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殴り込み(千里と桃香)

「レオナ、あの人達は……」

「千里と桃香ですよね。私もわからないんです。何もかも規格外で常識から外れています。だから、奇跡の一つや二つ、きっと起こします。あの人達、私の恋心を一瞬にして消し去ったんですよ。まるで魔法みたいにです。しかも、私、今なんて呼ばれているか知っていますか? バーサクヒーラーですよ。失礼ですよね」


 あの二人にかかれば、何もかも変わっていく。そう、レオナは笑って見せた。


「そうか。レオナ、ありがとう。あの二人を連れて来てくれて」

「これも神様の気まぐれですよ、きっと。だからお礼はあの二人に」

「その言い方、あの二人が神様みたいじゃないか」

「いやいや、あんな自由人な神様がいたら、この世はしっちゃかめっちゃかです」


 あはははは、と笑うレオナ。つられるルシフェ。


「レオナ、お茶を入れなおしてくれないか。もう少し、あの二人のことを教えてくれ」

「はい。いいですよ。まるで空想の物語みたいですから、覚悟してくださいね」


 レオナは、出合ってからのことを、それ以前のことは聞いたことを、ルシフェに話した。




 そうやって、談笑をしていると、突然、ドアがノックされる。


「ルシフェリーナ先生、いらっしゃいますか!」


 ドンドンドン


 激しく何度もノックされる。


「なんだ、騒がしい。来客中だ」

「申し訳ありません。ですが、騎士養成高等学園に殴り込みが入りまして、けが人が多数出ています。どうか、治癒魔法による治療をお願いします」

「は? 殴り込み? 今時そんな根性のあるやつがいるんだな。で、どんな奴なんだ」


 その後ろで、私も行った方がいいかしら、と、レオナが立ち上がる。


「はい、馬車で乗り付けた九人のメイドなんです。ちょうど、あの、後ろの方と同じようなメイド服を着た」

「……」


 レオナは、ソファに座りなおして、カップを手に取る。

 心当たりがありすぎだが、なぜ、騎士養成高等学園に殴り込みに入る、という事態になっているのか。

 ここは他人のふりをするべきだろうか。





 少し時間をさかのぼる。


「ギルドで素材も売り終わったことだし、高等学園に向かいましょう」


 第四騎士団は馬車を進める。


「えっと、高等学園ね」


 ヨンは御者台できょろきょろと見回すが、わかるわけもない。

 こういう時は人に頼る。


「馬車を止めて」


 ヨンは操縦していたミーに指示をする。

 止まった馬車からヨンは飛び降り、道行く若い男に聞くことにする。


「お兄さん、ちょっとお願いがあるんですけどぉ」


 ヨンは、男性の腕をとる。

 腕をヨンの体に密着させられた男性は、顔を赤くする。


「えっとぉ、私達ぃ、高等学園に来るように言われてるのぉ。どっちに行ったらいいか教えてくださるぅ?」

「は、はい。高等学園ですよね。知っています。このまままっすぐに行って、広い通りを過ぎた先を右です」

「そうなのぉ。親切にありがとうっ」


 そう言って、男性の腕を開放し、再び馬車に乗るヨン。


「だってさ。行くよ」


 ミーは、馬車を出す。二十代のやることじゃないな、そう思いながら。


「広い通りを過ぎて、その先を右だから、この辺かな」


 ヨンはミーに指示をして、馬車を誘導する。


「あ、あれじゃない? 同じような恰好をした子供がいっぱい出入りしてる」


 ヨンは、見事に騎士養成高等学園を見つける。


「じゃ、入りましょう」


 馬車を高等学園の門をくぐらせるべく、ミーは馬を右に向けた。


「ちょっとちょっと、勝手に入っちゃ困るよ」


 門にいた兵士が声をかけて馬車を止める。

 御者台の上からヨンがここに来た理由を説明する。


「私達の仲間が高等学園の師匠のところに用事があるって、先に来ていると思うんだけど、わかる?」

「そんな話は聞いていない。面会の予定を入れていないなら、帰れ」

「んー。もう一度言う? 私達の仲間が馬車で先に来ているはずなんだけど」

「馬車なら何台か入ったが、それがお前達の仲間かどうかなんて、わからないだろう?」

「だけど、高等学園で待ち合わせって言われたんだけど」

