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恐怖の姫様、ローレル(千里と桃香)

 固まるローレルをよそ目に千里が聞く。


「エルフの軍隊って、男もいたんじゃないの?」

「「「……」」」


 なぜかエルフの三人が三人とも口をつむぐ。


「あれ、聞いちゃいけなかった?」

「いえ、我が国の男どもは他のエルフの里に比べて働く方だと思うのですが、こういった遠征はめんどくさがり気味で。しかも、飽きると駄々っ子のようになるので、面倒くさく。遠征に出るときは全員女と決めています」

「桃ちゃん、エルフ、ダメンズ多そうだね」

「千里さん、私、求めていませんから、ダメンズ」

「まあ、よくわかったよ。どうしてルージュとフォンデにあの対応だったのかが」


 砦の騎士がルージュとフォンデに土下座をした理由を察する千里。

 しかし、ルージュは否定する。


「いえ、違いますよ」

「「「え?」」」

「初めに名乗りましたよね、「シルフィードの姫、ローレル様のおなりだ」と。だから相手も「ようこそお越しくださいました、ローレル姫様」でしたよね」

「……」


 ローレルは嫌な予感しかしない。恐る恐る聞く。


「あの、私のこと、なんて説明を?」

「あれ、何でしたっけ」

「確か、「三日三晩で終わってよかったな、これが姫様なら……」何でしたっけ」


 ローレルの疑問に、ルージュとフォンデがお互いに思い出しながら首をかしげる。


「あなた達、気になるじゃない」


 ローレルがルージュの両肩をつかみ、ぶんぶんと振る。


「ローレル、まあいいじゃない。そのうちわかるわよ」


 千里がローレルをなだめる。


「……」


 ローレルは黙りこむ。本当に嫌な予感しかしない。自分をなんと言ったのか?




 一行は、森に入って素材や食材を集めたり、訓練したりしながら進む。そして、ドレスデン最初の街にたどり着く。


 だが、砦となにも変わらなかった。


 門兵は、土下座をし、そして、冒険者ギルドに向かう途中で領主だという貴族が現れ、そして土下座をした。


「ローレル姫様におかれましてはご機嫌麗しゅう。何かご用命がございましたら何なりと申し付けください。ですので、ですので、あらゆる毛を燃やすのは、勘弁してください。体毛は三日三晩も燃えません」

