薬草採集(優香と恵理子)
「な!」
イーゼルが顔を赤らめる。
イーゼルは、上はシャツ、下は長いスカートで足はブーツ。
一方のリシェル達は、メイド服を着て、その上に黒の団服。頭にはプリム。いわゆる、クサナギの戦闘服。
「その様子だと、そうですね。じゃあ、ちょっと寄り道します」
リシェルとローデリカは、キザクラ商会を目指す。
「イーゼルさん、ちょっと来てください」
リシェルとローデリカはイーゼルをキザクラ商会へと引き込む。
「え、あの、ここ、キザクラ商会ですよね。高いですよね。ダメです。こんな高いところで買い物なんてー!」
リシェルもローデリカも気にした様子はない。
「すみませーん」
「いらっしゃいませ。どのようなものをお探しですか?」
店員は、リシェルとローデリカの恰好から、誰の関係者かをすでに理解している。
「この子が着られるコートと、ペチパンツを」
「ぺ、ペチパンツ?」
イーゼルが顔を赤らめる。
気にするのはそっちか、と、リシェルは思う。
「イーゼルさん、店員さんについて行って、ペチパンツ履いて来てください。スカートが捲れると困りますから」
「……はい」
キザクラ商会からイーゼルが出てくる。黒のコートを着て。
「えっと、支払いはいらないって言われちゃったんですけど」
「はい。イーゼルさんの安全を確保するため、私達が着せたいものですから、私達持ちです」
「……」
イーゼルが着ている黒のコートは、団服とは違ってシンプルなものだが、防御力は普通のコートとは比べ物にならない。よって、かなり高額だ。それに、ヨーゼフかラッシーに乗って移動することを考えると、コートなしでは寒いかもしれない。
さらに、ペチパンツ。キザクラ商会の商品なだけあって、かなり履き心地がいい。
パンツもキザクラ商会のものだったら、もっと気持ちいいんだろうに。
イーゼルは自分の経済力の無さをちょっとだけ残念に思う。
「イーゼルさんに確認です。想定される危険は、森の魔物と、どこに出てくるかわからない盗賊、で、いいですよね?」
「はい。その通りです」
イーゼルは反省する。伝えるのを忘れていた。依頼を断られてしまうだろうか。
「承知しました。では、行きましょうか」
断られなかったことをホッとするイーゼル。だが、疑問に思ったことを聞く。
「あの、皆さん武器は?」
「持っていますよ。お気になさらず」
「はい」
武器らしいものは、エヴァが持っている杖らしきものだけだ。
ちなみに、リシェル達は荷物も持っていない。皆の荷物もラッシーが運んでいるのだろう。
では、ヨーゼフと呼ばれた方は……
西の門を出る。門兵からは何も言われることもなかった。ケルベロスについては、気にするなとの指示がすでに出ているようだ。
「さて」
リシェルがイーゼルに声をかける。
「ヨーゼフに乗ってもらっていいですか?」
「え?」
「これから走ります。ヨーゼフに乗ってください。そのためのペチパンツです」
「この子に乗るのですか」
「そうです。それとも自分の足で走ります?」
「……乗ります」
イーゼルは、しゃがんだヨーゼフにおっかなびっくり乗ってみる。
意外ともはもはで気持ちがいい。
「落ちそうになったら、首につかまってもいいですが、締めないでくださいね」
「はい」
イーゼルは返事をする。そして、
「ヨーゼフちゃん、お願いします」
そう言って、ヨーゼフの頭を後ろからなでた。三つとも。
「わふ」
悪魔の従者なんて言われていても、犬と変わらないんだな。かわいいな。そう、思うイーゼルだった。
「それじゃ行きます」
そうリシェルが声をかけると、ヨーゼフとラッシーが走り出す。リシェル達は、その周りを囲んで走る。
「速い怖い速い怖い」
イーゼルは首を絞めないように真ん中の首にしがみつく。