「じゃあ、外で待っていろ」

「んー、物わかりの悪いお兄さんね」


 ヨンは、指をぽきぽき鳴らしながら馬車を降りる。

 すると、その騒ぎを見ていた他の門兵が学園内に走っていく。

 さらに、学園の生徒らしき制服を着た者達も集まってくる。


「お前達、誰の従者だ」


 兵士がメイド姿のヨンに聞く。


「私達? 千里様と桃香様よ」

「誰だよそれ、家名はないのか? ということは平民か? 平民が会えるような先生方がここにいるとでも?」

「あら? 平民出身でも通えるのではないの?」


 雰囲気が怪しくなってきたことに気づいたミー達は、皆がヨンの後ろに陣取る。


「こら、何をしているか!」


 そこへ、学園内から騎士が大勢やってくる。

 その先頭を走ってきた若い騎士がヨンと兵士の間に立つ。ヨンに向かって。


「一体何の用で来た」

「えっと、その人に説明したところだけど。私達の仲間が師匠に会いに来ていて、ここで合流って言われたから来たのよ」

「そんな話は聞いていない。誰の、どこの回し者だ?」

「あの、メイドに向かって誰の回し者と? 笑わせるわ。メイド相手にもしかして、ビビっていらっしゃる?」

「貴様、帰れ!」


 と言って、騎士はヨンの肩を押そうと手を伸ばす。しかし、その手がヨンに当たることはなかった。ヨンはその手をつかんで、ついつい反射的に投げ飛ばしてしまった。

 それを見て、先の兵士が笛を吹く。


 ピー!


 その音をきっかけに、高等学園の内外からさらに騎士が集まってくる。


「あら、面白いことになってきた」


 ヨンが舌なめずりをする。

 ミーたちは、やれやれとあきれ顔だ。

 しかもヨンは、集まって来た騎士達に掌を上にして右手を伸ばし、指先を二度曲げて、挑発した。クイクイっと。


「なめられてたまるか!」

「貴様らどこのものだ!」


 騎士達が襲い掛かる。


「カイナーズ第四騎士団改めクサナギゼット、正当防衛のため、お相手いたす」


 ミーたちは、自分で挑発しておいて、一体ヨンは何を言っているのだろうかと、首をかしげるものの、団長が飛び出しては参戦するしかない。


「やるよ」

「「「はい」」」


 こうして、騎士養成高等学園前で大乱闘が起こる。

 もともと、少数精鋭の第四騎士団。それが千里と桃香に鍛えられてよりいっそうの強さを身につけた。

 剣を振り回す騎士などものともしない。剣を振り下ろす騎士の間合いに瞬間的に飛び込み、顎を、腹を殴っていく。そして、足を蹴り飛ばして倒し、さらに腹にこぶしをたたきつける。


「ミー、馬車を中へ突入させろ」

「はい」


 ミーは馬車の御者台に乗り、馬を先に進める。


「中に入れるな!」


 騎士達も強い抵抗をする。

 だが、馬車の前に位置取るメンバー達が騎士を倒しながら歩を進めていく。

 ヨンはさらにあおる。


「高等学園の教師だか師匠だか知らないが、大したことないな」


 すると、初老のひげを生やした騎士がヨンの前に現れた。


「高等学園剣技課筆頭教師、ジョーテ・シモン、参る」


 そう言って、ジョーテは剣をかまえた。


「そう。冒険者パーティクサナギゼット、ヨン。受けて立つ」


 ヨンは、スカートから剣を取り出す。

 二人は、間合いを取ったまま、じりじりと反時計回りに回転していく。そして、ジョーテが動き出す。


「キエー!」


 気勢を上げて剣を振り下ろしてくるジョーテ。

 それをヨンが下からはじく。

 ジョーテは、何度も何度も右上から、左上から剣を振り下ろす。時に突きを加えながら。

 ヨンは、それを丁寧にひとつずつはじいて行く。

 全く剣を打ちこめないジョーテはついにイラついたのか、剣を体の右側、肩の高さに水平に構える。剣先はヨンに向いている。


「覚悟」


 腰を落としたジョーテは、蹴りだした勢いをそのままに、また、腰の回転と腕の突き出しの速度を上乗せしてヨンに剣先を突き刺してくる。

 が、ヨンは左側へくるりと回転し、それをいとも簡単によけ、ついでに剣の腹をジョーテの後頭部にたたきつけた。


「ごめん遊ばせ」


 そう言って。


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