がいた。固まっていることから、一組なのだろう。
千里は、体を洗って、そして温泉に浸かる。
「失礼しまーす」
一応先客に声をかける。
「構いませんわ」
先客の女性も丁寧に返事を返してくれる。
あまりの丁寧さに貴族様かな、と思う千里。だが、服を脱いでしまえば貴族も冒険者もないだろう。
千里は、先客から離れて風呂の反対側へと行きしゃがみこむ。
「ふひー。気持ちいい」
そこに桃香がやってくる。ピンクの髪を器用にタオルで巻き上げている。
「千里さん、久しぶりですね。温泉」
「ほんとだね。気持ちいい。これならしばらくいてもいいのかもね」
桃香はふと外側を見る。両側に塀があり、外から覗けないようになっている。また正面も低めだが塀で隠れるようになっている。だが、こちらからは外が見える。
「千里さん、湖が見えます」
「ん?」
千里が外を見る。
「湯気でよく見えなかったけど、ほんとだね。湖が見える。きれいだね」
「本当です。湖が見える温泉。いいですね」
そう言った桃香が景色に見とれていると、隣から少しずつ殺気が漂ってくる。
「どうしたのですか? 千里さん」
「湖が見える温泉……洞爺湖……」
「あっ!」
桃香はしまった、と思う。前世の記憶に触れてしまったかと。
ちなみに、洞爺湖というのは、貴博と真央が泊まりに行った温泉地である。
「いやいや、千里さん。湖は他にもいっぱいありますから。ほら、それこそ一緒に行ったサロマ湖とか、網走湖とか」
「まあいいわ。あれは、私も許したもの。よかったと思うわよ」
「ほっ」
桃香は口に出して安心を示す。
「千里ー、桃香ー」
レオナとローレル達がやってくる。
「レオナ、そのタオルの巻き方、当てつけなの?」
千里が目を細める。
「桃香も同じじゃないですか」
レオナが桃香を指さす。
千里はローレル達に視線を向ける。
「ほっ」
「千里、今、安心したな? 私達を見て、安心したな?」
千里はぶんぶんと首を振る。そして言い訳を。
「ローレル達は、そのスタイルがかっこいいんじゃん。エルフが大きかったらどうするの。似合わないでしょう?」
「それはそのとおりなんだが、比較された上に勝ち誇られるのがむかつくんだ。というわけでレオナ!」
ローレルはレオナに向けて両手をワキワキと動かす。
「なんで私?」
「ほらほらローレル、他のお客さんの迷惑になるから」
千里がローレルをなだめる。
すると、対岸にいたお客さん。
「レオナ? ローレル? もしかして、千里? 桃香?」
「「「「……」」」」
その声に聞き覚えがある。えっと。
「どちら様?」
「あ、千里! 私よ。セーラ! セーランジェ・カイナーズです!」
「えっと……」
「あ、ひどい! わかっていてそう言うこと言うんでしょ!」
セーラがざぶざぶと風呂の中を近づいてくる。
「あはははは。ごめんごめん。で、何でこんなところにセーラが?」
「ふふふ、それはですね」
と、セーラが答えようとしたところで、ミシルがそれを遮る。
「千里様、桃香様、お願いです。セーラ様に一言言ってやってください」
「ん?」
「セーラ様、民衆によるクーデターを起こさせて、民主化を促進するため、ダメ女王を演じようとしているんです。野菜がなければ果物を食え! なんてひどいことを国民に言おうと考えているんですよ。何とか言ってやってください。しかも、政治を放り出して、こうやって春まで休むとか言って」
ミシル達も一緒に温泉に浸かっているのだが。それはそれ。棚に上げられるものは上げてしまう。
これには、シルフィードの姫が納得しない。
「宗主国の姫として物申す! 仕事してこい―!」
ゲイン! バッチャーン!
ローレルがセーラを蹴っ飛ばした。
セーラが風呂の中をざぶざぶと戻ってくる。
「ローレル! あんた達だけずるいのよ!」
バシャッ!
セーラがローレルにお湯をかける。
「何を!」
そう言ってローレルがセーラにお湯をかける。
こうして激しいお湯のかけ合いが始まる。
「お客様、お客様! 他のお客様のご迷惑になるので、おやめください!」
ブラウが駆け込んで来た。
「「はーい、ごめんなさい」」
二人はすっとお湯に浸かる。
「ちょっとセーラ、ミシルの言っていることどこまで本当?」
ローレルが改めて聞く。
「冗談よ。ただ、民主化すれば私も自由になれると思っているのは本当だわ。それに、私、結婚願望無いから、王家も途絶えると思うし」
「そうなのね。ま、国が無くならなければいいわよ。戦争もやめてよね」
「わかっているわよ。血は流れないようにするわ」
「民主化の過程であなたの血が一番流れそうよね」
「そう言わないで」
セーラはシュンとする。が、気を取り直して聞く。
「千里、桃香、メンバー増えたよね」
「うん。フローラとルシフェ。ドレスデンで二人増えた」
そう言って、水風呂に入っている二人を指さす。アイスドラゴンはわかる。ルシフェ、精霊は温度関係なしか。そう思いながら。
「親子なの?」
「うん。そう。親子でついてくるって」
「あの二人も強いの?」
「今日はもう訓練はしないでご飯を食べるつもりだけど、この宿、訓練場があるって言っていたから、明日にでも手合わせしてもらったら?」
ローレル達は思う。なんて無茶ぶりをと。いくらセーラが筋肉魔導士でも、フローラはドラゴンだ。絶対にかなわない。
「そうね。お願いしようかしら。ところで、ご飯って言った?」
「ええ、私達、大部屋に泊まっているからみんなでご飯を食べるよ。この後」
「……ずるい」
「え?」
「私も一緒にご飯食べたい。一緒に寝たい。一緒の部屋がいい」
「ちゃんとお金払っているのならいいんじゃない?」
「払ってるわよ。春まで一人金貨十枚。五人で五十枚」
「セーラ、うちの部屋に来てもいいのですが、お願いがあります」
レオナがセーラに提案する。
「酒代は割り勘です」
「そんなの当り前じゃない」
レオナは考える。パーティとパーティで割ろうと。相手は女王だ。お金は持っているはず。
ニヤリ。




