心は純真なんです。だから……(千里と桃香)
「しませんよ。そんなお下品なこと」
桃香はジト目で千里を見る。
しかし、千里はまだヨンを離さない。
「えっと、ヨンだっけ。貴方が第四騎士団の団長でいい?」
「ええ、そうです。いい加減離してください」
「桃ちゃん、かんちょうして」
「嫌です」
桃香が断る。
「何が望みですか! 私、まだ嫁入り前なんです!」
「嫁に行った後ならいいんかい!」
桃香の突っ込み。
「第四騎士団、あなたを含めて私がもらっていい?」
「くっ、断る。自由がなくなるじゃないか」
「あるわけないでしょ。私の奴隷よ。桃ちゃん、やっておしまい」
桃香はジト目で千里を見て、
バチン!
ヨンの尻を思い切りはたいた。
「いったーい! わかった。わかったわよ。言うこと聞くわ。だけど、奴隷扱いはやめて」
ようやく千里がヨンを開放する。
桃香は扉の鍵を開ける。するとセーラとローレルが入って来る。
その状況を見たセーラとローレルはあきれる。予想できたことだ。
「ほら言ったじゃない。その二人に手を出しちゃダメって」
「……」
ヨンがジト目でセーラを見る。
「それでどうなったの?」
ローレルが千里に聞く。
「第四騎士団、私の直属になったから。私がもらったから」
「え?」
セーラが驚きの顔を千里に向ける。
「えっと、なんて?」
「ヨンを騎士団長とした第四騎士団は、私の直属になりました」
千里は丁寧に言い直す。
「それって、カイナーズの騎士団じゃなくなったってこと?」
「「「……」」」
セーラとローレル、ヨンが顔を見合わす。
「あれ、それって、どういう?」
ヨンが疑問を呈する。
「ちょっと待って、それってえっと」
ローレルが慌てる。
セーラはいまいちローレルの様子に理解が追い付かない。
「千里、あなた、何を言っているのかわかる?」
ローレルが千里に確認する。
「ん? 何って?」
「私、あなたに付き従っているわよね」
「うん。ん?」
「セーラはカイナーズの女王だけど、シルフィードの属国。つまり、私の下」
「……」
セーラが顔を濁らせる。
「で、第四騎士団を直属にしたってことは、その騎士団長は、私と同格。つまり、セーラより格上なの」
「「え?」」
セーラが視線をヨンに向けると、ヨンは勝ち誇ったように笑う。
「セーラちゃん。なんだ。私より格下なのかー」
セーラは千里に向かって言う。
「どういうこと? 下剋上? 下剋上なの?」
「いや、セーラは倒されてないからさ」
「でも、私、第四騎士団を千里にとられたってこと?」
「んー。そうなる?」
がーん、という音がしそうな顔で固まるセーラ。
「でもさ、私がヨンにセーラに従えって指示したらそれでいいんじゃない?」
千里が解決策を提示する。
「……」
今度はヨンが固まる。
「まあ、みんなで仲良くしようよ。でも、とりあえず、ヨン達はお下品だから、敬語を義務付けます」
千里がヨンに指導を与える。
「え?」
「義務付けます」
「はい。かしこまりました……」
「それじゃ、今日はこれで店を閉めて来て」
「はい」
ヨンが部屋を出て行った。ミーとリィはルゥを起こしている。
ヨンが、客をすべて追い出し、他のメンバーを連れて部屋に戻ってきた。
そして、千里と桃香の前に立つ。
「第四騎士団、ヨン以下八名、ミー、チー、キー、リィ、シィ、ルゥ、スゥ、フゥ。千里様、桃香様の配下に入ります」
「はい。よろしく」
「よろしくです」
「千里、それでどうするの?」
セーラが聞く。
「これからキザクラ商会へ行くわよ。こんな格好いつまでもさせていたくないし。もちろん、セーラのお金でね」
「え?」
「第四騎士団だって、こんなお下品な恰好していたくないでしょうに」
「「「……」」」
「第四騎士団は、襟のラインは四本ね。いい?」
「えっと、なんです?」
ヨンが聞く。
「セーラー服よ。私達の制服みたいなもんよ。それを義務付けるから」
「どんな服かわかりませんが、承知しました」
桃香は思う。ヨン、どう考えても二十歳超えているよな。と。
「それとメイド服ね」
セーラが追加する。
「何で?」
「ヨン、敬語」
「なぜにメイド服なのですか、セーラ様」
「それは戦闘服だからよ」
「セーラー服と呼ばれる服は……」
「ケースバイケースだから」
セーラは、ヨン達がメイドをやらないのが許せないらしかった。千里は、そのあたりはセーラに任せることにした。お金を払うのはセーラなのだ。
ヨン達、第四騎士団は、すべてを黒にした。セーラー服もメイド服も、プリムにいたるまで。
「なんで真っ黒なの?」
セーラが聞く。
「何者にも染められないから黒なのです」
「だからって、ソックスやエプロンまで黒なんて……まさか、パンツ……」
「し、白です。白です! 心は純真なんです!」
「そこは黒にしなさいよ。こだわりじゃない! だいたい、ヨン、あなたいくつなのよ」
「永遠の十五歳です。成人したてです」
「なるほど。自分は純真。何者にも染められない……。ヨン、あなたの病気がわかったわ」
「え? 私、病気なのですか?」
「そうよ。中二病よ」
「……なんです? それ」
「気にしなくていいわ。貴方はいつまでも最強でいなさい」
「……」
「さてと」
千里がしきりなおす。
「セーラ、第四が動くことになったけど、どうするの?」
「はい。それなら我々はドレスデンに当たります。第四にはファルテンの足止めをお願いしたいです」
「ヨン、第四だけでできるの?」
「お任せを。基本砦に籠城ですよね。後は、セーラ達がドレスデンを下して戻ってくるのを待てばいい。数週間の辛抱かと想像しますが」
「わかった。それじゃヨン、お願いするわ。方法は任せる」
・
千里がヨンに命じる。
「ご期待に応えます」
「それでは、第四騎士団にお願いします。第五騎士団から第七騎士団を率いて南西の砦に向かいなさい。そして、足止めを」
セーラがヨンに命令ではなく、お願いをする。
「承知しました。セーラ」
ヨンが部屋を出ていく。
「ねえ、ヨンって、騎士団を率いることが出来るの?」
千里はセーラに聞く。第四はこれまで他の騎士団とちがって表に出てきていない。しかも九人しかいない。
「できるわ。そこがあの子達の厄介なところなの」
永遠の十五歳をあの子呼ばわりするセーラ。
「ふーん。ま、いいか。じゃ、私達はドレスデンに向かうのね」
「……」
セーラが固まって千里を見る。
「ん? どうしたの?」
「千里、一緒に行ってくれるの?」
「あれ? どうして?」
「いつもいつも、行ってらっしゃいって、送り出そうとするから。ロックリザードの時もシルフィードから帰るときも」
「あれ、そうだっけ」
セーラがジト目をする。
「まあ、ここに残っても暇そうだし。セーラへのプロポーズでも見られるかもしれないし?」
「そんな平和的な交渉なら、二万も率いてきません。もちろん、断りますけど」




