拉致(優香と恵理子)
この二人はアリーゼとナディアと同じくらいの歳、十三歳前後の未成年グループである。
「あの、お恥ずかしい話ですが。買い物を一つ忘れておりまして」
と、ミリーが、顔を赤くして答える。
「私達やマオ様の分の必要な服は買ったのですが、あの、タカヒロ様の下着……」
それを聞いて、仮面の下で顔を赤くする優香。
「あの、どのようなものがお好みかわからず、それに、私ども年長が男性の下着を買いに行くのも恥ずかしがっておりましたところ、二人が買いに行ってくれると……」
「ちなみに、どんなものを?」
「形、色、どちらも任せろ、と、二人は言っていました」
「……」
(恵理子、貸して)
(しょうがないわね。わかったわよ。っていうか、私、今度から二倍買ってもらう)
(ごめん、ありがとう)
二人は耳打ちする。
「さて、ミリー、君達は予定通り、門を出たところで待機。僕達は、冒険者ギルドに挨拶をしてから合流する」
「わかりました」
ギルドに入り、お姉さんに挨拶するため、列に並ぶ。朝はいつも混雑をしている。
そんな中、突然走りこんで来る男が。
「マウラちゃん!」
「どうしたの?」
受付のお姉さん、マウラは対応中にもかかわらず、突然呼ばれて席を立ちあがる。
「モウラちゃんが、モウラちゃんが連れて行かれた」
「どういうこと?」
「はぁはぁ。ごめん、ごめんよ、マウラちゃん」
「いいから、どういうことなの?」
「領主のバカ息子が巡回と称して街を歩き回っていたんだが、その時にうちの屋台で串焼きを買ったんだ。当然おいしいと言ってくれることを期待していて、うちの娘もそれを脇で見ていたんだ。そしたら、領主のバカ息子、突然「まずい」と、怒りだし、脇で見ていた娘に蹴りかかったんだ。で、それをかばってくれたのがモウラちゃんで、代わりに蹴られてしまった」
マウラは驚愕の顔を浮かべる。
「それで終わらなかったんだ。倒れているモウラちゃんにもう一度蹴りを入れようとしたバカ息子に対し、割って入ったのがグレーのポンチョを着た子供二人。両手を広げてかばってくれたんだが、ついて来ていた領兵に殴られて、三人ともバカ息子に連れて行かれてしまったんだ。ごめん、ごめんよ。マウラちゃん」
マウラは膝をつき、茫然としている。バカ息子とはいえ、領主の息子、公爵家の息子だ。強く逆らえるわけもない。
優香と恵理子は目線を合わせ。そして、その男に聞く。
「そいつらはどこに?」
「領主のバカ息子だから、屋敷だろうよ」
それを聞いた瞬間、二人はギルドを飛び出す。
通りに出たところで、優香は口笛を吹く。
「ピーーーーー!」
城門の外。
「少し離れた方がいいわよね」
ミリーは、城門から見える範囲で離れる。
すると、突然、馬車が揺れる。中からヨーゼフとラッシーが飛び出す。
「あ、ちょっと待って、ヨーゼフ、ラッシー、ここではダメ!」
ミリー達の言葉も聞かずに飛び出す二頭。
ヨーゼフとラッシーは、城門に向かって走り出した。
城門
「魔獣だ! 魔獣の襲撃だ! 逃げろ、急いで城内に逃げ込め! 逃げ込んだら城門を閉めるぞ!」
カンカンカンカン、鐘が街中に響き渡る。
「早くしろ! 魔獣が来る!」
「あー、もうだめだ間に合わん! 場内に入る!」
そのとおりにヨーゼフとラッシーは門を通り抜け、疾走する。
「恵理子、領主の屋敷ってどこだろう」
「一番大きい屋敷じゃないの?」
「そうだけどさ。通りを走っていても見つからなくない?」
「じゃあ、上から探しましょう」
恵理子は跳躍して、建物の屋根の上に到達する。
「なるほどね、僕も行くよ」
優香も屋根の上に上る。
