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ルシフェの願い(千里と桃香)

 ルシフェリーナが座るソファの対面に、千里、桃香、レオナが座る。ローレルたちは、後ろで立つことにしたようだ。

 ソファとソファの間には、テーブルがあり、七つのカップが並べられている。部屋の奥側には執務机。机の上には本屋書類が山積みだ。

 入り口側には、一応ソファがあるが、そこにも本が山積みになっている。


「うーん」


 ルシフェリーナは立ち上がり、レオナに指示を出す。


「ちょっと、この本をどかすのを手伝ってくれ」


 レオナは、黙ってソファの上の本をルシフェリーナと片付ける。


「ほれ、お前達も座れ」


 ルシフェリーナはローレル達にも座るように言う。


「私達のような従者にまで、お気遣いありがとうございます」


 やれやれと、ローレル達も座ることにした。


「従者っていうが、お前達、ただ者じゃないだろう」

「ここではただの従者で結構です」


 ローレルはバッサリと切ってしまう。


「ねえルシフェ」


 千里がルシフェリーナに声をかける。


「ルシフェ……お前、私を何だと」

「それそれ、ルシフェって人間?」


 はぁ、とため息をつくルシフェリーナ改めルシフェ。多分この手の自由人は何を言ってもダメだろう。


「人間だ。何が人間っぽくないんだ……態度か?」

「じゃあ、何歳?」

「え?」


 それに反応したのはレオナ。

 自分が治癒魔法を習った先生。この学園に来てそんなに長くないと言っていたような。

 でも、もしかして?


「それを聞いてどうする?」

「もしかして本当に不死身なのかなって」

「不死身ではない。魔力が尽きた状態で怪我をすれば、もう治せん」

「魔力ねえ。でもさ、そこまで長生きできるなら、ある意味不老不死だよね?」

「さあ、どうだかな。それも実験だ。心臓がいつまで動き続けるかなんて、誰もわからん」


 ルシフェはお茶をすする。

 千里と桃香は、若い姿を取り続けている人たちを知っている。パパとその妻達。

 絶対に自分達より年上のはず。だが、どう見ても二十歳前後をキープしている。

 だが、そのことはルシフェには言わない。


「心臓を治したことはないの?」

「ある。だが、それがただ治ったのか若返ったのかはわからん」

「治したことのないところはある?」


 ルシフェは、そっと頭を指さす。


「どうして?」

「ここを損傷して、治癒魔法により元通りになった事例がこれまでにないからだ」

「つまり前例がないからやってみてないってこと?」

「そうだ。治ったように見えても、そのまま死んでいく、意識が戻らない、体が動かない、など、完治した例がない」

「ふーん」

「お前達は、ここの機能が何か知っているのか? 処刑されたものを何度も解剖したが、何もわからなかった。筋肉もついていないしな」


 千里と桃香は、病院で勤めていた時に知りえた知識以上のことはわからない。現代医学でも脳のどこが何をつかさどっているかはわかっても、どうつかさどっているかはわかっていなかった。


「私達も知らないわよ。それから、治すこともできない」

「ところで、どうしてそんなに治癒魔法に詳しい?」

「たまたまよ。興味があっただけ」


 前世に絡むこと、十五歳まで特訓を受けたことなど、秘匿する。


「もう一つ聞いていい?」

「なんだ?」

「何でレオナの治癒魔法であなたののど、治ったの?」


 レオナがはっとする。確かにと。レオナよりルシフェの方が魔力量は多いはず。


「レオナの魔力に足りない分を私が補っただけだ。イメージはレオナ。魔力は私、そう言うことだ」

「ってことは、レオナの魔法をブーストできたってこと?」

「レオナがどこまでイメージできるかの試験だ。それで充分。しかし、お前達、そこまでわかるか……」


 ルシフェは、うつむいて黙る。何かを考えているかのようだ。その視線はカップの中の紅茶を、いや、紅茶に移る自分の目を見ているのか。


 ルシフェは、決意をしたように千里に聞く。


「お前達は、ドラゴンを治療したことはあるか?」

「ないわよ。会ったこともないし」

「そうか。すまない」

「ドラゴンの治療をしたいの?」

「……したい。だが、できない」

「できないってことは、すでに患者がいるんだ」

「……」


 ルシフェは、さらに考え込む。ドラゴンは素材として一級品。当然金になる。怪我をしていて倒せる可能性があるなら倒したいと思うのが冒険者だろう。

 そして、目の前にいるのは冒険者。だが、これ以上の可能性に会ったことはない。


 千里は紅茶を飲み干したカップをソーサーに置く。


「レオナはどうする。もうちょっと師匠さんと話をしていく? 私達は、宿でも探してこようかと思うんだけど」

「は、はい。せっかくなので」


 こんな肩を落とした師匠は見たことが無いから。そうは言わなかった。


「ヨン達も来ないし、捜しに行かないとね。ローレル、行こうか」

「はい」


 千里が腰を上げて立ち上がる。それに桃香やローレル達が続く。


「レオナ、冒険者ギルドに伝言しておくから、寄ってね」

「はい」


 千里達がドアに向かって歩く。

 が、うつむいたままのルシフェがそれを止める。


「待ってくれ!」


 千里が立ち止まってルシフェに視線を向ける。

 だが、ルシフェが次に声をかけたのはレオナ。


「レオナ、お前はこの者たちを信用しているのだよな」

「はい。千里と桃香にこれからもついて行きます」


 その言葉を聞き、ルシフェは立ち上がり、千里と桃香に頭を下げる。


「お願いだ。話を聞いてほしい。聞くだけでもいい。頼む」

「あんまり人に聞かせたくない話なんでしょ」

「だが、聞いて、気が向いたら助けてもらいたい。その可能性のある者達にようやく会えたんだ。初めてなんだ。可能性をかけたいと思えたんだ」

「あのね、ドラゴンを助けたいって話なら考えさせて。ルシフェが頭を再生したことがないのと同じで、私達だってドラゴンに会ったこともなければ治療なんてしたこともないし、そんな話も聞いたことがないの。冒険者が聞いちゃいけない話ってことも想像がつく。黙っておいてあげるから。ごめんね。私達だって、助けたいと思っても、無責任なことはしたくない」


 千里ははっきりとルシフェに伝える。

 ルシフェは千里と桃香をしっかりと見て、はっきりとした口調でお願いをする。


「母なんだ。話を聞いて欲しい。助けてもらえなくても仕方ない。相談に乗って欲しい。お願いだ」


 そう、言ってもう一度頭を下げた。その目に涙が浮かんでいたのは明らかだった。


「はあ。話を聞いてからの判断。それでいい?」

「ありがとう。嬉しい」


 千里と桃香はもう一度ソファに座りなおす。


 ルシフェは語りだす。


「私は孤児だったんだ」


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