千里と桃香の夜のお出かけ(千里と桃香)
早速、レオナはヨンを連れて辺境伯邸へと向かう。
伯爵邸についた二人は、辺境伯邸の門番に取り次いでもらう。冒険者ギルドで見た依頼を受けたいと。
「早速だが、用件はソーシンまでの護衛の件でいいか?」
連れていかれた会議室で、辺境伯が対面のソファに座ったレオナとヨンに聞く。
「はい。冒険者ギルドで依頼書を拝見いたしました」
「では、特に説明はいらないな。ソーシンまでの護衛を頼みたい。というところだが、君たちのパーティはどういったパーティなんだ? まさか、二人ではないだろう?」
「はい。我々は十七名パーティです。全員がプラチナランク。そのため、パーティランクもプラチナです」
「ヒュー」
辺境伯は口を鳴らす。
「それはすごい。是非、任せたいが。いつなら出発できる?」
「我々は、明後日、キザクラ商会からの納品物を受け取った後であれば、いつでも」
「では、明後日の昼に出発しよう」
「承知いたしました。ところで、護衛対象は……」
「私と妻、それから娘だ」
「御者はいないのですか?」
「御者は自分でやる」
「辺境伯閣下の騎士団は護衛を……」
「一部を除き、冬の間は休暇を出している。その一部は屋敷の警備だ」
「最後にですが、このルートは、盗賊や魔物、魔獣が出てくると聞いていますが」
「ああ、危険だと思うが、プラチナランクの冒険者だろう? 時間優先で頼む」
「ということは、なるべく早く着きたいということですか?」
「そう言うことだ」
「そうしましたら……」
こちらでも精査をして、とレオナが言いかけたところで部屋に入って来る人物がいる。
「お父様。お客様ですか?」
娘の声。ただし、その両手は車いすを押している。その車いすに乗っているのは夫人。
「ジョセフィーヌ、ジュディ、ちょうどよかった。紹介しよう。護衛を引き受けてくれる……えっと」
「プラチナランク冒険者パーティ、クサナギゼットのレオナです」
「同じくヨンです。よろしくお願いいたします。奥様、お嬢様」
「妻のジョセフィーヌと、娘のジュディだ」
レオナとヨンは立って頭を下げる。
「それで、いつ出発できるのです?」
ジュディが辺境伯に聞く。
「明後日の昼だそうだ」
「ん。嬉しい。準備しなきゃ。ね、お母様」
「そうね。急ぎましょうか」
二人は部屋を出ていく。
「奥様は足が悪いのですか?」
「ああ、怪我をしてしまってな。それで、ソーシンへは毎年湯治に行っているだ。娘の方は、ソーシンで毎年会える友人がいるらしい」
「承知しました。いざと言う時の護衛体制について検討しておきます」
「頼むよ」
「ところで、報酬の件ですが」
「ああ、事前の支払いについてかい?」
「ええ、私どもも準備するものがありますので」
「もちろんわかっている」
そう言って、辺境伯は、金貨の入った袋をレオナの前に置いた。
「失礼いたします」
レオナは中を確認して、袋の紐を閉めた。
「それでは、明後日の昼にお迎えに上がります」
「よろしく頼む」
二人は屋敷を出た。
「はぁ」
レオナは大きくため息をついた。
「どうしたんです? 商談、うまくいったのでは?」
「よかった。これで支払いができる」
「……」
ヨンはこのパーティの経済状況を改めて認識する。
実際、身に着けている衣類は上等。特に下着までがソフィローズ。支給された武器も質が良い。人数が多いこともあってお金がかかるのは事実だろう。
「なるべく素材集めを頑張りますから」
「よろしくお願いします」
「おーい」
ローレルがレオナとヨンの二人を発見した。
「宿を決めたよー」
レオナが固まる。忘れていた。二泊分の宿代……。
十七人、二泊、食事付きで金貨三枚。まあまあの金額。
「ヨン、明日、付き合ってくれる?」
レオナはヨンに視線を合わせることなくお願いする。
「どこへです?」
「素材採集……」
「わかりました」
夕食時。
「千里、桃香、明日なんですが、一日時間があるので、素材採集に行ってきていいです?」
レオナが二人にお伺いを立てる。
「うん。いいけど。誰と行くの?」
「ヨン達、第四騎士団を連れて行こうと思いますが」
「おっけ。気を付けてね」
千里はあっさりと許可を出す。
「あ、お小遣いだけおいてってね」
「はい。明日のお昼代です」
ちょっと多いかと思ったが、金貨を一枚千里に渡した。
その夜。
「桃ちゃん、出かけよっか」
「はい、千里さん」
二人は、完全武装をして、宿の窓から飛び降りる。
部屋のデスクの上には、「出かけてきます」の手紙を残して。
千里と桃香は、闇夜に乗じて街中を走る。なるべく裏通りを、人目につかないように。
そして、エスタリオンの北の門へと向かう。
当然のように門は閉まっている。
しかし、二人にとって、これくらいの門を飛び越えることなど容易だ。
音を立てずに二人は門を飛び越えて外へと出る。
「桃ちゃん、スピード上げるよ」
「はい」
二人は、街道を北へと走って行った。
到底普通の人が数時間では移動できない距離を二人は疾走した。夜だし、誰も見ていないだろうと。
団服だって真っ黒だ。目立ちはしない。目立つのは、千里の金に輝く髪と、
桃香のつやのあるピンクの髪。
二人は、森に差し掛かる。街道は、森をよけるように進んでいるが、二人は森に入る。
「さて、実験してみようか」
「はい。どこまで広がりますかね」
そう言って、二人は、超巨大になった自身の魔力を活用し、探査魔法を森の中へと広げる。千里は北から北西へ。桃香は西から北西へ。
千里が、桃香が、北西を向いた時に、同時に目を開いて顔を合わせる。
「いたねー」
「いましたね」
北西方向、五キロほど先に数十もの生命反応がある。
「魔物かな?」
「魔物じゃこうは集まらないと思います。目的の人たちだと思いますよ」
「だといいねー」
二人は、音を立てないように、気配を気取られないように、森を疾走する。
二人にとって、五キロなんてあっという間だ。
木々の間から様子をうかがう。
そこには崖があり、大きな穴が開いていた。洞窟だ。
さらに、その外の広場のように木々が伐採されているところには火がたかれ、男たちが酒を飲んだり食事をしたりしている。
「うーん。盗賊さんかなー」
「どうでしょうね。状況証拠からそうだと思うんですけどね」
「盗賊さんだといいな。確か売れるんでしょ? それに盗賊を討伐したらそのお宝はもらってもいいと」
「確かそうですよね。お宝、持っていますかね」
「じゃあ、出てってみようか」
「はい」
千里と桃香は、立ち上がって、森を出ていく。
「こんにちは」
男たちの間に瞬間的に緊張感が広がり、全員が森から出てきた千里と桃香に目を向ける。
「誰だ!」
「あのー、道に迷っちゃったんですよね」




