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お金の心配~レオナの苦悩(千里と桃香)

 レオナは、その場を離れる。なぜなら、明後日までにお金を稼がないといけないからだ。

 適度に魔物討伐を行い、それを売っているからと言って、現在の所持金は金貨五枚。請求されているのは、金貨十二枚。七枚足りない。

 千里と桃香が持っているとは思えない。お小遣いをちょこっと渡しているだけだ。


 掲示板を一通り眺めようと、難易度の高い方から見ていく。その方が、報酬が大きいからだ。

 だが、報酬がいいだけではいけない。あくまでも、千里と桃香の目的が優先なのだ。二人がダメと言えばダメ。そんなことは重々承知。


 だが、それが功を奏する。

 レオナは、依頼書をバシッと引きはがす。


 依頼内容は、こうだ。


「獣人の国の街、ソーシンまでの護衛。前金で金貨十枚。到着後に金貨十枚。ただし、時間の都合上、最短距離、北側の森、渓谷を通ること」


 うーん。

 レオナは悩む。

 どういうことだ。

 レオナはその依頼書をもってカウンターへ行き、冒険者登録手続き中の受付嬢に聞く。


「あー、それですか。そんな書き方をしなければ、もうちょっと受け手があるんですけどね」

「というと?」

「そのソーシンまでの行き方って、三通りあるんです。一つは獣王国の山脈沿いの街経由で入る方法。もう一つは、ドレスデンの王都から海側を通る方法。そして、三つ目が、このエスタリオンから北上する方法です。一つ目と二つ目は道が穏やかなので、たいていはドレスデンの王都からの方法が選ばれるんです。ですけど、ここの領主家族は、まっすぐに行きたがるんですよね」

「それの何が問題なんです?」

「ここからまっすぐ北に行くには、森を抜けて、しかも峡谷を通るんですよ。それぞれ、魔物に魔獣、盗賊など、オンパレードなんです。道は整備されているんですけどね」

「そんな道を誰が通るんです?」

「ですが、近いんですよ。遠回りしなくて済むでしょ?」

「どのくらいなんでしょう。日数的に」

「この道ならおよそ七日。遠回りをすると倍はかかります」

「なるほど」


 レオナは、とりあえず、千里と桃香達と相談すべきと考える。よって、冒険者登録の終わったフローラとルシフェを連れて、ギルドを出る。


 千里と桃香を見つけるのなら……。

 レオナは市場へと向かった。




 エスタリオンは、ドレスデンの最西の街である。

 広い平野に街がある。そのため、周りに畑が広げられること、近くに森があることから、農作物や魔物由来の素材など、それなりの一次産業が発展しており、街も大きい。

 それに、獣王国と隣接しているというのも理由で、この街は辺境伯が治めている。


 レオナは、街中の広い通りを進み、市場を目指す。街の真ん中にある辺境伯の屋敷から、まっすぐ南に延びる道沿いに、その市場はある。


 レオナの予想はあたり、すぐに黒い集団を見つけることが出来た。


 レオナは、千里と桃香に声をかけようとするが、ためらう。

 その前に……。


 レオナはローレルの襟首をつかんで、集団から引きはがす。ついでにフローラとルシフェを集団に残す。


「な、何するのよ」


 当然のごとく慌てるローレル。


「相談があります」

「相談? 何のよ」

「この後の我々の行動についてです」

「そんなの、千里と桃香が決めるに決まってるじゃない」

「わかってますよ。だけど、だけどですね……」


 レオナががっくりとうなだれる。

 それを見て、ローレルがため息をつき、話を聞くことにする。


「で、どうしたのよ」

「お金が。お金がないんです」

「え?」

「森に入って魔物を狩ってもらい、素材を売ってお金を得ているんですけど、ローレルには苦労をかけていることはわかっているんですが、その日ぐらしはできるんです。ですけど……」

「どうした?」

「キザクラ商会で二人の団服やメイド服などをそろえました。請求されたのが金貨十二枚なんです」

「……それがないと」

「はい」

「今あるのは?」

「金貨五枚。それも、この街の滞在中になくなるかもしれません」

「それでどうしたいと」

「ギルドに貼ってあった依頼を受けたいんです」

「それは全員で?」

「はい。獣王国のとある街への、この街の領主の護衛です」

「獣王国へ行くのであれば、目的に沿っているんじゃないの?」

「そうですけど」

「何が問題なの? お金の問題?」

「お金はおいしいんです。多分。前金で金貨十枚もらえるので、お金を払うことが出来るので、ぜひやりたいところなんですが」

「じゃあ、何が?」

「七日間の行程で、魔物、盗賊のオンパレードらしいです」

「……」


 ローレルは、顎に手を当て考える。そして発した疑問。


「何が問題なの?」

「え?」


 ローレルから思いがけない回答が帰ってくる。


「我々はそもそも、魔物にも盗賊にも問題なく立ち向かえるでしょう。しかも、あほみたいな強さのドラゴンと精霊までメンバー入りしたし。無敵じゃない? 私自身、自分の存在意義を見つけるのに大変なくらいよ。レオナだってそうじゃない? 治癒魔導士というアイデンティティを失いかけているじゃない。治癒魔導士ならぬ、治癒精霊だよ、ルシフェは」

「がーん」

「それは声に出すものじゃないよ。ともかく、お金が要るのは事実。千里と桃香に進言しようよ」

「はい」


 しょんぼりと肩を落としたレオナがローレルについて行く。


「心配はいらないと思うよ、いろんな意味で」


 ローレルはレオナを励ます。


「あ、レオナ。来たと思ったらまたどこかへ行っちゃって、どうしたの? っていうか、串焼き食べたい」


 千里が串焼きを所望する。お金の心配をしていたところなのだが。


「はい、千里、人数分買ってください。私も食べたいですから」


 レオナは、笑顔を返す。


「やった。おいちゃん、えっと、十七本頂戴!」

「あいよ。銀貨一枚と大銅貨七枚ね」


 レオナは、財布からお金を取り出し、屋台の店主に渡す。

 今更、銀貨一枚二枚など全く経済的な影響はない。これから、金貨十枚、いや、二十枚の相談をするのだ。


 千里達は一人一本の串焼きを受け取る。もちろんレオナも。

 レオナは、皆が口に入れるのを見ている。

 まず千里が。次に桃香が。この二人が手を付けないと他のメンバーが口にしない。

 で、それを一人一人確認をする。

 全員が口をつけたところで、レオナも肉を口にする。そして、千里と桃香に声をかける。


「ひはほ、ももは」

「えっと、飲み込んでからにしてくれる?」


 もぐもぐもぐもぐ、ごっくん。


「千里、桃香、この後の獣王国に行くルートについて相談です」

「任せるよ」

「え?」

「レオナが決めてもいいよ。理由があるんでしょ」

「は、はい」

「じゃ、そのルートで行こう」

「ありがとうございます」

「で、なんでそのルートなの?」

「お金が欲しいからです」

「そっか。それは大事だもんね」

「じゃあ、準備もお願い」


 千里はヨンを呼ぶ。


「ヨン!」

「はい。何でしょう」

「レオナに付き合って、出発の準備をお願い」

「かしこまりました」



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