セーラー服を……?(千里と桃香)
「ふーふーふー!」
「千里、落ち着いて」
「何よ、あんたはルディアスってダメンズがいるじゃない」
千里が声をかけてきたセーラに当たる。
「千里さん、落ち着いて」
「何よ、桃ちゃんなんて、筋肉に好かれていればいいじゃない」
千里は桃香にも当たる。
「どうせ私なんて、私なんて。どっちもちっともうらやましくないけどさ」
「千里様、奴隷の身でなんですが、私がいます」
「れ、レオナ!」
千里がレオナに抱き着く。
「ごめんね奴隷になれなんて言って。ならなくていいからね。レオナ」
「千里さん、私もあんな筋肉嫌です。千里さんと一緒にいます」
「桃ちゃんの裏切者」
「だから、裏切ってませんって」
「千里、私も裏切ってません。あんなの絶対に嫌ですから」
「セーラ、あんなのって言うけど、あんなのがいいって言ってたレオナもいるんだよ!?」
「な、なんてこと言うんですか、忘れてたのに、忘れてたのに―!」
「レオナのダメンズ好きー!」
「ち、違いますから。勘違いでしたから。お金に目がくらんだんです。ああそうです。お金のせいですからー」
「「最低」」
「でも、ダメンズより全然信頼できますから、お金の方が」
「それは言えてるわよね」
「はい。間違ってません」
「私、この輪に入っていていいのか悩むわ」
ローレルがつぶやく。
「何言ってんの、野山を駆けずり回って生魚食べて腹を壊すような野生児が!」
「なんですって! 事実ですけど、事実ですけどー」
「あはははは」
レオナが笑い出した。
「私、今日、絶望的に恋を終えましたけど、こんなに笑えたなら、それもよかったと思います」
「そうよ。言いたいことを言える仲間ってのが楽しいのよ。一緒にいられるのが楽しいのよ。ようこそ……」
千里が固まる。
「どうしたんですか千里さん」
「グループ名決めてなかった」
千里は、桃香を見る。今日の見学者は皆、セーラー服だ。
「セーラー服を脱がし隊」
「なんですか、そのおやじみたいなネーミングセンスは。セクハラがすぎます」
「セーラー服が……」
「セーラーから離れてください」
「……」
「もういいです。後で、そのうちきっと、考えましょう」
桃香があきらめた。
「本日をもって、お仲間にいや、奴隷として受け入れていただきました、レオナです。今後ともよろしくお願いいたします」
「あ、レオナ、奴隷は今をもって首ね。これから、私達の治癒魔導士として活躍してもらうから」
「あの、千里様と桃香様がいて、治癒魔導士必要です?」
「まず、様はなしで。で、治癒魔導士だけど、レオナを鍛えるから。なんて言ってもうちのメンバー、セーラを見てわかると思うけど、バーサク魔導士ばっかりだからさ」
「「……」」
セーラとローレルが視線を合わせる。
「あ、明日から訓練に参加すればわかるわよ」
これをもって、レオナも無事に、バーサクヒーラーとしての道を歩み始める。
「ルディアス、カイナーズは落としたのか?」
ドレスデンに戻ったルディアスに父たる国王が聞く。
「……父上、申し訳ありません。ですが、しっかりと宣戦布告はできたものと思います」
「どういうことだ?」
「はい。ものわかれに終わったため、帰ってまいりました」
「具体的には何をしたんだ?」
「相手の力量を計るため、こちらの強さを示すため、女王に胸を貸してきました」
「それでどうだった?」
「見ての通りです。私には傷一つありません」
「そうか。では、我が軍を率いて、勝ってこい」
「父上、お言葉ではございますが、今回、ちょっと疲れましたので、休ませていただきたく」
「何を言っているんだ? こんなチャンスはないぞ? カイナーズを落とし、お前の国にしたらいいだろう」
「その役、兄上にお譲りを」
「ルディアス、どうしたんだ? いつもの勢いはどうした」
「兄上。カイナーズには、エルフがおりました。カイナーズは実質、エルフの国シルフィードの属国となっているそうです。エルフに興味はございませんか?」
「ないけどな。だが、そこまで言うのなら、私が出てやる」
「ありがとうございます。私は少し休ませていただきますので」
「それでは父上、ルディアスに代わり、私、オライアスが、準備ができ次第出陣いたします」
「頼むぞ、オライアス」
「ルディアス様、よろしかったのですか?」
ルディアスのお付きの騎士が言う。
「よいのだ。確かにセーラは強かった。だが、戦は数でするもの。あんな強い者が何人もいるとは思えん。いざとなったら汚い手を使えばよい。人質を取るとかな。何とでもやりようはある。だが、私が出るのはダメだ。今度こそ死ぬ」
「ですが、オライアス様が危険な目にあうのでは?」
「逆かもしれんぞ。セーラが追い詰められれば、そこに手を差し伸べる騎士。俺だ」
クズですな。騎士は思うが言わない。
「ご聡明感服いたします。それでは、出陣はなさるのですな」
「そうだ。隠れてな。準備を整えろ」
「はっ」
一方のファルテン。
「父上、ガルデウスが帰ってきませんね」
「そうなのか。その騎士団は?」
「騎士団も帰っておりません」
「どういうことだ?」
「カイナーズから苦情も入っておりませんし、まあ、考えられるのは、ガルデウスがカイナーズの城を落としてしまった、というところでしょうか。あいつは脳筋だが、腕は確かですから」
「そうか。そうかもな。今ごろ、我が国の属国としてどうしようか悩んでおるのかもしれんな」
「だとしたら、文官を送り込んだ方がいいのではないでしょうか。あいつは腕はあっても、頭はちょっと足りないところがありますから」
「まあ、焦るな。まずは、お前が見てこい。確実に落とせ。王都だけ落として他の貴族や騎士団に囲まれているという可能性もあるしな」
「なるほど。それでは私が見てまいりましょう」
「頼むぞエルデウス」
「承知しました。準備を整えたのち、進軍します」
「うむ」
そうして、カイナーズ。
「陛下、情報が入りました。ドレスデン軍が動き始めました。その数一万ですが、途中の町から兵士を集めながら来るとして、おそらく、二万人以上となるかと思います」
「陛下、情報が入りました。ファルテン軍が進軍を開始しました。数は同じく一万。やはり、移動しながら拡大していくと考えられます」
報告を受けたセーラが聞く。
「両軍、砦に到達するまでの時間は?」
「規模とこれからの徴兵、歩いての移動と考えるに、後一週間はあると思いますが」
「後一週間、まだ一週間なのか、もう一週間しかないのか」
「どうされますか?」
「仕方なかろう。騎士団、ガルデウスを集めろ」
「はっ」
報告の兵士が下がったあと、セーラはローレルに聞く。
「ローレル、頼んでもシルフィードは間に合わないよね」
「絶対に無理ね」
「あの、鳥の伝達は?」
「私は連れていないの」
「……」
「大丈夫。骨は拾うから」
「……」
カイナーズ王城前広場に騎士団が集まる。
「皆の者、聞いていると思うが、北からドレスデンが、南からファルテンが攻め込んでくる。これに当たる。どちらも兵力は二万。こちらは一万。それを二つに分ける。要は、五千対二万だ。砦での籠城戦になるだろう。つらい戦いになるが、頼む」
ふう。セーラはため息を挟んで続ける。
「第一から第三はドレスデン。第五から第七はファルテンに当たれ。第八と第九はそれぞれ兵站だ。よろしく頼む。準備ができ次第、それぞれ砦へと向かってくれ」




