第四騎士団とは?(千里と桃香)
「セーラはどっちに行くのよ」
部屋に戻ってきたローレルがセーラに聞く。
「北は馬鹿っぽいから南からかなと思っているんだけど。それに、脳筋のガルデウスを北に派遣すれば、足止めにはなるんじゃないかとね」
「そうね、あの脳筋を南にやって、裏切られたら目も当てられないわよね」
「ええ。というわけで、私は南から行くわ」
「ところで」
と、ローレルが声をかける。かける相手は千里と桃香だ。
「二人はどうするの?」
「んー。強い人がいるなら見に行ってみたいけど」
「いると思いますわよ。北に」
「セーラ、それ、北に行かせようとしているだけでしょ?」
「バレバレですよね」
えへっ、って、セーラが舌を出す。
「かわいこぶられてもねー。あ、そうだ」
千里が思い出したかのように言う。
「そんなことより」
「「そんなこと……」」
セーラとローレルがげんなりする。カイナーズの存続がかかっているその話をそんなことと。
「第四はどこにいるのよ」
「は?」
「第四騎士団よ。数字を飛ばしたら気になるじゃん。第四騎士団がなかったけど」
ふう。
セーラがため息をついて、真面目な顔をする。
「第四騎士団は使えません」
「なんで?」
「あの場にもいませんでしたよね」
「うん」
「第四騎士団のモットーは、自由です」
「自由?」
「はい。自由です」
「つまり?」
「命令を聞くも聞かないも自由です」
「……それ、ありなの?」
「はい。そもそも、第四騎士団は騎士団とはいえ、十名もいません。外向きには永久欠番ということになっています。なぜなら、あるのに使えないからです」
「桃ちゃん、やばいよ。ドレスデンやファルテンよりがぜん興味がわいてきた」
「ですよねー。私も気になります」
「「……」」
「ねえセーラ、会えるの?」
「……会うことはできるかもしれません」
「おいセーラ、そんなことを言っている場合じゃないだろう」
ローレルがたしなめる。だが、セーラの意見は違った。
「いえ、もし、第四を動かすことが出来たら」
「いや、いいよ。場所さえ教えてくれたら私達だけで行ってくるから」
「はい。お邪魔しません」
千里と桃香はセーラとローレルの邪魔はしないと、気を遣う。
「会えないんです。お二人では」
「「えー」」
「それでは、こちらへ」
セーラが千里と桃香、ローレルを連れて部屋を出る。
「申し訳ないのですが、ルージュとフォンデはミシル達と留守番をお願いします」
ついて来ようとした二人をセーラは止める。
「それでは、この部屋へお願いします」
三人は、セーラに促されて、ある部屋へと入る。
「ここで着替えをします」
そこは衣裳部屋であり、きらびやかなドレスが所狭しとかけられていた。
「え、ドレスを着るの?」
「姫様ドレスですか。ちょっと楽しみです」
千里と桃香は、着飾れることにちょっと浮かれる。
「えっと、違います。こちらへ」
そう言って、セーラは奥へと足を進める。
そして、
「これを着ます」
と言って、隅にかけられている、王族が着なさそうな衣装を指さす。
「「……」」
千里と桃香が固まる。
「本当に、これを着るの?」
「街中に紛れるためには、これがいいんです。はい、千里は冒険者の盾使いです。桃香は魔導士、ローレルは回復魔導士っぽいのを着てください。私も冒険者の剣士になります」
「えー、桃ちゃん、その魔導士の帽子もスカートもかわいい。いいなー」
「ですけど、千里さんのその恰好もかっこいいですよ」
「そう?」
「かわいくはないですね」
しょぼんとする千里。
四人は、どこにでもいる冒険者パーティの恰好をする。
「ねえセーラ、こんな格好で城の中を歩けないでしょ?」
「ええ、ですから、ここには隠し通路があります」
「「……」」
「敵に攻め込まれた時に、一般市民の恰好をして逃げるんです」
「こんな感じで?」
千里が自分の着ている服を確認する。
「はい。その通りです。千里、ちょっとこの箪笥を持つのを手伝ってくれます?」
「……」
千里は無言で箪笥の片側を持ち上げる。もう一方はセーラだ。
箪笥をずらすと、そこに扉が現れる。
「では行きます」
セーラは扉を開けて飛び込んだ。
「桃ちゃん、これ、滑り台になってるね」
「本当ですね。でも、先は真っ暗です」
「いいから行こう」
ローレルが二人の背中を押す。
三人もセーラに続いて滑り台を滑り降りた。
「桃ちゃん、明かり」
「はい。イグニッション」
桃香が灯りをともす。
地下通路は、ずっとまっすぐ続いており、四人でそこを歩いて行く。
ある程度進むと、階段が見えてきた。
その階段を上ると、扉があり、そこを抜けると、一軒の家の中に出た。
「逃げるときは、ここから街の中へと行くんです。内緒ですよ」
セーラが話さないようにと念を押す。
「ここからどうするの?」
「まあ、ついて来てください」
セーラはその家を出て街の中を歩いて行く。大きな通りを歩き、細い路地に入り、また通りに出て、そこからまた細い路地に入る。
「えっと、迷子になりそうね」
「そうですね。そもそも、最初の家がどこだかわかっていないです」
そうやって、セーラについて行くと、一件の飲み屋にたどり着く。
看板にはフォードールズと書かれている。
「えっと、飲み屋?」
「はい。それでは入ります」
カランカラン
「いらっしゃーい」
カウンターのお姉さんがオーバーアクション気味に明るい声で声をかける。
お姉さんはぴっちりした、体のラインが出るようなワンピースを着ている。
店を見回すと、カウンターにもテーブル席にも冒険者らしき男達が酒を飲み、鼻の下を伸ばして座っている。昼間っから。
鼻の下を伸ばしている理由は明白だ。
横にはお姉さんが座っている。その距離はゼロ。そのお姉さん達も、そこそこきわどい服を着ている。
千里は思う、どこの世界も男ってやつは、と。
桃香は思う、ダメンズがいっぱいだ、と。
「いらっしゃい、四人?」
「ええ、四人。個室は空いているかしら?」
「個室?」
「できれば四番ルームがいいんだけど」
「前払いできる?」
「これで」
セーラはカウンターに四枚の金貨を置く。
「女の子はどうする?」
「四人つけてくれると嬉しい」
「わかったわ。そっちはお酒と一緒に請求でいいかしら? 時間制だから」
「お願い」
「ミーちゃん、このお姉さん達、四番ルームに」
「はーい」
カウンターのお姉さんにミーちゃんと呼ばれた胸元の開いたドレスを着た女性がやって来て、セーラの姿を足元から頭のてっぺんまでなでるように見る。
「私、男でも女でもどっちでもいいんだ」
えへ、って笑うミーちゃん。
「さ、こっちこっち」
ミーちゃんは、セーラの手を引いて行く。
店の奥、一つの部屋へとミーちゃんがセーラを引き入れる。そこへローレル、千里と桃香も一緒に入っていく。
部屋に入ると、ぱたんとドアが閉まった。




