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お金がない。困った時のキザクラ商会(千里と桃香)

 結局、一行は昼ご飯を食べることなく、隣街に着く。街の名前はモーリーだ。

 だが、ここでも問題が発生する。


「街に入るには、一人銀貨一枚だ」


 門の兵士がそう告げてくる。


「あの、お金ないんです」

「そんな立派な馬車に乗っていてお金がないって、どう言うことよ」

「持ってくるの忘れちゃって」


 こういう時の交渉はレオナの仕事だ。さすがにおなかの空いた千里達やエルフの姫様が行うわけにはいかない。


 すでに千里も桃香もぴえんな顔をしている。なぜなら。


「街に入ったところで、お金が無きゃ食事もできないし宿にも泊まれないんだろう。どうするんだ?」


 そう、門兵が言うからだ。ただ、それは正しい。


「それに、冒険者ならただで通れるが、冒険者登録だって金がかかるぞ」


 お金が必要。だけど、知らない人に借りるわけにもいかなければ、売るものもない。

 あるのはパパからもらった武器や道具類だけ。それはちゃんと持ってきた。でもそれを売るのはいやだ。


 と、そこで桃香がひらめく。


「あ、キザクラ商会!」


 桃香が馬車から飛び出して門兵に言う。


「この街にキザクラ商会あります?」

「あ、ああ。あるけど。あの高級店が何だっていうんだ?」

「私達、あのお店の関係者です。見てください。ほら」


 そう言って、桃香は団服の裾を裏返して見せる。


「ほらここに、キザクラ商会のマークが入っていますよね。だから、キザクラ商会の人、誰か連れて来てもらえませんか?」

「んー。それが証明になるのかどうか……」

「それをキザクラ商会の方に判断をしてもらいます。どうか」


 門兵は、悩んだ挙句、同僚の門兵に声をかける。


「おーい、お前。そろそろ上がりの時間だよな。ちょっと帰りにキザクラ商会に声をかけてってくれないか?」

「はーい。同じ方向だからいいですよ」


 門兵は、再び桃香に向き、聞く。


「だそうだ。もうちょっと待ってみるか?」

「はい」




 しばらくすると、黒のスーツで決めた女性がやってくる。

 その女性は、門兵と話をした後に、馬車の方へとやってきた。


 千里と桃香が馬車を降りて、その女性を待つ。

 女性は、無言で千里と桃香の服装をチェックする。前も後ろも。そして、ローレル達が着ている服も眺める。


 女性は、千里と桃香の前に戻り、そして、千里と桃香に声をかける。


「千里様と桃香様ですね」

「様?」


 門兵が驚きの表情をする。

 千里が答える。


「はい。ですが、様をつけてもらえるような人間ではありません。一文無しですし」

「カイナーズ本店からも、何より会長からも、千里様、桃香様の対応を頼まれております」


 その一言に桃香がピンとくる。


「その会長から頼まれているのは、私と千里さんだけですか?」


 女性は、わからない程度に視線を動揺させる。


「はい。私どもが聞いているのはお二人です」

「そうですか」

「それで、どのようなご用件でしょうか」

「あの、さっき千里さんが言いましたけど、一文無しなんです。アルバイトでもなんでもしますから、お金を貸していただけませんか?」


 桃香が丁寧にお願いをする。


「そのような些細なこと、問題ございません。それではこちらへ」


 女性は、馬車を門の中へ誘導しようとする。


「ちょっと待ってくれ。街に入るにはお金が……」


 女性は、門兵の手に何かを握らせる。


「ま、いいか。入ってくれ」


 門兵は馬車二台を街へ入れた。




 門をくぐったところで、女性が声をかけてくる。


「遅れました。私は、このモーリー支店を任されております、ライザと申します。以後、お見知りおきを」


 ライザが頭を下げる。


「あの、ライザさん、頭を上げてください。こっちが助かりました。あの、お金はいつかお返しします」


 桃香がお礼を言う。


「あ、いえ、問題ありません。経費で落ちますから。それに、千里様と桃香様にお金を貸したなど、会長に怒られてしまいます」


 ライザは桃香に提案する。


「本日は、我が支店にお泊りになられませんか? お金がないということは、何らかの事情で旅を始められたところ、そう想像しますが、アドバイスもできるかと思います」

「本当ですか。是非、お願いします」

「それでは、支店までお越しください」

「あ、ライザさん、乗って行ってください」

「よろしいのですか。ありがとうございます」


 ライザを馬車に乗せ、キザクラ商会モーリー支店へと馬車は向かった。




 支店に着くと、裏庭に馬車を止める。客ではないので、裏側から入る。

 ライザは見回して確認を取る。


「皆さま、十五名様でよろしいですね」

「はい。大所帯で申し訳ないです」

「あら、エルフ様もいらっしゃるのですね」

「珍しいです?」

「いえ、我がキザクラ商会は、店員がすべてエルフで統一されている地方もありますし、このあたりでも、所によってはエルフの支店長がいたりしますので、むしろ、なじみ深いというか」

「そうでしたか」

「ですので、支店長会議のような会議に出席すると、よくエルフの方々にお会いしますよ。そもそも、キザクラ商会のトップにハイエルフ様もいらっしゃいますしね。あ、千里様と桃香様にはすでにご存じのことでしたね。申し訳ありません」


 ライザは、中に入るように促す。


「それでは、お部屋へ案内いたします」


 ライザは十五人を最上階の貴賓室、来客用の部屋へ案内する。


「それでは、このフロアをお使いください。お風呂はいつでも入ることが可能です。食事を用意するまでに時間がかかりますので、どうぞ、ご利用ください。下着もパジャマも各種サイズを置いておきますので」


 そう言って、ライザは部屋を出て行った。


「千里、桃香、どうゆうこと? 様付け?」


 ローレルが聞いてくる。

 桃香は、あはははは、と笑ってごまかす。

 千里は、とりあえず部屋のテーブルにあったフルーツを口に放り込む。


 腹にフルーツを納めて少し余裕を取り戻した千里が立ち上がる。


「桃ちゃん、風呂に行こうぜ」

「千里さん、かっこいいですが、私の分のフルーツ……」


 千里はポーズを決めたまま、視線を外す。




「おー。広いお風呂だね」

「本当です。お城並みですね。みんなで入れそうです」

「桃ちゃん、余計なことを言うと……」

「よし、みんなで入ろう」


 ローレルが言い出す。


「そうです。皆で入りましょう」


 ヨン達も同調する。


「ほら。こうなるじゃん」

「あははは。まあ、いいじゃないですか。旅の一日目。みんなで汗を流しましょう」


 桃香がまとめ、皆で入ることになる。




 風呂では、みんなで背中を流し合ったり、湯に浸かって話をしたりと、のんびりすることが出来た。


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