「ちょっと待てー!」


 ローレルは馬車を飛び出し、外を歩いていたルージュとフォンデの耳をつかんで馬車へと引き入れた。


「「いたたたたた……」」


「ねえ、ルージュ、フォンデ、今、あの領主、なんて言ったかな」


 ローレルが改めてルージュとフォンデに問う。


「あらゆる毛を三日三晩燃やす、ですか?」

「それー! あなた達、私のこと、そう言ったの? ねえ、私が三日三晩、あらゆる毛を燃やすって?」

「なんと恐ろしい……」


 ルージュががくがくと震える。


「あなたが言ったの。私のことをそう言ったの。何で怖がってるの? 本当にあらゆる毛を燃やすわよ!」

「ひぃ!」


 フォンデが股を押さえる。


「そこは髪を押さえなさいよ!」


 ローレルはがっくりと肩を落とす。


「もう、お嫁に行けない」


 ローレルは、両手で顔を覆ってしゃがみこむ。


「というわけで、姫様は、この国ではものすごく恐れられているのです」

「ちゃんちゃん」

「アンタラー!」

「「キャー、姫様が怒ったー」」

「ずっと怒っているわ!」


「ところで、あの、外で土下座している貴族どうする?」


 漫才が終わりそうにないので、千里がローレルに聞く。


「もう、いいわよどうでも。燃やさないから下がっていいって言って」

「レオナ、お願い」

「え、私……」


 レオナは御者台から降りて、貴族に声をかける。


「今は燃やさないでおいてやる。次に会う時は剃ってこい。ってローレル姫様が言っています。今のうちに下がってください」

「って、おい、レオナ!」


 ふーふー、と、息を荒くするローレル。


「ねえ桃ちゃん。なんでうちのパーティ、こんなに品が無くなっちゃったかな」

「どうしてでしょうね。私と千里さんがいるのに」

「ねー、桃ちゃん」

「ねえ千里、桃香。ギルドで素材の換金をしたら、すぐにこの街を出ましょう」

「宿に止まらなくていいの?」

「この街、いたくないの」


 涙目のローレルの意見を聞き、千里と桃香は、早々に街を離れることとした。




 何日かして、次の街。

 たった一つ以外何も変わっていなかった。その一つ。領主が頭を剃っていた。


「もうやだ。この国、とっとと出る」

「あ、ごめんなさい。王都だけ寄っていいですか?」


 だが、涙目のローレルにレオナが言う。


「私、ルディアス陛下と一緒にカイナーズ訪れて以来、一度も王都に帰っていないので、師匠に顔を見せてこようかと」

「一人で行ってきなさいよ。貴方のせいよ、貴族が頭を剃ったの」

「あらゆる毛を燃やすって言ったローレルが悪いんじゃないですか」

「言ってないわよ。もうやだこんな国。ルージュもフォンデもどうして滅ぼしてくれなかったの!」

「ローレル様の命令があれば、この国の王都を三日三晩燃やして見せましょう」

「ご命令を」

「しないわよ」


 ローレルはがっくりする。




 何日かが経ち、遠目に王都が見えてくる。


「桃ちゃん、大きいね」

「はい。カイナーズ並みに大きいです」


 城壁に囲まれた巨大な都市。その四方から伸びる街道。一本は自分達の方に続いている。

 丸い城壁の中央には高くそびえる何本もの塔。王城も見えてくる。


「よかったね。あの大きな街が黒焦げにならなくて」

「そうですよ。やっぱり街は活気がないとだめですよね」

「さて、この街の名物は何かな。レオナ、お小遣い」

「もう、渡してありますよね」

「あはははは。さ、行こう」


 レオナの冷静な突っ込みに、千里が笑ってごまかし、馬車は街道を進んでいく。




 さすがに、王都の城門となると、土下座をされるようなことはなかった。もちろん、ルージュとフォンデが名乗りを上げなかったというのもある。

 王都は、以前シルフィードに攻め落とされたときから、エルフが立ち入っており、エルフが街を歩いても驚く人は少ない。むしろ、何も変わらなかったことや、国民的には特に脅されたわけでもなく、エルフに対してあまり恐怖心を抱いていない。


 千里は、王都内に馬車を進めながら戦争時のことを聞く。


「ねえ、ルージュ。こんな大きな都市、よく無血で落とせたわよね」

「同じですよ。これまでたどってきた街の貴族たちを連れて、国王に説明をさせただけです。ま、それに加えてルディアスが弱音を吐いたんですけどね。長男は戦死、次男がそれでは、国王もどうにもならなかったみたいで。平和条約を結ぶことで簡単に降伏しました」

「実際、不平等条約ではないので、簡単に受け入れてくれたのではないかと思います。後は、王が退陣し、ルディアスが王位について終わりです。ルディアスなら操りやすそうですし」


 ルージュとフォンデがそう説明をしてくれた。


「レオナ、よかったの? ルディアス、国王になっちゃったよ。王妃の座とかもういいの?」

「眼中にありません。私、まだまだ強くなるんです」

「えっと、ヒーラーだからね、うちのパーティの」


 千里は、レオナは戦士ではないと、確認の意味を込めて念を押す。


「ところで、レオナのお師匠様って魔導士団にいるの?」

「いえ、魔導士養成高等学園で講師をしています」

「じゃ、その高等学園に行くの?」

「そうですね。そうしてもいいです?」

「んー、ヨン!」


 千里が馬車の窓から顔を出し、後ろの馬車に呼びかける。


「素材をギルドに売って来て。その後、高等学園で集合ね」

「はい。わかりました」


 ヨンの馬車が千里達の馬車から離れ、冒険者ギルドへと向かって行った。



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