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治癒魔導士とはいったい……(千里と桃香)

「筆頭がやられたぞ、構ってられん、全員でかかれ!」


 誰かが声を上げたのと同時に、騎士が、兵士がヨン達に向かって切りかかった。

 だが、ヨンは剣を再びしまい、他のメンバーと共に、素手で制圧していく。馬車を前に進めながら。


 そしてついに、高等学園の建物の玄関先にまで馬車を進めた。

 ヨンは、玄関の階段を上ると、再び剣を取り出し、それを空に掲げた。


「我らの勝利だ!」

「「「おー!」」」


 ヨンは、再び階段を降り、倒れているジョーテのところまで歩く。そして左手でジョーテの胸倉をつかんで持ち上げ、右手でほほをパシンとたたき、意識を取り戻させる。


「おい、それで、ここに我らの仲間が師匠に会いに来ているんだが、どこだかわかるか?」

「その、お前達の仲間というのは?」

「レオナという。元王子直属の治癒魔導士で今はバーサクヒーラーだ」

「治癒魔導士?」


 ジョーテが聞き返す。まさか、と。


「確か、ルディアスという元王子の騎士団で回治癒魔導士をしていたと言っていたぞ」


 ヨンが追加情報を出す。


「お前ら、高等学園で待ち合わせと言っていたか?」

「そうだ」

「それは、魔導士養成高等学園ではないか?」

「ん?」


 ヨンが視線をさまよわせる。


「この国、いや、この街には、高等学園が二つあるのか?」

「ある。この騎士養成高等学園と魔導士養成高等学園だ」


 ヨンは、少し考えて、いや、考えたふりをして、そして、ジョーテの胸倉をつかんでいた左手を離し、謝る。


「ごめん、てへぺろ!」

「てへぺろじゃないわ! あんた一体いくつなのよ!」


 パシン!


