カイナーズVSドレスデンVSファルテン 三つ巴の戦い(千里と桃香)
夕食時、三人が向かい合う。とはいえ、席順がめんどくさかったため、円卓としている。
「ルディアス王子、こちら、ガルデウス王子です。ガルデウス王子、こちが、ルディアス王子です」
双方、目は会わせるが、お互い興味はないようだ。
「それで、決心はついたのか?」
ルディアスがいきなり聞いてくる。
「どういうことだ? カイナーズは我が国の属国になるのだぞ?」
ガルデウスが言う。そうなると、二人の王子が再び視線をぶつける。
「ごほん」
わざとらしくセーラが咳払いをする。
「一つ、我が国の状況をお伝えしておきます。我が国は、私が女王となっておりますが、実態としては、エルフの国、シルフィードの属国です。よって、私には、お二人が望まれるようなことに対して、回答する権利がありません。それをご承知おきください」
「な、なんだと?」
「どういうことだ?」
ガルデウスは、どういうことだ、というのが口癖なのだろうか。セーラは余計なことを考えてしまう。
「どういうこともありません。言った通り、我が国は、シルフィードの属国です。よって、どちらの申し出もお受けすることはできません。そう言うことです」
「この国に攻め入って、エルフの国から奪ってもいいのか?」
ルディアスが聞く。
「できるならですが」
「エルフの国に攻め入って、エルフの国ごと属国にするのはいいのか?」
ガルデウスが言ってはいけないことを言う。
「やれるものなら」
ちなみに、ローレルやルージュとフォンデもこの場にいる。メイドキャップをかぶっているため、耳が目立っていない。
「面白い。エルフの奴隷が欲しいと思っていたんだ」
ルディアスも言ってはいけない一言を言う。
「我らは、明日にでもエルフの国に行くとしよう。道案内は頼めるのか?」
ガルデウスまでシルフィードに喧嘩を売る。
それらを聞いていたローレル達の我慢はもう限界に近い。それを察してか、セーラがルディアスとガルデウスに言う。
「お二人とも、何か思い違いをなさっていませんか?」
「何?」
ルディアスが疑問を口にする。ガルデウスは黙って視線を向ける。
「属国である我が国に勝てもしないのに、エルフの国、シルフィードに勝てるとでも?」
「面白いことを言うじゃないか、セーランジェ。お前みたいなのが女王をしている、こんなしょぼい国が、我がドレスデンに勝てるとでも」
「我らファルテンに刃向かう気か?」
「まだ勘違いなさっています? 私どもカイナーズは争いごとをしたいわけではありませんよ。平和が一番だと思っています」
「だったら、ドレスデンの属国になれ。平和を補償しよう」
「一国では我が国に攻め込む勇気はないのだろうな、ドレスデンは。セーラ、ファルテンの属国になった方が平和だぞ」
ルディアスにも喧嘩を売るガルデウス。だが、どちらも今の狙いはカイナーズとシルフィードだ。
「あの、しつこいようですが、私どもは、一国でもあなた方に対抗するつもりです。エルフの国の後ろ盾は関係なくです」
「おいおい、強く出たな。じゃあ、どうする? 白黒つけるか?」
「俺はお前らまとめてやってもいいぞ」
「それでは、明日の午前中にでも、私達三人で誰が一番強いかを決めましょうか」
「おいおい女王様、本気で言っているのか?」
ルディアスが皮肉を込めて女王呼びをする。
「もちろんです。お二人同時でも構いませんのよ」
「おまえ、俺を馬鹿にしすぎじゃないのか?」
「俺ら、な」
ガルデウスの一言に、ルディアスが訂正を入れる。
「ですが、わたくしとしては、あなた方のどちらが強いのかも気になりますわ。もしかしたら惚れてしまうかもしれませんよ?」
ルディアスとガルデウスはお互いににらみ合う。
「それでは、明日の午前中、この城の訓練場で構いませんか。三人で誰が一番強いかを決めましょう。ルールはどうします?」
「何でもありでいい」
「俺も構わない」
「そうですか。では、何でもありで。ちなみに、殺してしまった場合は?」
「事前に一筆書いておいてやる。できるものならやってみろ」
「俺もだ」
「明日の午前中ということで、楽しみにしております」
三人が立ち上がった。
「あんなこと言っちゃったけど、大丈夫なの?」
ローレルがセーラの心配をする。
「私が毎日毎日誰のこぶしを受けていると? おかげで治癒魔法がうまくなりましたわ」
セーラは笑う。
「ですが、万が一の場合は、骨を拾ってくださいね」
「万が一があればな。その時は、我がシルフィードがこの大陸を支配することになる」
「おー怖い。そうならないように、明日は頑張りますわ」
翌日、訓練場の中央に一人のメイドが立つ。正しくは、メイド服を着た女王セーランジェ・カイナーズ。
足を肩幅ほどに広げ、背筋を伸ばしてまっすぐに立つ。そして、大きく呼吸をして心を落ち着ける。
訓練場に騎士団が入って来る。
その先頭にはルディアス。鎧を着ている。従えている騎士、魔導士は合わせて二十。こちらも完全武装。
「逃げ出さなかったのはほめてやるが、何でメイド服? メイドをぼこすのはそれはそれで萌えるのかもしれんが、そういう嗜好?」
「メイド服は最強でしてよ。それから、こちらからも一つ。一人では来られなかったのですか?」
「心配するな、見ているだけだ。怖いのか?」
「全くです。参戦させるなら、こちらも出すだけです。ただ、そうなると城にまで被害が及ぶので、やめてほしいですね」
「あはははは、女王は冗談がお好きだ」
そうこうしているとガルデウスも訓練場に入って来る。
やはり、騎士、魔導士を引き連れている。
本人は軽装だが、騎士達はフル装備だ。
ガルデウスはセーラを見て、一言いう。
「本気か?」
と。その一言がルディアスと同じ意味であることは明白だ。
「やってみればわかりますわ。ガルデウス様は、まだわかっていらっしゃるようですが」
セーラはルディアスの鎧を見る。
「なんなんだ? 鎧が卑怯だとか言わないよな」
「言いませんわ。なんでもありですから。ですから、おとなしく見ていてください」
「何を?」
「そういうことだ。俺がこいつを倒すところを見ておけ」
「貴様ら」
パンパン!
セーラが手を叩く。
するとフードをかぶった女性が中央に割って入って来る。
「それでは、私が合図をおかけします。距離を取ってくださいますか?」
「ちょっと待てよ。お前誰だよ」
ルディアスが不満を示す。
ハァ!
と、ため息をついて、その女性はフードをとる。現れるのは、緑がかった金色のストレートの髪。日の光を浴びて輝いている。そして、白く美しい肌。整った顔立ち。長い耳。
ルディアスもガルデウスも目を見開いてローレルを見入る。
「これでいいですか?」
「うひょー、いい土産が出来た。こいつ、もらうわ」
ルディアスが興奮する。
その一方で、ルディアス、死んだな。セーラは思った。
「セーラ、お前を倒したら、こいつもらうからな」
「万が一にもありませんが、たいてい子が倒れたら親が出てきますよ」
「なるほど、自分で狩れと。理解した」
ルディアスが舌なめずりをする。
「さてと、始めましょうか」
セーラが声をかけると、三人は、それぞれ距離を置く。
ローレルが声をかける。
「それでは、はじめ!」




