ソーシンに向けて出発!(千里と桃香)
すでに日は登り、ちょうど、ヨン達が三時間ほど走ったところで、遠目に歩いている集団を見つける。
「千里様、桃香様!」
「あ、ヨン。ちょうどいいところに」
「なんです? これ」
「盗賊。自分達で盗賊って言っていたから間違いないよ。これ、売れるかなって」
「……売れますが、昨日の夜に出ていかれたのですよね。もうこんなに捕まえてきたのですか?」
「だって、明日ここを通るときに出てこられてもめんどくさいじゃん。連れて行くわけにもいかないしさ。だったら先に捕まえちゃおうかってなるじゃん」
「そうかもしれませんが。なぜ私達を誘ってくれなかったのですか?」
「ヨン達はノルマがあるでしょ。ちゃんと魔力を全放出して寝た?」
「はい。もちろんです」
「あ、そうだ。ヨン。頼みがあるんだけど」
「何でしょうか」
「この箱と袋、レオナに預けて来て」
「……これは?」
「レオナにいつも苦労かけているから、お土産」
「ふふふ、あははははは」
「どうしたの?」
「こうも簡単にお金を調達してしまうとは」
「よかったよ。お金持ちの盗賊で」
「本当です。それじゃ、先に帰ります」
「うん。よろしく」
ヨンとリィとシィは、走って帰って行った。
「いたか?」
「いません」
「こっちもです」
ミーとルゥがローレルに報告する。
そこへ、
「レオナ、来てくれ」
宿の外からヨンの声がする。
窓から下を覗くと、団服に包んだ何かを持ったヨンが手を振っている。
ヨンは、宿の裏に止めてある馬車へと移動する。
レオナとローレル達も宿からでて馬車へと向かった。
馬車の中で、ヨンは、くるんでいた団服を取り、箱をあらわにする。
.「レオナ、これ、千里様と桃香様から」
そう言って、蓋を開ける。
それを見たレオナもローレル達も、開けたヨンですら目を疑う。
金貨が箱一杯に詰まっていた。
レオナは、箱に抱き着く。
「千里様ー、桃香様ー」
「あ、そうだ」
思い出したかのようにヨンがローレルに報告する。
「北に延びる街道を今、千里様と桃香様が盗賊を連れてこっちに向かっているんです。もう一度迎えに行ってきたいのですがいいでしょうか」
「千里、桃香……」
ローレルはため息をつく。そして、
「いい。私達が行ってくる。ヨン達は休め。それからレオナ、それ、盗まれないようにしろよ」
「もちろんです」
レオナは馬車のシートの下に箱を隠した。
「千里ー。桃香ー」
ローレル達が千里達のところまでたどり着く。
「ローレル、来てくれたんだ」
「全く、無茶をして」
「ははは。ついでだよついで。明日盗賊を捕まえても、連れて行けないじゃん。だから、今日中にって思って。思ったより近くてよかった」
「普通の人なら近くないんだけど……」
こうして、昼過ぎにはエスタリオンの街までたどり着く。
千里達の集団を見て、門の兵士はぎょっとする。ちなみに、キキとララはもう小さくなって千里と桃香に隠れている。
「おい、それ、どうしたんだ?」
「盗賊って言っていたから捕まえてきました。買ってもらえます?」
「う、うむ。ちょっと待ってろ」
兵士は詰所へと入っていく。
すると、騎士が一人出て来て、確認を取る。
「これ、盗賊か?」
「はい。そう言っていましたので盗賊です」
「わかった。こちらで引き取る。奴隷としてと、盗賊討伐の報酬と合わせて、一人につき、金貨二枚。三十人だから六十枚。で、いいか?」
「はい。お願いします」
千里は、盗賊を騎士に渡した。
「冒険者パーティ名を教えてくれ。後でギルドで報酬として受け取って欲しい」
「クサナギゼットです。よろしくお願いしますね」
「わかった」
千里達は、宿に戻ることにした。
「全員集合」
千里が宿屋の部屋に全員を集める。
「レオナ、明日の地図ある?」
「はい、ここに」
レオナが地図を広げる。
