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圧勝(千里と桃香)

 セーラとガルデウスがお互いに突撃する。剣をかまえているルディアスは置いてけぼりだ。


「ふーん、やっぱり剣は怖いのか?」


 ルディアスはそう解釈するが、ちがう。セーラは、スピードのある方を先に選んだ。


 ガルデウスが左足を前に出し、そして腰をひねって渾身の右を出してくる。

 セーラは、そのこぶしを一歩前に出て受けることにする。


 ガン!


 思ったより響かない音。

 セーラは両足を踏ん張り、両手を握って構え、ガルデウスのこぶしを額で受けた。

 ローレルは思った。


 あの子、馬鹿なの?


 と。

 セーラの額が割れる。そして血が流れる。だが、耐えきった。

 驚くのはガルデウスの方。全力の右。それをこの細い首で受けた。吹き飛ぶこともなかった。そして、その目は今も自分を睨み返している。


 慌ててガルデウスは一歩飛びずさる。


「師匠の教えで、一撃目は受けることにしているのです」


 セーラがニヤリと笑い、治癒魔法で額の傷を治してしまう。


「それでは行きます」


 飛びずさったことにより動きが止まってしまったガルデウスにセーラが迫る。

 セーラの大振り左のハイキックの軌道。

 ガルデウスは、思わず顔の前で両腕をクロスさせる。が、セーラは撃ちこむ前に足の軌道を変えて空ぶらせ、さらにもう一回転してローキックをガルデウスの膝に撃ちこむ。

 これがガルデウスの右膝に決まり、その膝が折れ、おかしな方向を向く。


「これで、あんたはしばらく動けないわよね。さてと。気持ち悪い方をやるか」

「フェイントだと?」

「体も小さい、力も弱い。スピード勝負。フェイントは得意でしてよ。そして、そのためのメイド服です」




「おう、まあまあ様になってるじゃないか」


 ルディアスが目の前に歩いてきたセーラに声をかける。


「まあまあですか。ご期待に応えられず申し訳ありません」

「で、やるのか?」


 ルディアスが剣をかまえる。


「当然です」


 セーラはこぶしをかまえる。


「くらえ!」


 ルディアスは剣を振り上げ、そして、セーラへ向かって振り下ろす。

 しかし、それを黙って見ているほどセーラは遅くない。


 ルディアスが剣を振り下ろした場所。そこには、誰もいない。

 セーラは、瞬間的にルディアスの横をすり抜け、そして真上に飛び、体に回転を加えた。


 ドゴン!


 セーラがルディアスの後頭部に後ろ回し蹴りを叩き込む。


 ルディアスは、吹き飛び、そして、地面を転がっていく。


 よれよれと立ち上がるルディアス。


「遅い!」


 セーラはそう言ってルディアスに詰め寄る。

 立ち上がったもののまだ前のめりにふらふらとしているルディアスの顎に下からセーラが左のアッパーを撃ちこんだ。


「グハッ!」


 ルディアスがのけぞる。セーラは容赦なく追撃をする。

 のけぞったルディアスののどに前から後ろ手に右腕を回して首を取る。そして、左手でルディアスの腰を持って体を持ち上げ、さかさまに直立させたと思ったら、セーラは全体重をかけて、ルディアスの頭頂を地面に落とした。


 ゴギィ!


 嫌な音が訓練場全体に響く。

 ルディアスはもう動かない。




 セーラは立ち上がって、膝を壊したはずのガルデウスをみる。


「お仲間に治癒魔法をかけてもらうなんて、すがすがしいほどに何でもありね」

「貴様は絶対に許さない」

「弱い人って、必ずそう言うのよね」


 治癒魔法をかけてもらい、膝を治したガルデウスがセーラに向かってくる。

 両手を上げ、手のひらを向けて。


「それは力比べですの。このか弱い私に対して?」


 じわりじわりと迫ってくるガルデウス。


「お答えにならないのね。まあいいでしょう。乗ってあげますわ」


 セーラは両手を開いて、ガルデウスの手を受ける。背の高さも体重も完全にセーラの負け。上から抑え込むように力を加えるガルデウス。さすがに単純な力だけではかなわないか。


 セーラはその状態でガルデウスに言う。


「何でもありでしたわよね」

「そうだ。このままお前の腕を折ることもありだ」

「わかりましてよ。ファイアボール」


 セーラが魔法を詠唱すると、その両手が火に包まれる。


「なに!」


 当然、手を握っているのだ。ガルデウスの手もその火に焼かれる。


「貴様、何をする。その手を離せ」

「離しませんわ。せっかくですもの、お互い火に焼かれましょう」

「バカか、離せ! お前の手も焼けているんだぞ!」

「どうでしょうねー」


 セーラはニヤリとする。


「まさか! 同時詠唱か?」

「ご明察です。私の手には常にヒールがかかっておりますのよ。熱いには熱いのですが。まあ、あなたより大丈夫です。それに、火は上に登りますの。ご自分の腕の心配をしてはいかがですか?」

「ぐわぁぁぁ! 離せ、離せ!」


 ガルデウスはセーラに蹴りを入れてくるが、しょせん力の入っていない蹴り。それはそれで、同じく足で受け止めるセーラ。

 炎はガルデウスの指を手を肘を焼けただれさせていく。


「そろそろ降参しませんの? 治癒魔法が効かなくなるかもしれませんよ!」

「負けた、俺の負けだ。だから離せ。火を消せ!」

「なんですって? 頼み方がおかしくないです? いつまで上目線ですの?」

「申し訳ありませんでした。私が貴国に失礼をいたしました。お願いです。お許しください!」

「ふん」

 セーラが手を離す。

 それを見てローレルが声をかけ、試合が終わる。


「そこまで!」


 ローレルは思った。覚悟を決めたセーラは怖い。もう喧嘩を売るのはやめよう、と。


「おーい、こいつのお付きの治癒魔導士さん。早く治癒魔法かけないと、治らなくなりますわよ」


 セーラがガルデウスの騎士達に告げる。

 魔導士が慌ててガルデウスに近寄り、治癒魔法をかける。

 さあ、治るかなー。ローレルはジト目だ。




「おーい」


 千里と桃香が手を振っている。倒れているルディアスを指さして。


「セーラ! こいつやばいよ。首の骨、いっちゃってる。死んじゃうかもだけどどうする?」

「お付き治癒魔導士いませんの?」


 セーラはドレスデンの騎士に視線を送る。

 その中から慌てて魔導士が飛び出してきた。


「千里―、桃香―、大丈夫っぽい?」

「魔導士の腕次第」

「じゃ、大丈夫でしょう」

「「……」」


 セーラの適当な返事に、言葉をなくす千里と桃香。

 だが、事態は深刻そうだ。


「お願い、お願い治って! ヒール! ヒール! ヒール!」


 魔導士は必死にルディアスに治癒魔法をかける。


「あれ、治癒魔導士、女の子だったよ」

「もしかして、できているのでしょうか」

「へっ、リア充死ね!」

「千里さん、お口悪いですね」

「桃ちゃんだってそう思うでしょ」

「私は、心が満足していますから。千里さんといて、とても楽しいですよ。それに、会いたい人がいるって、いいじゃないですか」

「桃ちゃん! かわいいこと言う! さあ、捜しに行こうか、センセと真央ちゃん、優香さんに恵理子さんも!」


 千里が桃香の肩抱き、遠い空を指さす。


「ヒール! ヒール! ヒール!……」


 魔導士が治癒魔法を何度もかけ続けているが、もう、魔力切れが近いことがわかる。治らないのは、首の骨折のイメージがわかないからだろう。


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