 ヨンの後頭部がはたかれる。

 ヨンは目を見開いて振り返る。この私の後頭部をはたけるものがいたのかと。

 ヨンが振り返ると、そこにはヨンと同じメイド服を着ているレオナが息を荒くして立っていた。


「だってさ、レオナ。高等学園で待ち合わせって言ったじゃないですか」

「魔導士養成高等学園! 私を一体何だと思って?」

「治癒魔導士みたいなバーサーカー」

「みたいなじゃありません。治癒魔導士です。治癒魔導士を辞めたつもりはありませんから。主業務は治癒です。回復です!」


 んもう、と、レオナはほほを膨らませる。


「ま、いいや。レオナに会えたし。で、千里様と桃香様は?」

「今頃ギルドを後にして宿に……まずいです。ヨン、馬車を出して!」


 レオナが突然慌てる。


「どうしたのです?」

「いいから、急いで」

「わかった。ミー、馬車を回せ!」

「はい」


 他のメンバーを乗せた馬車がヨンとレオナのところまでやってくる。


「それじゃ、ギルドへ急いで」

「わかりました」


 ミーが馬に鞭を入れた。


 必死になって治癒魔法をかけているルシフェの横を通り過ぎる。


「師匠! 明日、朝に迎えに行きますから!」


 レオナはそれだけ伝える。


 馬車は大急ぎで騎士養成高等学園を出て、ギルドへ向かった。


「そんなに急いでどうしたんです」


 ヨンが冷や汗をかいているレオナに聞く。


「千里も桃香もお金を持っていないんです」

「それが?」

「つまり、宿も取れなければ夕食も食べれていません」

「……それは大変だ。急いだ方がいい。ミー!」

「わかっています!」


 馬車は、街中を疾走した。




 ギルド前。


「もしかしてレオナ、今日は帰って来ないのかなー」


 千里がしょんぼりして立っている。

 桃香がそんな千里を慰める。


「大丈夫ですよ。きっと戻ってきますから」

「こんなことなら、自分で素材を売っておけばよかった」

「そうですよね。そうしたら、お金を持っていましたもんね」

「悩んだら、お腹が空いてきちゃった」

「もうちょっとだけ待ちましょう」


 と、桃香が千里をなんとか慰めていると、一台の馬車が疾走してきた。


「千里、桃香、お待たせしました」


 ぜーぜー、と息を切らしてレオナが言う。


「レオナ、馬車に乗っていただけなのに、何で息切れ?」


 千里が疑問に思ったことをレオナに聞く。


「あれこれ心配して、ちょっと過呼吸に」

「そうなんだ。気を付けた方がいいよ」


 お前が言う? という視線をもらう千里。本人は気にしていない。


「さて、宿をとって食事にしましょう」


 レオナが提案する。


「よかった。レオナが今日、師匠のところに泊まってきたらどうしようかと思った」


 あからさまにほっとする千里だった。




 翌朝、魔導士養成高等学園の玄関に馬車二台を乗り付ける。

 そこには、ルシフェがすでに待っていた。

 水晶がはまったルシフェの身長ほどもある杖をもって、白いローブを着て、ルシフェは立っていた。


「おはようございます、師匠」

「レオナ、おはよう。それから、千里、桃香、来てくれてありがとう」

「お礼は終わってから考えて」

「うむ。すまない」

「それじゃ、乗って」


 千里は自分達の馬車にルシフェを招き入れた。




 馬車は、ドレスデン王都の西門を目指す。


「ところで、どこへ行けばいいの?」

「とりあえず、山脈を目指す。山脈まで結構な距離があるがいいのか?」

「私達、どのみち獣人の国に用事があるの。だから西に行く分には同じ方向よ」

「そうか。頼む」




 王都の西門に着く。


「お前達、昨日王都内で暴れた者達だな?」


 門の兵士から声をかけられる。


「なんのこと?」


 千里が答える。レオナもルシフェも目をそらしていることから、たぶん心当たりはあるのだろうとあたりをつける。

 しかし、聞いたわけでもない。


「その黒いメイド服が証拠だ」


 レオナのメイド服を指さす兵士。


「メイド服なんて、どこだって黒いじゃない。というわけで通るわよ」

「待っていろと。今、騎士様を呼んでくる」

「めんどくさい」


 千里は手のひらを前に腕を伸ばす。

 その先にあるのは、門ではなく、その右、城壁だ。


「ファイアラーンス!」


 千里の手から長さ二メートル、径五十センチ物ファイアランスが飛び出す。

 そして、


 ドッゴーン!


 城壁に大きな穴が開く。


「レオナ、あそこから出よう」

「……」


 レオナは無言で馬をそちらに向ける。

 兵士たちは皆、固まっている。


「門を通らないからいいわよね。修理代はルディアスに請求して」


 千里はそう言って手を振った。


「おいおい、本当に自由だな」


 ルシフェは笑った。これで犯罪者の仲間入りなのに。まあ、いざとなればシルフィードの姫がここにいる。何とでもなるはず。


「ねえ、急ぐの?」

「早いに越したことはない。だが、今度行く予定だったのは春だったからな。何日かかける分には範囲内だ」

「そう。わかったわ」

「どうした?」

「このパーティ、進み方が遅いのよ」

「そうは見えんが」


 だが、昼食後からその理由がわかる。皆が訓練をしているのだ。

 



 訓練を見ていてふと疑問に思ったことをルシフェがレオナに聞く。


「レオナも戦闘訓練をするのだな」

「ええ、身を守るのは結局自分自身ですから」

「それに、お前、杖は背負うのか?」

「はい。歩くのにも徒手で戦うにも邪魔ですから」


 レオナは、杖を斜め掛けにして、背負っている。


「魔法を撃つときには?」

「私、治癒魔導士ですけど」

「だから杖は使わないと?」

「ええ」

「じゃあ、なぜ杖を持っているのだ?」

「これ、中はレイピアなんですよ」

「……レイピア?」

「はい。仕込み武器です」


 実際には、レイピアではなく、片刃の仕込み直刀である。


「武器?」

「はい。レイピアは長いので背負っています」


 ルシフェは、治癒魔導士なので戦闘は行わない。なので、レオナの戦闘訓練は、違和感しかない。

 しかし、レオナの戦闘訓練はどう見ても、剣士や戦士のそれだった。


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