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最終兵器、聖女(優香と恵理子)

「貴様―!」


 教皇の体が、重力に逆らうように浮き上がり、立ち上がる。

 そして、皮膚が浅黒く変色すると同時に、筋肉質へと変わる。

 さらに、腕も足も胴体も、頭すら大きくなっていく。体が大きくなると、服が破れていく。

 すると、あらわになる、背中の真っ黒な翼、尾。頭にはヤギを思わせる角が生える。

 そこに立ってロージアを見下ろすのは、三メートルを超える悪魔だった。


「ぐあああああ」


 元教皇であった悪魔が叫んだ。その声の大きさに、ロージアは耳をふさぐ。

 優香が叫ぶ。


「ネフェリ、リピー、ブレス用意!」

「ダメー」


 ロージアが叫び、悪魔の足にしがみつく。


「私が、私が教皇様を元に戻す。戻すから!」

「ロージア、離れろ、悪魔なんだ。どいてくれ」


 優香がロージアに言う。しかし、ロージアは、


「ヒール!」


 五度目の治癒魔法を唱える。


「ロージア、無理だ。悪魔の方が魔力量が大きい。離れろ」

「教皇様! 教皇様!」


 ロージアは悪魔の足にしがみついたまま泣き叫ぶ。


「ぐあああああ!」


 悪魔が指の先から爪を伸ばし、そして、ロージアに突き刺そうと手を振り上げる。


「ロージア、よけろ。ネフェリ、リピー、狙えるか?」

「ぐああ、ロージアー!」

「お願い、教皇様。元に戻って!」


 ロージアは泣き叫ぶ。


 悪魔は振り上げた手を振り下ろした。


 その手は爪は、……教皇自身の胸に突き刺さった。


「ロージア、すまなかった」


 悪魔は、グハッ! と、血を吐き、膝をついて倒れた。


「教皇様! 教皇様!」


 ロージアは、自分では悪魔と化した教皇を治癒魔法で治せないことを理解している。


「誰か! 誰か! マオ様! 聖女様! お願いします。教皇様を!」

「ロージア、もういい。私が悪かったのだ。欲に目がくらんで、お前を殺そうとした。すまなかった。お前が、お前が誰よりも国民に、人にやさしい聖女だということを忘れてしまっていた。どうか、どうかこの国を頼む。もしよかったら、アザリアのことも頼む。ロージア……」


 悪魔の体が崩れ、そして、黒い煙と発し、元の教皇の体に戻った。


「教皇様、教皇様―!」


 ロージアは、崩れ落ちて泣いた。




 ロージアが泣き崩れているのを見て、すべてが終わったと判断した恵理子が声を発する。


「マロリー、ルーリー、エヴァ、治癒魔法をかけてまわるよ」

「「「はい」」」


 恵理子達は、倒れている騎士、疲れ果てている騎士、怪我をしている騎士、目につく限り、治癒魔法をかけていく。


 全騎士、全兵士が立ち上がる。幸いにも、死亡者はいなかった。


 騎士達は、各騎士団の団長が解散させた。時間はとうに深夜を回り、もう少ししたら、日が登る、そういう時間になっていた。




 魔力切れ、かつ、泣き疲れて、眠ってしまったロージアは、従者のジーナが連れて行った。

 そのため、優香達は、行き場を失った。

 そこで、ノア・グローリー枢機卿に許可をもらい、王宮厩舎にタロとジロ、ヨーゼフとラッシーを預け、優香達は、客室へと案内された。




 翌日。

 昼時に優香達は食堂へと呼ばれた。昨夜は朝方まで戦った。よって、誰もが疲れ果てて眠ってしまった。

 昼時まで眠ってしまったにもかかわらず、目をこすっているメンバーもいる。

 とはいえ、朝食も食べていない。起きてみれば腹が減る。

 食堂では、長いテーブルにつくように言われた。

 席について、食事が並べられるのを待っている。普段のリーシャであれば、待てずにあれこれ言い出すような場面。しかし、眠いのか、目をこすっているだけだ。

 ロージアも食堂に入ってきた。ロージアは、目を腫らしている。だが、明るくふるまうロージア。


「皆さま、おはようございます。昨夜は大変お世話になりました。おかげさまで、この国に隠れていた、政治的な問題が解決いたしました。残念なこともありました。しかし、私はこの国の女王として、聖女として、民達を導いていく所存です。皆さまには感謝いたします」

