ルシフェの母の治療のための大作戦(千里と桃香)
夜には、メンバー全員が魔力を全消費してから寝る。
それを見てルシフェもやろうとしたが、千里にダメ出しをされた。
「ルシフェには必要ないわ」
と。
ルシフェは、仲間扱いされていないのだなと、少し落ち込むが、仕方のないことだと割り切る。
出会ったのは昨日。それに、自分のわがままに付き合ってもらっているのだ。
そうして、二日で隣町に到着する。
さらに二日でその隣街に。
もういくつかの街を超えて、西の森に近い、ドレスデンの最西の街、エスタリオンにたどり着く。
「レオナ、ここから森よね。馬車を預けるところを探して。それから、みんなで食材を持っていくわよ。ついでに、ローレル、全員に団服着用させて」
「わかりました」
「了解、指示する」
ここから先は、徒歩となる。
馬車が入れる道がない。
「ルシフェ、まっすぐ西に向かっていって、山脈に当たったら南下すればいい?」
「それでいい」
「それじゃ、行こう」
隊列は、ローレル達エルフが先頭。千里と桃香、レオナとルシフェが続く。その後ろに第四騎士団。
一行はまっすぐに西を目指す。途中で出会った魔物と言う名の食材は肉に加工し、討伐対象は、証明部位を切り取る。
一日目、二日目と、森を進む。
「レオナ、このあたりの国境はどうなっているの?」
「もうちょっと北に行くと、獣人の国に入ってしまうかもしれません。しれません、というのは、結構あいまいなんです」
「そう。わかった」
三日目、四日目森を進む。
そして、五日目、ついに森を抜けて山脈の麓にたどり着く。
「ルシフェ、ここから南下するね」
「ああ」
ルシフェはもうすぐだと、杖を持った手に力を入れた。
麓を南に進んで三日。大きな洞窟が見えてきた。
「ルシフェ、あれ?」
洞窟を確認したルシフェは走り出した。
それを見て、追いかける千里達。
特に危険はないが、一人で行かせるわけにはいかない。これまでも何度も一人で来ているのだろうが。
「ヨン、第四でたいまつをお願い」
「はい」
第四騎士団のメンバーがたいまつを持ち、メンバーを取り囲む。
そうして、洞窟を歩いて行く。
たいてい、洞窟には何かがいる。魔物や動物が。しかし、この洞窟には何もいない。
しかし、注意は怠らない。ゆっくりと進んでいく。
足場はごつごつとした岩だ。足元を注意しながら進む。
いざとなったら治癒魔導士のレオナがいるが、怪我をしないにこしたことはない。
真っ暗な洞窟を、たいまつの明かりで、進む。
一時間、二時間……何時間か進むと広い空間に出る。
その奥中央に、大きな氷の塊が鎮座していた。
ルシフェは我慢できなくなったように、走り出し、氷に抱き着く。
「お母さん!」
千里と桃香もルシフェとその氷の周りを確認するように歩く。
確かに、中にドラゴンがいる。まだ生きている。だが、氷越しに見ても体はボロボロだ。
何年こうしているのだろうか。気が遠くなる。
左腕がない。右足もない。頭も背も尾も焼けただれている。
「ひどい」
桃香がつぶやいた。
「お母さんは、こんなになってまで、私を守ってくれたんだ」
ルシフェは、冷たさを気にしないかのように抱き着いたまま、涙を流し、そう、桃香の言葉に答えた。
ルシフェの顔は、学園の教師のそれではなく、うってかわって子供のそれだった。
それに合わせて呼び方もお母さんに変わったのだと考えられる。
桃香は、母を案じる子の姿に見入る。
生前、病院でそういう光景を何度も見てきた。
入院した母親、見舞いに来た子供。いつでもどこでも、それは変わらない、そう思う。
「桃ちゃん」
千里がちょいちょいと、手を振って桃香を呼ぶ。
桃香は千里のところまで歩み寄る。
「どう思う?」
「大きいですね」
「だよね」
それを聞き取ったルシフェが言う。
「そうだろう。お母さんは大きくて立派なドラゴンなんだ」
だが、千里は首を振る。
「体の大きさじゃないんだよ」
ルシフェが疑問を顔に浮かべる。
「で、桃ちゃん、どうする?」
「うーん。キキ、ララ!」
キキとララが、千里と桃香のスカートから出てくる。
「「キュイ」」
「二人は魔力大丈夫?」
「「キュイ」」
「千里さん、パパが最初に私達にやってくれたあれ、できるでしょうか」
「うん。キキとララから私達へは問題ないと思う。よくやることだし」
「それで足りなかったら、ということですよね」
「うん。私と桃ちゃんの魔力は、二人ともパパにもらったから性質が同じだし、同調する。しやすい。だから、私から桃ちゃんにも渡せるのかも」
「ですが、問題は、キャパのオーバーですよね。それに体が耐えられるのか……」
「ま、その時はその時」
「それでも足りなかったら?」
「その時は最後の手段。桃ちゃん、頼むよ」
「わかりました」
「ルシフェ、試したいことがあるんだけどいい? 貴方のお母さんに治癒魔法をかけるわ」
「お願いします」
ルシフェは千里と桃香に頭を下げる。
「第四、光をお願い。それからローレル、私達、全魔力を使うから、倒れたらお願い」
「「「はい」」」
「キキ」
「ララ」
「「お願い」」
「「キュイ!」」
キキは千里の胸に、ララは桃香の胸に飛び込んだ。
千里はキキの、桃香はララのおでこに自分のおでこを重ねる。
「キキ、お願い」
「ララ、お願い」
「「キュイ」」
千里、桃香、キキとララが目をつむる。
そして、キキとララから千里と桃香に魔力が流れる。
ちなみに、千里と桃香の魔力は満タンである。そこへキキとララが生命活動に必要な分を残して全魔力を流し込む。
千里と桃香からあふれ出る魔力。それを二人は何とか体の周りにとどめようとコントロールする。
「「キューイー」」
キキとララがぐったりとする。
「ルージュ、キキをお願い」
「フォンデ、ララをお願いします」
「「はい」」
二人はキキとララを受け取る。
千里と桃香は二匹から受け取った魔力を何とか体に収める。収まりきらない魔力を収めるのだ。精神力を使う。
いつものふざけた千里も、ボケも突っ込みもこなす桃香もここにはいない。
「桃ちゃん、どう?」
「ダメです。やっぱり、このドラゴン、大きい」
「じゃあ、行くよ、桃ちゃん」
千里は桃香を抱きしめ、そして、桃香のおでこに自分のおでこを重ねる。
千里が魔力を桃香に送り込む。
もう、桃香には魔力は入らない。だが、桃香はそれをコントロールし、凝縮し、凝縮して、体の中にとどめようとする。
いや、とどめる。やり遂げる。その意思の下、桃香は魔力の制御に集中する。
桃香からあふれそうな魔力に抵抗して、さらに魔力を送り込む千里も集中し続ける。
桃香が凝縮しているそれに合わせて送り込まないと、外にあふれ出てしまう。
桃ちゃん、頑張れ、桃ちゃん、頑張れ。
そう、念じながら、千里は魔力を送り込む。
そして、ついに、千里が倒れる。魔力をすべて桃香へと移しきった。




