勇者の名前はタカヒロそしてマオ。パーティ名はクサナギ(千里と桃香)
翌朝、ガルデウスは、配下の騎士達を連れて砦から出る。
いったんカイナーズ側へ出て、遠回りをする。
馬車には乗らずに森の中を移動して、そして、ファルテン軍に合流する。
「あ、あなた様は」
突然現れたガルデウスに気づいた兵士。
「どうした。どうしてこんなところに軍が展開している。それにあわただしい理由は?」
「は。ガルデウス王子殿下がカイナーズから戻られないことを案じた国王陛下とエルデウス殿下が出兵を決意いたしまして、エルデウス殿下指揮の下、今は、敵の籠城戦に付き合っているところです」
「それで、この騒々しさは?」
「それが、朝からエルデウス殿下がお見えにならず」
「そうか。兄上は気まぐれだからな」
嘘である。
「ちょっと兄上のテントを見せてくれ」
「はっ。こちらです」
ガルデウスはエルデウスのテントに入る。
「ちょっと一人にしてくれ」
ついて来た騎士、兵士達はテントから出る。
ガルデウスは机で紙にペンを走らせる。
そして、それにちょっとしわをつける。
「おい、こんなものがあったぞ」
「は? 部屋中探したのですが何一つ手紙のようなものは。それで、なんと?」
「見てみろ。飽きたから帰ると」
「あの、この手紙どこに? 部屋中を探したのですが」
「枕の中まで探したのか?」
「枕の中?」
「そうだ。兄上はこういうのは枕の中に隠すのだ」
嘘である。
「そうでしたか。ですが、飽きたから帰るというのはさすがに殿下でも」
「わからん。だが、一人でも帰れてしまうくらい強いだろう、兄上は」
「は。そうです。その通りです」
「私は、しばらくカイナーズに潜伏し、情報を集めていた。それを父上に報告せねばならない。お前達はどうする。兄上のことだ、兄上はもう帰っているぞ?」
「しかし、ここまで来てなんの戦果もあげずに帰るというのは」
「何を言っている。カイナーズの国内はかなりあわただしくなっていたぞ。充分に疲弊させられたのではないか? おそらく、いつであろうと、もう少し兵力を上げて総攻撃を行えば、戦うこともなく、無血で白旗が上がるだろうよ。そうだな、三万もいれば確実だな。こちらが二万だから籠城戦という手を取るのだ」
「そ、そうでしょうか。でしたら、とりあえず、撤退の準備をいたします」
「言葉を間違えるな。凱旋するぞ」
「はっ! 承知しました」
騎士は慌てて出て行った。
「しばらくお別れですな。また会いましょう。姫様、桃香様」
ガルデウスは、そっとつぶやいた。
ブルッ! 桃香が震える。
「セーラ様、女王陛下!」
「なんだ騒がしい」
「ファルテンが撤退していきます」
「そうか。ガルデウスはやってくれたか。よかった。よし、帰ろう。すぐに帰ろう。千里ー桃香ー、帰ろう!」
一か月後。
カイナーズの王城に二人の国王がやってくる。
「ルディアス・ドレスデン。ここに参上いたしました」
「ガルデウス・ファルテン。同じく参上いたしました」
二人とも、謁見の間でセーラに対して膝をつく。
ちなみに、ドレスデンはあの後、シルフィードの軍勢に攻め落とされ、シルフィードの属国扱いとなった。
一方で、ファルテンは、国に帰ったガルデウスが父親を監禁し、王位についてしまった。王位についたところで、カイナーズの属国宣言をしたのだ。
「うむ、よく来てくれた。長旅ご苦労だった。休んで欲しい、と言いたいところだが、さっさと情報交換と、決めることは決めてしまおう」
「「はっ」」
会議室では真四角のテーブルに四名がつく。
シルフィードのローレル、カイナーズのセーラ、ドレスデンのルディアス、そして、ファルテンのガルデウスである。
それぞれの後ろには従者が控えている。
セーラの後ろには千里と桃香とレオナ。
ローレルの後ろにはルージュとフォンデ。
ルディアスとガルデウスの後ろにはそれぞれ二人の騎士が立っている。
話し合いは簡単なものだった。
結局、人間族の三大国はカイナーズを頂点として平和条約を結んだ。
また、この三国は、シルフィードとも平和条約を結ぶ。
こうして、エルフを頂点とした連合が設立された。
実質、敵対関係を無くして、協力関係を築く、そう言ったところだ。
よって、ほぼほぼ決めることなどない。仲良くしましょう。それだけの事だ。
「では情報交換に移りましょう」
セーラが言葉を発する。
ちなみに、この時点で千里も桃香も飽きている。なんとかあくびはかみ殺しているようだが。
「セーランジェ女王陛下から依頼の受けていた情報収集の件です」
ルディアスが口を開く。
セーラが苦虫をかむ。まさかと。
千里と桃香が視線をルディアスに向ける。
「我が国のさらに北西の森に、獣人の国があります。そこから仕入れた情報です。この大陸の西、巨大な山脈を超えた向こうにアルカンドラ大陸があることは御存じかと。獣人達は、海路を使ってフィッシャーという人間の街と貿易をしております。そこで仕入れた情報だということですが」
「……続けて」
セーラが先を促す。
「そこで、船主たちはある冒険者パーティに会ったそうです。プラチナランク冒険者パーティです。そのパーティは、ドラゴン族を従えし勇者のパーティと言われており、その勇者の名前はタカヒロ、そしてマオ、パーティ名はクサナギ。ということです」
千里と桃香の目から涙がそっと流れる。それに気づくセーラ。
「千里、桃香、行ってください」
「いいの?」
「はい。お二人の目的は存じております。ただ、お願いが一つあります。出発は明日の朝に。今日は、どうか私と、いえ、私達とお酒を酌み交わしていただけませんでしょうか」
「ん。わかった。ありがとうセーラ」
「いえ、この四か国の関係を、いや、この大陸の平和を築いてくれたのは千里と桃香です。感謝の言葉もありません。どうか。お礼を」
「よし、飲もう。みんなで飲もう!」
「そうです。この大陸の平和に。千里と桃香の目的達成に向けて乾杯しましょう!」
その後、会議は早々に切り上げ、宴会へと移った。
千里と桃香を中心に、セーラ達、ローレル達、レオナ、ヨン達第四騎士団、ルディアスにガルデウス。食べて飲んで笑って、時々涙して。