「すべて済みそうなの?」


 恵理子が聞く。


「教皇には、グローリー枢機卿が推薦されました。おそらく、そのまま決まると思います。アザリアには、私と一緒に、民を助けてもらうことになっています」

「そうなんだ。よかった、と言っていいのかしら?」

「はい。教皇様は残念でしたが、仕方なかったと割り切ります。私達は立ち止まってはいけませんから」


 うんうん、と、優香も恵理子も、その他のメンバーもうなずく。


「さあ、昼食になってしまいましたが、食べましょう」




 食後、ロージアが提案する。


「あの、この後、民達に事情説明をすることになっているのですが……」

「いるのですが?」


 優香が首をかしげる。


「友好関係を示すため、カヴァデール王国女王陛下と、王配殿下に同席いただけないかと……」

「「……」」


 優香とエヴァは顔を見合わせる。


「今回の騒動は残念なことでしたが、カヴァデール王国と共に不幸を退けたと、そう説明させていただきたいのです」

「それはいいと思うんだけど」


 エヴァもうんとうなずく。


「タカヒロ様は私が聖女を続けるべきだとおっしゃってくださいました。私のことを信じると言ってくださいました。私は、そのお言葉に勇気をいただきました。自信を取り戻すことが出来ました。感謝しております。ですから、どうか、私と一緒に……お願いいたします」


 ロージアが顔を赤らめてうつむく。

 エヴァが、私は必要? という顔をし、リーシャやミリー達が眉間にしわを寄せた。




 王宮のテラスに、ロージアと一緒に優香とエヴァが立つ。

 見下ろすと、目の前の広場に大勢の民衆が集まって、テラスを見上げている。


 ロージアは、テラスの手すりまで歩み出る。

 そして、声を上げた。


「何日も前、私はドラゴンに連れ去られ、最北の砦に連れて行かれました。そこで私はカヴァデール王国の女王一行と出会いました。その一行では、悪魔の従者と呼ばれるケルベロスが馬車を引き、メンバーにはドラゴン族もいました。私はその時、恐怖を感じました。しかし、それは間違いでした。私達は結局この人達と共に悪魔を退けることができました。私は学んだのです。種族が違っても、恐ろしい悪魔の従者を従えていても、心は通じ合えるのだと。平和を望む気持ちは、人を愛する気持ちは同じなのだと。皆さん。今回の事故は、気持ちの濁りから生じました。お互いの気持ちのすれ違いから生じました。もっとお互いの気持ちを伝えあい、お互いを信じ、お互いを愛することが出来れば、このようなことは起きなかったのだと思います。今回のことがあって、私は、人を愛すること、信じることを改めて思い出しました。それを思い出させてくれたのは、このカヴァデール王国のタカヒロ様です」


 そう言って、ロージアは優香の腕をとる。

 あれ、私、やっぱりいらない子じゃん。エヴァはそう思う。


「皆さん。大変ご心配をおかけしました。これから先、私は隣国カヴァデール王国を、そして何より皆さんを信じ、このタカヒロ様と一緒になって、この国のために努めていきたいと思います。どうか、ご協力と応援をお願いいたします」


 ロージアは大きく頭を下げた。


「「「「わー!」」」」


 人々は手を振り、手を叩き、そして、声を上げた。

 そして、王宮から、街の建物から、紙吹雪が舞った。


「聖女様!」

「聖女様!」

「聖女様!」


 街中が盛り上がる。民達が皆手を振り上げて街を歩き回った。そこに聖女はいなくとも。我々は聖女様と共に歩んでいく。そう決意を固めたかのように。


「聖女様は、悪魔を倒したらしいぞ」

「俺も聞いた。悪魔を浄化したって」

「聖女様は悪魔を倒せる存在なんだ」

「なら、悪魔なんて怖くないな」

「聖女様、最強!」

「タカヒロ様、と、一緒になって?」

「聖女様の彼氏か?」

「婚約者じゃない?」

「素敵ねー」


 昨晩あったことが、詳細を隠された上で騎士や兵士から少しずつ広まっていく。民に安心感を与える。これも聖女の、女王の仕事。

 後日、このように対悪魔兵器のように扱われていることを知ったロージアは、顔を赤らめることになるが。


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