だが、だんだんと慣れてくると、ヨーゼフの首から手を放し、景色を見る余裕が出てくる。
「すごい。速い。風が気持ちいい」
イーゼルの髪が風に流される。
「ヨーゼフ、ありがとう、乗せてくれて。気持ちいいよ」
「わふ」
イーゼルがヨーゼフの頭をなでると、ヨーゼフも嬉しそうに答えた。
夕方に着く予定の森に、昼過ぎには着いてしまう。
「あの、速いんですけど」
「ええ、早く村に着く方がいいですよね? 予定では、村まで二日です」
「嬉しいです。嬉しいですけど、皆さん、走り続けて大丈夫ですか?」
「鍛えていますから」
リシェルがそう答えると、ローデリカがイーゼルにお願いをする。
「これから薬草採集に入りますが、とりあえず、一つ見つけてもらえませんか? その後は、ヨーゼフとラッシーの鼻を使います」
「……わかりました」
「それでは森に入りましょう。どのへんに生えているんです?」
「奥に、池があるのですが、その周辺に生えていると思います」
「わかりました。まっすぐ、池を目指します」
リシェル達は、ヨーゼフ達と一緒に走って森へと入っていく。
すると一時間もしないうちに、池が見えてくる。
「この池でいいですか?」
「はい……何もかも早すぎて驚いていますけど」
「それじゃ、お願いしますね」
イーゼルはヨーゼフから降りて薬草を探す。
「リシェル、私達、食材を探してくるけど」
「お願い、行ってらっしゃい。食べる分だけでいいよ」
「はーい」
オッキーとマティ、エヴァがリシェルに断って森の奥へと入って行った。
あ、護衛が二人になった。
イーゼルはそう思うが、残った二人はプラチナランクだ。おそらく大丈夫。
ヨーゼフとラッシーもいる。
イーゼルは、薬草を探すことに集中する。その後ろには、いつでもリシェルとローデリカがいる。
イーゼルは、下を見ながら集中して薬草を探す。こんな安全な採集もない。そう決め込む。
十分、二十分と経過したところで、
「ありました」
そう、イーゼルが薬草を取って、リシェル達に見せる。
「これね。えっと、採集の仕方にコツとかある?」
「はい。根を残してほしいです。葉と茎だけを取ってください」
「わかりました」
リシェルは薬草を受け取り、ヨーゼフとラッシーに薬草のにおいを嗅がせる。
「ヨーゼフもラッシーもわかった?」
「「わふ」」
「じゃあ、ヨーゼフはイーゼルさんと、ラッシーはローデリカと探して。私はイーゼルさんの護衛につくわ」
ヨーゼフとラッシーは別方向へ走っていく。
「わふ」
「わふ」
においを頼りに探すヨーゼフもラッシーも速い。
「どれくらい必要です?」
「多いに越したことはないのですが」
「オッケーです。じゃあ、ヨーゼフ、お願いね」
「わふ」
ヨーゼフとラッシーが薬草を見つけ、イーゼルとローデリカが根元から刈っていく。
夢中になって薬草を刈っていくと、時間を忘れる。
「イーゼルさん、そろそろ夕方近くになりますが」
「あ、ごめんなさい。ちょっと夢中になりすぎました。こんなに簡単に見つかるなんて」
イーゼルは、かご一杯の薬草を持ち上げて見せる。
「それで、今日は、野営でいいですか?」
「はい。えっと、どこで野営をします?」
「さっきの池の周りでいいかと思うのですが」
「森の中でですか?」
「はい。ヨーゼフとラッシーがちゃんと見張りをしてくれますので。何より、水があるのがありがたいです」
「なるほど。お願いします」
ヨーゼフと池に戻ると、いい匂いがしてくる。
「おかえりなさい」
オッキー達が晩御飯の用意をしている。焼肉だ。
「あの、干し肉……」
「大丈夫。ちゃんと獲ってこられるから。それに、獲ってこないとヨーゼフとラッシーの分がね」
「それじゃ、パンだけでも」
「ありがとう。助かる」
オッキー達は、そのほか、獲ってきた野草を使ってスープも作っていく。
「すごく贅沢な野営……」