「あ、あの一番北にあるでかいやつだね、きっと」
「そうね。行きましょう」
二人は屋根の上を走っていく。
ギルドに新たに冒険者がやってくる。五人だ。
「なんか騒がしいが、どうした?」
マウラは入って来た冒険者に目をやる。
「兄さ……グスタフ様! モウラ、妹のモウラが攫われてしまいました!」
「誰にだ。いつ、どこで?」
「朝方です。さらったのは領主のバカ息子。街の市場でです。さらわれたのはモウラのほか、それをかばおうとした少女が二人。いずれもけがを負わされていると」
「あの、バカ息子……」
グスタスは苦い顔をする。
「それで、この鐘はなんだ。それとは別なんだろう?」
「はい。先ほどからなり始めました。理由はわかりません」
すると、突然通りの方から
「わー」
「逃げろー」
「魔獣が来る!」
と言う、叫び声が聞こえてくる。
「魔獣? 場内に進入されたのか?」
グスタフたちがギルドの玄関に立つ。その瞬間、ものすごい勢いで、二頭の魔獣が通り過ぎた。
「なんなんだ今の魔獣は」
グスタフは首をかしげる。
「グスタフさん、考え込んでいる場合じゃないです。バカ息子ですか? 魔獣ですか?」
パーティメンバーが、どちらの対応をするかの選択を迫る。
「マウラ、この二件はつながっているのか?」
「わかりません」
「ちなみに、バカ息子の対応をしようとした者は……いないわな。あれでも公爵家の息子だ。どっちも最悪」
「カッパーの二人が、カッパーの冒険者の二人が飛び出しました」
マウラが思い出したように言う。
「な、カッパーが? バカ息子の方にか? バカ息子とはいえ、周りにいるのは騎士だぞ?」
グスタフは再び考える。幸いにも、魔獣は今のところ人を襲う様子はない。だが、カッパーの二人は確実に処刑される。とはいえ、自分達は冒険者。領主の屋敷に押し入るわけにもいかない。
「仕方ない。魔獣を追う。目的が同じであることを祈ろう」
五人はギルドを飛び出した。
「わ、私も!」
マウラもそれを追ってギルドから走り出した。
「お、マオ、ちょっと待って。いいもの売ってる」
「何よ、こんな時に」
「僕、あの騎士が着ている鎧って、どんな感じか知りたかったんだよね。ちょっと降りて買ってくる」
「悠長な。早くしなさい」
優香は、屋根から飛び降りて、武器屋へ駆けこむ。そして、二槌のハンマーを買って来た。
「はい、ハンマー」
「これを私が振るうと?」
「あのフルプレートメタルの鎧、どれくらい強いと思う?」
「知らないわよ。今は急ぐんでしょ」
「オッケー」
二人は屋根の上を飛び渡りながら屋敷を目指す。
「「わふ」」
優香と恵理子のにおいを追っているヨーゼフとラッシー。当然のように、屋根の上を見上げる。
「「わふ」」
二頭は、狭い路地に入り、両側の壁を蹴りあがりながら器用に屋根に上る。
遠くに走る優香と恵理子を見つけた二頭は、屋根の上を走り始める。
二頭とも二メートルを超える巨体。それが屋根の上を走ったら……崩れる。
それでもお構いなしに走っていく。
優香と恵理子がヨーゼフとラッシーに気づく。
「あ、あの子たち、屋根の上を走ってる」
「あれ、危ないわね」
「もしかして僕らが屋根の上を走っているからかな?」
「きっとそうね。降りましょう」
「わかった」
二人は、路地に降りる。
すると、二頭も屋根から地上に降り、優香と恵理子に追い付く。
「よーしよしよし」
二人はヨーゼフとラッシーをなでる。
「乗せて行ってくれるかい?」
「「わふ」」
二人と二頭は北を目指して、路地を走る。
住民の悲鳴が上がるたび、「ごめんねー」と、謝っていく。




