セーラのお見合い?(千里と桃香)
わんも「千里と桃香編、再開です!」
千里と桃香「よろしくお願いします!」
セーラが王位についてから一か月がたった。
ドガッ! バキッ!
「うりゃー!」
「なにくそ!」
ドタンバタン!
「ファイアランス!」
「アイスウォール!」
バシュッ! ドカン!
地下練習場は今日も騒がしい。
千里と桃香が組み手をしている横で、ローレル達とセーラ達が三対五の実戦訓練を行っている。
千里と桃香はセーラーの上に団服を、その他の八人はメイド服を着ての戦闘訓練だ。
そんな中、ローレルとセーラがお互い両手でお互いの指を組んで力比べをする。それぞれ身体強化魔法を使っており、いい勝負となっている。
ローレルとセーラは手を塞がれてしまったため、顔を近づけての口撃に移る。
「ローレル、あなたさっき、ナイフをどこから出した?」
「胸元からですが何か? スカートをたくし上げるより速くてよ」
「そう。胸元に隙間があるといいわね」
「セーラ、何が言いたいのかしら?」
「「ファイアボール!」」
ドオン!
二人の間で二発のファイアボールがお互いの顔の前ではじけ飛び、ローレルとセーラは飛んで下がる。
「今日こそは許さん。あの乳、削り取ってやる」
ローレルがナイフを握る。
「こっちこそ。ローレルのそのメイド服の胸元に詰め物をしてやる」
二人がお互いに飛びかかる。しかし、
「はい、そこまで」
千里が間に入って、二人のおでこをそれぞれ掴んで戦闘訓練の終了を告げる。
「はい。おなかすいたよね。お昼の時間だよ。それに、ローレル、あなた達エルフは遠距離攻撃が得意なんでしょ。何で近接戦闘をしているのさ。セーラも一緒。セーラは魔導士になりたいんだよね。何で殴り合ってるの。お互い、キャラがかぶるよ?」
「「……」」
ローレルとセーラが視線を合わせる。
「おなかすきました」
「ほら、桃ちゃんもそう言ってる。食堂に行こう!」
「「キュイ」」
「キキとララもねー」
皆で昼食をとっていると、一人の文官がやって来て、セーラに手紙を二通渡した。
セーラは、その手紙をフリフリして、裏を見る。封蝋には、それぞれ紋章が押されている。隣国ドレスデンとファルテンだ。
それを見たセーラは、とりあえず、それらの手紙を置いておくことにする。
まだ食事中なのだ。封を切って、食事をまずくすることもないだろうと。
「ねえ、いいの? 急いで見なくて」
「ええ。大したことありませんわ、きっと」
「早く見た方がいいんじゃない? デートのお誘いかもよ」
ローレルが茶化す。
「色恋でしたら、必要ありませんわ。今はまだ、筆頭メイドの座を取り戻すことが先決です」
「はは、私にかなうと思っているの?」
「だけどさ、だいぶ差が縮まって来たよね」
千里がセーラを評価する。
「ええ、なぜか、魔導士なのに身体強化を覚えて殴り合うのが得意になって」
桃香もセーラをほめる。
「あの、ほめられているのか何なのか」
セーラが桃香にジト目を送る。
「千里も桃香もほめてらっしゃるのよ。素直に喜びなさいよ。筋肉ゴリラ」
「な! なんてことを。ちょっと叩く胸がないと思って。いや、無いからこそドラミングがよく響くのかしら?」
「午後一の訓練、覚えておけよ!」
「望むところよ」
お付きのルージュ達もミシル達もおでこを手で押さえる。どうしてこうなった、と。
「まあ、仲がいいんだからいじゃない。ところで、セーラ、そのお手紙は?」
「あ、そうですね」
食事を終えたセーラは、二通とも封を開け、そして中を見る。
セーラは、ふぅ、と、ため息をついて、手紙を再び封筒に戻す。
「なんだった?」
「どちらも、王子からでした」
「あら、デートのお誘い?」
「そんないいものじゃないです。国王就任の祝いの言葉と、祝いに行くからもてなせと。完全になめられているのですわ」
「国王になってから一か月。しかも、相手国の国王からじゃなくて王子から。お見合い?」
千里がセーラに聞く。
「ぶっちゃけそうでしょう。娶ってやるから王位を譲れと。そんなところだと思います」
「で、どうするの?」
「断っても関係悪化を招くだけ。おとなしくかはわかりませんが、歓迎は致しますわ」
二週間ほどすると、ドレスデンの王子がやってきた。
セーラは王城の玄関先で出迎える。その後ろには、千里と桃香、ローレルが控える。この三人は、セーラの後ろに控えるような立場ではないが、面白がっての参戦だ。
よって、千里と桃香もメイド服を着用している。ご丁寧にプリムまでつけて。
「お初にお目にかかる。カイナーズ王国女王のセーランジェ、様。ドレスデン第二王子のルディアスだ。よろしく頼む」
わざと名前と「様」の間を区切るルディアス。しかも、全く敬語を使う気がない。
「こちらこそ始めまして。セーランジェ・カイナーズですわ」
ルディアスは、セーラが頭を下げることもなく、カーテシーをするわけでもないことを少し不満に思うが、今は、相手が国王。仕方ないかと割り切る。
「遠いところ、お疲れでしょう。お部屋で休まれてはいかがでしょうか。ミシル、お願いします」
「かしこまりました。それではルディアス様、こちらへ」
ミシルがルディアスを客室へと連れて行った。
「なんか、チャラい上に態度も大きいわね」
「この国がすぐに手に入るとでも思っているんでしょう」
セーラがげんなりする。
案の定だった。
夕食時、セーラはルディアスと向かい合って食事を取る。
「なあセーラ」
なれなれしくセーラを呼び捨てるルディアス。ミシル達はわからない程度に青筋を立てる。
「素直にこの俺と婚姻を結び、この国を俺にくれる気はあるのか?」
セーラは、ぐっとこらえる。
「ありませんわ」
「あはははは。セーラは冗談がうまいな。俺はツンデレはあんまり好きじゃないんだ。素直に聞かせろよ。この国を俺にくれるんだろう?」
「御冗談を」
「自分が何を言っているのかわかっているか?」
「ええ、わかっていますよ。我が国の領土も国民も、品性のかけらもないドレスデンに渡す気はないと言っていますの」
「気の強い女は嫌いじゃないんだが、めんどくさいのは嫌いなんだよ」
「あの、明日にはファルテンの王子も来るようですが、同じ話でしょうかね」
「お前、まさかファルテンと手を組んでいたりしないだろうな」
「さあ、どうですかね。もしかして、ファルテンが怖いのですか? ドレスデンは」
「そんなわけないだろう。我が国はこの大陸最強だぞ。まあ、明日ファルテンの王子の顔も見てやるか。何をしに来たところで、ドレスデンの敵ではないがな」
そう言って、ルディアスは部屋へと下がっていった。
翌日。ファルテンの第二王子が同じようにやってきた。ムーランドラ大陸の南にあるためか、肌が日焼けのために褐色だ。
「ファルテン王国第二王子、ガルデウス」
こちらは、無口キャラなのか?
「セーランジェ・カイナーズです。遠いところ、ようこそお越しくださいました。お疲れでしょう。夕食までお部屋でおくつろぎください」
ガルデウスもミシルに連れられて客室へと通された。




