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タカヒロとマオの手がかり(千里と桃香)

「千里、どうします?」


 レオナが聞く。どうするか? というのは、明日にならないと報酬はもらえないし、今晩はどこに泊まるのか、ということだ。


「うーん。同じ宿は気まずいし、どこか、当たってみようか」

「わかりました。それでは行ってまいります」


 レオナがヨン達を連れて走って行った。




 千里と桃香は湖のそばまで歩いて行き、水面を眺める。


「桃ちゃん、海だね」

「そうですね」

「この向こうにセンセがいるんだね」

「真央ちゃんもいますよ」

「もうちょっとだね。楽しみだね」

「本当です。早く会いたいです」

 

 二人は海を眺めた。




「千里、桃香、宿が見つかりました」


 レオナが帰ってきた。


「ありがとう。どこどこ」

「この並び、一番東の宿です」

「よし、行こう」


 一行は、もうちょっとだけ頑張って歩く。




「いらっしゃいませ」


 猫人族の女中さんが出迎えてくれる。


「十七名の団体さんですね。ようこそ舟屋へ」

「舟屋?」

「はい。舟屋です」

「なかなか粋な名前だね」

「ありがとうございます。本業が船を使った輸送業をしておりまして、休業中の冬の間は宿を営んでいるんです」

「そうなんだ。よろしくね、えっと」

「わたくし、皆様の担当をさせていただくブラウと申します。よろしくお願いします」

「よろしくね、ブラウ」


 クサナギゼット一行はブラウについて宿に入っていく。

 そして、大きめの部屋に案内された。


「ここが皆様のお部屋となります」

「おっきい」

「ほんと、おっきいです」

「はい。ここなら二十人は寝ることが出来ます。冬の間に合宿を行う冒険者パーティなどが利用されるんですよ」

「ということは、訓練場もあるの?」

「はい、あります。それと、訓練後に汗を流す温泉もあります」

「え? 温泉?」

「千里さん、温泉ですって」

「温泉、入ってきていいかな」


 ブラウが微笑んで答える。


「はい、夕食前にお入りになられてください。まだあまりお客様がいらしていませんので、広々と入れると思いますよ」

「よし、行こう」

「ですが、その前に、台帳に記入をお願いします。皆さま、冒険者でいらっしゃいますよね。冒険者パーティのお名前と代表者様のお名前をお願いします」

「クサナギゼットよ。私は千里」

「え?」


 ブラウが目を見開いて千里を見る。


「ん? どうしたの?」

「すみません。パーティ名、何ておっしゃいました?」

「クサナギ、ゼット!」

「クサナギ?」

「「……」」


 千里が桃香と視線を合わせる。


「あの、ブラウさん、クサナギというパーティをご存じで?」

「あの、千里さん、クサナギというパーティをご存じですか?」


 千里とブラウがかぶる。


「うん知ってる」

「はい、知っています」


 再びかぶる。よって、桃香が千里の口を塞ぐ。


「私、隣の大陸で貴族に攫われた時、クサナギの皆さんに助けてもらったんです」

「勇者のパーティ?」

「はい、勇者タカヒロ様とマオ様のパーティです。ドラゴン族を従えし勇者、タカヒロ様とマオ様です」


 千里と桃香が目を合わせ、ハイタッチをする。


「やったー。桃ちゃん、ようやく手掛かりを見つけた!」

「やりました。もうすぐですよ千里さん。もうすぐ会えます」

「よかったー、よかったよー」

「本当です。グスッ」


 千里と桃香が目に涙を浮かべる。


「桃ちゃん、明日には船に乗ろう。そして、隣の大陸に行くんだ」

「はい。行きましょう!」


 ローレル達は、それをほほえましく見ている。

 しかし、ブラウが待ったをかける。


「あの、今の季節、船が陸に上がってしまっていて、隣の大陸に行くことはできませんが」

「「え?」」

「先ほど、本業は船を使った輸送業と説明させていただきました。今は船を出していませんと。季節的に船を出すことが出来ないため、冬の間、ここで宿屋を経営させてもらっているんです」

「あの、船はどこから乗れるの?」

「春になってからですが、ここからずっと西に行った獣王国最大の街、バウワウから乗ることが出来ます。よろしければ、その時はぜひ、うちの船をご利用ください」

「え、足止め?」

「こう言っては何ですが、冬の間は海が荒れますし、もうしばらくすると流氷がやってきます。なので、船を安全に出すことはできないんです。いかがしますか? 一泊とのお話でしたが、春まで滞在されます? 今ならまだこのお部屋は予約が入っていません」

「「……」」


 千里と桃香が明らかに落ち込む。

 ローレルが声をかける。


「無理に行こうとしても仕方ないでしょ。危険を伴う。ここでしばらく英気を養ったらどうかな」

「ん。そうだね。仕方ないよね」


 千里は体育座りをしていじける。桃香も変わらない。


「えっと……」


 ブラウが声をかけようとする。が遮るものがいる。


「じゃあ、ブラウさんのとこの船に乗せてもらうからってことで、少しまけてくださいます?」


 レオナがちゃっかりと交渉する。


「そう言うことでしたら、旦那様に相談してまいります」


 ブラウは部屋を出て行った。


「千里、桃香、二人が探していた人を知る人を見つけられたじゃないか。その話も聞いてみたくない?」

「聞いてみたい」

「何か手掛かりがあるかもしれないし、聞いてみて損はないと思うよ」

「そうだね。そうするよ」




 しばらく待っていると、犬人族の男がやってきた。


「我が舟屋へようこそ。私がここの主人をしております、ウォルフと申します。ブラウに聞きましたが、皆さんは勇者タカヒロ様方の関係者とのこと。我が宿に宿泊していただけるとは何たる偶然でしょうか。この出会いを神に感謝したいくらいです」


 ウォルフは跪いて両手を組む。


「あの、それで、ウォルフさんは貴博さんと真央ちゃんとどういったご関係で?」

「それを話すと長くなりますので、後ほど。先にお代の話をさせていただきます。皆さま十七名様ですので、一日金貨二枚、春までおよそ百日で金貨二百枚、というところではございますが、勇者様の関係者ということで、金貨二十枚。十七名様ですのでさらに引いて、金貨十七枚でどうでしょう。もちろん、船賃はタダにさせていただきます」

「はい、よろしくお願いします」


 誰より早く、レオナが答えた。

 だが、千里が待ったをかける。


「ウォルフさんって、貴博さん達と関わったんでしょ。お話聞かせてほしいし、金貨二百枚払ってもいいよ」

「とんでもない。勇者様に怒られてしまいます。是非、十七枚というところでお願いします。もちろん、お酒などは別料金とさせていただきますので」

「あはは。それは正しい選択だと思うわ。よろしくお願いします」

「それでは、春までごゆっくり休まれてください。それといかがしましょうか。夕食後にでもお話をさせていただきに来ましょうか」

「はい。お願いします」

「それでは、温泉にお入りになっている間に、お食事の用意をさせていただきます」


 ウォルフとブラウは部屋を出て行った。



(わ)「ちょっと補足をします。途中から読んでくださっている方にはややこしいかもと思いまして」

    優香=タカヒロ≠貴博=センセ

    恵理子=マオ≠真央



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