二度目の嫌悪感(優香と恵理子)
「あ、ごめんなさい。私のせいで」
お姉さんが謝る。
「いえ、構いません。私はこの名前に誇りを感じていますから。それに、剣で草を刈るのって、難しいんですよ」
優香と恵理子は、お姉さんにお礼を言ってギルドを出て行こうとする。
「おい、坊主、そんなに女達を連れていたら、なかなかポイントもたまらんだろう。半分引き受けてやろうか?」
優香と恵理子はイラっとする。
「お姉さん、冒険者同士のトラブルって?」
「ギルドは基本不介入です。ですが、物を壊したり、人に迷惑をかけたりはやめてくださいね。とはいえ、あの人達のパーティはゴールドランクです。カッパーランクがかなう相手ではありません。絶対にトラブルは避けてください。お願いします」
「じゃあ、そういうトラブルに巻き込まれたら?」
「一応、ギルドに相談を。ギルドとしてもトラブルはなくしたいです。ギルマス権限で制限をかけることはできます」
「ありがとうございます。それでは」
「あ、言い忘れていたけど、冒険者登録を抹消されないように、年に一回は依頼を受けてくださいね。常設依頼でいいですから」
「承知しました」
十四人は皆でギルドを後にした。
「マオ、どうする? とりあえず、やることはやったし、今日は、この街に泊まるとして、明日の朝、食材を買いだしたら出発する?」
「そうね。そうしましょう。相変わらず、冒険者は品がなくて気持ち悪いし」
「ほんとだよね。あーやだやだ」
真夜中。宿泊していた宿の部屋で、優香と恵理子は起きだす。
「タカヒロ様、マオ様、いかがなさいました?」
その物音に気が付いたのか、隣の部屋から見張りの担当をしていたミリーが部屋に駆け込んでくる。
「あ、気をかけさせちゃったか。お客さんみたいだから、相手してくる。君達は、悪いんだけど、着替えだけして待機。よろしく」
「はい。タカヒロ様。ご武運を」
ミリーは部屋に戻り、メンバーを起こしだす。
優香と恵理子は宿屋の前の通りに立つ。一応、ポンチョまでかぶって。
しばらくすると、六人の男がやって来た。
「おうおう、待っててくれたのかい。いいねぇ、そんなにも待ち遠しかったのか。いつから待っててくれたんだい。遅くなって悪かったな」
当然、気配を察知して出てきたので、今さっきだ。だが、会話をするのも嫌だ。
「えっと、夜中だし、静かにやらないか?」
「いやいや、お前はいらんけどな、嬢ちゃん達には声を上げてもらいたいんだよ」
気持ち悪い。寒気がする。
「お前達二人でやるのか?」
「いや」
優香は物陰に隠れているヨーゼフとラッシーに指示を出す。
「こいつら逃がすな」
「「わふ」」
暗闇から声だけが聞こえる。
「こっちから行ってもいいかい? こっちばカッパーなんだ。胸を貸してもらうよ?」
「いつでも来いよ」
優香と恵理子は両手にナイフを逆手に構え、人並みのダッシュで相手に近づく。
そして、間合いに入る瞬間にスピードを上げ、相手がひるんだすきに、ナイフの柄をのどぼとけにたたきつける。
「「グエッ」」
二人は止まらない。フェイントを使いつつ、残りの四人ののどぼとけもつぶす。
「さて、これで、静かにできるだろう」
「ぎ、ぎざまら、ごろず」
リーダー格が剣をもって立ち上がる。
「君ら、パーティがゴールドってことは、少なくとも三人がゴールドなんだよね。ちょっと遅すぎてがっかりした」
「ご、ごの!」
「のどぼとけを叩き潰されて、呼吸が困難になっているだろうに、元気な」
優香は、切りかかってくるリーダー格の剣の下からもぐりこみ、ナイフを一閃。手首を切り落とす。
「があー」
それを見て、残りの五人がしり込みをするが、優香はやるつもりだ。しかし。
「悪いね。逃がす気はないんだよ。女の敵はね」
「とはいえ、戦意をなくしちゃってるみたいだけど、どうする? これじゃ、弱い者いじめじゃないの?」
残りの五人の男が剣を落とし、両手を挙げている。
「むう、そういわれると、やれなくなっちゃうじゃないか」
どうしようかと、優香が悩む。そうだ。そこにいいものが転がっている。
「ねえ、君たち、今後は、女性に優しい冒険者になる?」
五人は声を発することが出来ないので、ただただうなずく。
「女性に優しい冒険者にならなかったら、なっていなかったらどうなるか、見せてやろう。マオ、そいつ立たせて」
恵理子はあからさまにいやな顔をする。
「しょうがないな」
手首を切られた男は、両肘両膝をついてうなだれている。つまり、四つん這い状態だ。
後ろから優香は近づくと、
「今後、女性に危害を加えたらこうだからな」
と、うずくまっている男の後ろから、股の間を思いっきり蹴り上げた。ブーツのつま先で。
「ぐあ」
と、男は吹っ飛び、気を失う。
「変なもの蹴っちゃった」
優香は蹴り上げたつま先をぱんぱんとはたく。
「おい、君ら、こいつ、急いで連れて行かないと、出血多量で死ぬぞ? もういいから行けよ」
と優香が声をかけると、男達は、手首から先がないリーダー格を連れて、闇夜へ消えていった。
その光景を宿の窓から見ていた二十四の瞳がハートマークに染まった。
部屋に戻ると、
「タカヒロ様、汗をかきませんでしたか? 湯あみの準備をしますか? キャッ」
「タカヒロ様、背中を流させていただけませんか? キャッ」
「ちょっとちょっと、私もいたんだけど」
「マオ様も……」
「取って付けたように言うなー」
ガルガルうなっている恵理子をよそに、優香が聞く。
「ねえ、ミリー、冒険とかで怪我をしたら、どうするの?」
「ポーションか、パーティに治癒魔導士を連れて行くか、教会で聖職者様に祈っていただくかです」
「じゃあ、あの男も治るのかな?」
「部位欠損ですので、王都などの大きな町に行かないと、治せる神官様はいらっしゃらないかと」
「そっか。じゃあ、そのままかな。まあ、見せしめにいいけど」
と、優香はふとミリーの手を見る。傷がある。
そういえば、ミリーは長い髪を顔にかけていると、今更気づく。もしかして、
「ミリー、ごめんね。そのままで」
と、優香はミリーに動かないように言い、髪をかき上げる。
はやり。ミリーのあごには傷があった。
それを見られたミリーは、うつむく。顔に傷。女として致命傷だと自覚している。
「ミリー、君は君、怪我は怪我だ。怪我は決して君を表すものではない。ただ、君がそれを気にしているのであれば……」
優香は、ベッドに掌をトントンとして、
「こっちにおいで」
とベッドにいざなった。
「「「キャー」」」