「今日の盗賊だけど、ここにいたんだ」
地図の森の中に丸を入れる。
「それで、この北側三キロのところに小さな穴があって、ヨンに渡した金貨が入った箱があった。他にもまだ貴金属があったんだよね。それ、明日の行きがけに、ヨン達に回収してきてもらおうかな」
「はい。承知しました」
「フローラとルシフェ、ついて行ってくれる?」
「承知した」
「よし、明日の行動はそう言うことで」
「「「わかりました」」」
この日の夕食は豪勢になった。もちろんお酒も出た。
翌日、レオナはフローラとルシフェを連れてキザクラ商会へ行く。
「お待ちしておりました」
店員はそう言って、注文した服を持ってくる。
「着て行かれますか?」
「はい。これから出かけますので」
レオナが答える。
フローラとルシフェもうなずく。
フローラとルシフェはフィッティングルームに入る。
レオナは、団服を黒から白に変更する。
なかなかいい。治癒魔導士っぽい。
鏡の前でレオナはくるっと回転してチェックする。
フローラとルシフェは、セーラー服の上に白の団服を着て出てきた。
「お母さん、かっこいい」
「ルシフェも似合っているぞ」
「お母さんと一緒で嬉しい」
二人は満足したようだった。
「店員さん。それじゃ、お会計を」
「はい。金貨十二枚になります」
「はい。これ」
レオナがどうどうと金貨を渡す。
レオナの表情は余裕だ。もう、お金の心配はしばらくしなくていい。
千里と桃香のおかげだ。
「確かにいただきました。またのご利用をお待ちしています」
レオナたちは、宿に戻る。
宿では、千里達がすでに出かける用意を済ませていた。
「フローラ、ルシフェ、かっこいいじゃん。白にしたんだね」
千里がフローラとルシフェの姿をほめる。
ルシフェが「えへへ」と笑い、フローラがルシフェの頭をポンポンした。
「レオナも白にしたんだ。レオナもかわいいよ」
「そうです? ありがとうございます」
レオナも嬉しそうに右へ左へと腰を振り、スカートを膨らます。
「ち、膨張色を着やがって」
というローレルのつぶやきは無視だ。
「それじゃ、辺境伯の屋敷に行こうか」
千里が声をかけ、御者台に乗ったレオナとヨンがそれぞれ馬車を動かした。
馬車の周りを第四騎士団とフローラ、ルシフェが囲って歩いていく。
フローラが残念なことに馬車に乗れなかったため、ルシフェも歩くと言い張った。疲れたら精霊化すればいい、と言って。
フローラ自身は、体力的にもまったく問題ないとのことだった。
辺境伯の屋敷に着くと、そこには一台の馬車がすでに用意されていた。
千里達の馬車が近づくと、辺境伯が屋敷から出てきた。
「今日は、よろしく頼む」
「千里です」
「桃香です。ソーシンまで護衛を務めます、クサナギゼットです。よろしくお願いいたします」
「うむ。よろしく頼む。見た感じ、全員女性なのだな」
「その通りです」
「むしろいい。その方が、妻も娘も安心する」
「ところで、奥様とご息女様は?」
桃香が聞く。
「そろそろ出てくる」
そう言って屋敷を見ていると、車いすに乗ったジョセフィーヌ、それを押すジュディが玄関から出てきた。
「奥様はどのように馬車に?」
「私が抱いて乗せる」
「失礼いたしました」
辺境伯は、妻のジョセフィーヌを抱き、馬車に乗せた。
その後からジュディが馬車に乗る。
辺境伯は、御者台に乗った。
「辺境伯閣下、私どもの馬車が前後を挟むように進みます。それでよろしいですか?」
「頼む」
先頭をレオナ、後をヨンの馬車が進むことになった。
「そういえば、先ほど連絡が入ったのだが、北の森に潜んでいた盗賊が討伐されたらしい」
「そうなんですか。それはいい知らせですね」
「……そうだな。より安全になる」
千里はレオナに声をかける。
「出発!」
レオナが鞭をふるって馬車が動き始めた。




